「品質管理をやればコストが下がる」と最初に言い出したのは、日本の品質管理の指導者であった。アメリカの産業界の考え方は、人の作業にミスはつきもの、ある程度生産品に不良品を入るのは仕方がないとしていた。 ○同じ物を大量に作れば、統計的にある程度の不 良が混入する事は仕方がない。 ○製品でも部品でも購入する際、ある程度の不良 品が混入しているのはやむをえない。 ○不良品を見つけたら、取り除き、良品と交換す れば良い。 ○ある経済的なレベルで生産を続ける事が最も良 い。過剰品質はコスト上昇を招く。 アメリカでは、こうした考え方が常識だったのである。アメリカが品質の追求が結果として製造コストの低下につながると考えるようになったのは、日本での品質管理での成功を見てからである。
日本企業のQCサークル活動は、「量産品にある程度の不良品の混入は仕方がない」というアメリカの考え方を乗り越えて、良い品質の製品づくりを追求していった。 QCサークル活動は、現場を最も良く知っている作業者が間違いやすい配線箇所、不良の出やすい組立作業を指摘し、ミスの起き難い作業に改善していく活動である。不良を見つけるたびにその原因を考え、対策を検討し、一つ一つつぶしていく活動である。 不良品が出れば 無駄なコストが発生する 不良品が多いと不良品を発見するための費用がかかる。ロットアウトになれば、再度全数検査で選別しなければならない。不良品が発見されれば修理をしなければならず、その作業費用もばかにならない。 修理ができれば良いが、中には、不良品を"おしゃか"と称して廃棄しなければならないものが出てくる。 不良品を作った場合の組み立て、製造に使用されたの労働のコストは取り戻す事ができない。作業の効率を下げているのは言うをまたない。作業効率が低下し、納期遅れになれば営業的には、機会損失も発生する。 不良品は、仕掛かり在庫として工場内に停滞し、原材料だけでなく、作業に要した労賃も含めた金利を負担しなければならない。 市場に出てしまった不良品は顧客に迷惑を掛けるだけでなく回収するための費用は大変高いものになる。 不良品が出れば 客離れが進む 一方、顧客は同じ物を同時にたくさん買うわけではない。たとえ0.01%というメーカーとしては、低いと思われる不良率でも、その不良品を購入した顧客にとって不良率は100%となる。 不良品にあたったお客さんは再び同じ会社の製品を買いたいとは思わないだろう。不良品により失った顧客の信頼を回復するためには大変な時間と費用がかかる。不良品を買わされたお客さんの気持ちになって考えよう。 このようにして日本の品質管理は、不良品と余分に掛かるお金を排除し、実際にコストを下げ、品質の良さを確保し、維持することによって、顧客の心をも味方につけた。 日本のQCサークル活動 COPQを出発点にしていた アメリカの経営者は、日本の品質管理を見て、「日本のテレビやラジカセ等の家電製品は、6シグマのレベルにある」と判断した。既に、日本のQCサークル活動は、「6シグマ」の基本概念である「COPQ(Cost Of Poor Quarity)」を出発点にしていたのである。 最初は、出荷品に不良品の混入を防止するために、検査の徹底が叫ばれた。しかし、検査を何段階行っても、厳しくしても不良品をすべて取り除くことはできない。 人間の五感で検査をする場合、その精度には限度がある。人間が神経を集中できる時間は20分程度が限度、それ以上は人間工学的にも無理。いくらその道のベテランを当てても、100%不良品を発見することは困難である。 そこで「いくら検査を徹底しても品質は良くならない。だから、最初から不良が出ないような作業をしよう」と叫ばれるようになった。QCサークルが華やかな頃、良く言われた言葉である。 当時、製造工程においては、部品の組み立や配線作業など、実際作業者の手に委ねられる割合が大きかった。作業指図書、工程指導書など作業マニュアルにミスの発生しやすい重要ポイントを詳細に記入し、作業のミス防止に努力した。 ベテラン作業者はミスの出やすい作業、不良品の発生しやすい部分について良く知っていた。彼らの指導で、作業ミスの出ない作業方法、作業しやすい作業方法を検討した。 作業方法は設計段階で決定される要素も多い。やりにくい作業、ミスのでやすい作業をなくするために、設計部門へ構造の改善を要求もした。 製品の工程不良率を下げるために、「層別、パレート図、特性要因図」など品質管理の手法も勉強して、原因を分析し、対策を検討した。 検査ですべての不良品を発見する事はできない。検査で品質は良くならない。 だからこそ、「作業をしっかりやろう、改善しよう」という合い言葉のもと、品質が向上し、コストが低減していったのである。