日本版
6シグマ
社長さんへの手紙

現場のノウハウ的な技術・技能の伝承が
上手くいっていますか?

 社長さんの会社でも、熟練者の技術・技能の伝承は難しいようですね。今回は、何故なのか、その理由を一緒に考えてみたいと思います。
  これまで日本の学歴社会では、技能者は技術者ほど評価されないという風土がありました。確かに、理工科系の学卒者は、給与面で中卒や高卒の技能社員よりも優遇されてきました。
 技能社員の多くは、熟練工としてのノウハウ的な技術・技能を身につけるために、時間もかけ、知恵も工夫面でも人一倍努力を積んできました。そして、会社にとって重要な存在となりました。
 しかし、学歴社会の面から、最近の技術環境の変化の面から、熟練工として努力して身につけてきた技術・技能は、実際には高い価値を有するものでも、それほど高く評価されることはありませんでした。


アウトソーシングで一層進む
技術・技能伝承の中断化! 
 
この背景には、一部の大卒の技術者自身が、先輩の中卒や高卒の社員が現場で磨いてきた技術・技能を高く評価しない、謙虚に学ぼうとしないという現実が確かにありました。さらに、大手の企業が簡単な技術をアウトソーシングするようになったことも原因の一つです。
 電子機器製造業の例ですが、アナログ技術からデジタル技術への転換が進んでいます。機械設備の高精度な自動化が進み、技術・技能社員の出番が少なくなっています。人的な技術・技能業務は外注に出すという考えで、先ずはアナログ的な人的技術・技能を下請けに任せるようになりました。さらに、デジタル技術を学んだ新卒の技術者には、アナログに関する技術・技能は魅力がなく、担当することを嫌がりました。そこで、アナログ的な技術・技能の下請け化が進み、その伝承が中断する状況が見られるようになってきました。
 その結果、下請けに業務を発注する側の若い技術者は、その製品に関して技術的見地から評価し、善し悪しを判断できる力を持ち合わせていません。何か問題が起きても下請けに投げるだけになっています。
 一方で、派遣社員への切り替えも進んでいます。これもアウトソーシングの一種です。派遣社員は、短期間契約が原則のため、技術を教える、伝えることをせず、下請けに出した仕事の実験マニュアルでの評価作業くらいしかさせていません。
 このマニュアル偏重の考え方も技術・技能伝承の中断原因になっています。彼ら技能社員は、自分達の仕事がコンピュータに置きかえられてしまうことを恐れ、熟練工としての技術・技能をオープンにすることもためらうようになりました。業務命令には逆らえず、表面的なことはオープンにして、微妙な点については開示を躊躇するようになりました。

 以上のにように、現場のノウハウ的な技術・技能の伝承が上手くいっていないことには、アウトソーシングを中心としたそれなりの理由がはっきりしています。しかし、それ以上に会社として、そうした技術・技能を部下や後輩に継承することの重要性を明確にし、技能社員の実際に教える能力や姿勢を高く評価する根拠を示さなければならないと思います。
 社長さん、御社でも、このようなことに思い当たりはありませんか。先輩から技術や技能を叩き込まれた人達は、先輩を尊敬し、いつまでも教えこまれたことへの感謝を忘れず、自らも後輩に伝えていこうとするでしょう。社長さん、社長さんの会社が持って現場の力を、先輩から後輩へと脈々と伝えていく企業文化を途絶えさせてはいけません。まだ間に合います。一緒に検討してみようではありませんか。(2007.11.23 小企業診断士 加藤文男)


「日本版6シグマ」からの提案
競争力を強化するため
アウトソーシングをどう活用するか?!

 日本の製造業を中心に、世界的な競争力を支えてきた現場の熟練工が持つノウハウ的な技術・技能がデジタル技術の進展やグローバル化によるコストの低減という潮流の中で急速に出番を失ってきている。即ち、アウトソーシングの進行である。
 アウトソーシングは製造拠点を中国やその他の国へ移すのみならず、技術開発段階の技術・技能の一部をも外注化するという形で進行している。「アウトソーシングをしなくてもいいようにするのは、アメリカの企業は何をどうすればいいのでしょうか」という質問に対して、ジャック・ウエルチは、GE社の「6シグマ経営」の中で、「アウトソーシングの潮流を変えることはできないし、帰るべきではない」と断定的な言い方をしている。
 そして、「アウトソーシングの良し悪しの議論はもう終りにしていいんじゃないか。今やアウトソーシングをどうやって止めるかではない。今後もグローバル化が進む市場で、競争力を強化するのにアウトソーシングをどう活用するかが問題だ」と言っている。
 GE社の「6シグマ経営」の中に、アウトソーシングの活用について具体的なインストラクションを見出すことはできていない。しかし、「市場は安くて品質の高いものを期待する。この期待に応えるためには、世界中を動き回って革新的なアイデアを手に入れようとしなければ無理だ」という指摘がある。

 こうした指摘を踏まえ、ここでは「日本版6シグマ」における「W型問題解決フロー」をベースにした「外部の異質な力を受け入れ、戦力化するプログラム」の一端を紹介することとしたい。しかし、アウトソーシングありきではない。
 第一は経営戦略、すなわち「6シグマ課題」の定義である。技術や市場環境の変化の中で、勝利していくために頻繁に見直し、定義し直すべき経営戦略である。今まで経営を支えてきた力は何だったのか。それは、これからの経営に普遍的な価値を有するのか。それでは一体どうしたらいいのか、自答自問を繰り返す。その上で、「あ、そうか」と、「何か」に思い当たる。それが「6シグマ課題」である。
 第二は「6シグマ課題」の解決に向けて、最適なアプローチ方法をデザインする。「6シグマ課題」は大まかな方向性を定めたもである。この課題について、現状把握を行い、具体的に取組むべきいくつかの「6シグマサブ課題」を設定する。
 第三は「6シグマサブ課題」に取り組むにあたり、内外のリソースをもとに「プロジェクトチーム」を設置する。社内から人材をあてる場合もあり、外部に委託する場合もある。いずれも、適材適所を心がけることが大切である。
 第四は「ブロジェクトチーム」別に、最適アプローチ策を具体的に探り、実行計画を作成し、その上で厳しく進捗を管理する。
 今日のアウトソーシングが否応なしに進む潮流の中にあって、「日本版6シグマ」は「外部の異質な力を積極的に取り入れ、戦力化するプログラム」の実践を重視している。それは、大まかな戦略を定め、必要に応じ積極的にアウトソーシングを行い、その上で社外に発注したプロジェクトも含め適材適所を重視し、しつこく進捗を管理し、たゆまぬ改善を取り入れ、成果を上げさせることに拘ったプログラムである。 


back