読書日記

組織を変える常識 
   適応モデルで診断する

中央公論新社
遠田 雄志

子供の能力と教育評価

東京大学出版会
東 洋


筆者の「日本版6シグマ」では、組織をM0型からM5型まで6つのモデルに分類し、問題解決力ある「M5型組織」をつくるためのアプローチ方法がプログラム化されている。この視点からの関心で『組織を変える常識』を手にしてみた。

 著者は、「どの組織にも特有の常識があり、意思決定や問題解決などの基礎となっている。しかし、この常識は古びたり、現実とズレたりしがちであり、どうすれば古い常識を捨て去り、新しい常識を身につけることができるか」という問題を提起している。確かに、個々の組織は個々の常識を持ち、それが個々の組織メンバーの行動指針となって、組織の常識を強化するしくみになっている。しかし、企業などの組織は、時代の流れに対応し、長期にわたって存続・成長していかなければならない。本書は、組織を4つに分類し、どのような組織が好ましいか、時代に対応して組織を変えるためには何が必要かを解明しようとしているが、中心的な内容は「組織の適応メカニズムモデル化論」であり、ハウツウもの書ではない。
 ただ、組織が適応的であるためにはコミュニケーションがよく行われていなければならないとして、特に経営トップ主導の教育と会話の重要性を説き、伊藤忠商事の丹羽宇一郎社長や中日ドラゴンズの落合監督などの例も紹介されている。組織の適応にとって大事なことは、いま適応している環境が成長過程にあるのか、衰退過程にあるのかの判断であり、その任にあるのが組織のトップである。トップのリーダーシップのもと、組織の中での教育と会話のコミュニケーションをバランスよく行われるようにしていかなければならないとしている。

 一方、『子供の能力と教育評価』からは、「組織の常識」の問題について、「教育評価」という視点から的確な示唆を読み取ることができる。この著書は筆者の学生時代のゼミの先生の手によるものであり、企業社会における能力や実績評価主義について、もう一度原点から考え直してみたいという思いで、最近偶然、書店で見つけた新版である。
 冒頭、「教育評価とは、子供を理解するための活動である」とある。子供は日常的な行動の中で、行動に引き続いて何が起こるかによって、その行動が適切であったか、なかったかを知り、適切であった行動は、その後同じような場面で繰り返され、適切でなかった行動は段々行われなくなる傾向が強い。そこで、一定のことを行った場合は、それが適切であると本人に知らせる仕組み、すなわち「教育評価」を設計しておけば、人間の行動を意図的に形成したり、制御したりできる「評価による強化」という理論を紹介している。
 企業組織の中でも、さまざまな評価がなされ、人間の行動を方向付けしたり、規制したりして「組織の常識」を形成する役割を担っている。著者も「校風や社風という、それぞれの集団の成員に共通に見られる行動のタイプは、その集団が持っている評価システムの性格を反映している。仲間がどういう行動の仕方、物の言い方、考え方をよいと思い、どういうのをよくないと考えるかが、知らず知らず大多数の人々の行動のタイプをまわりの人が高く評価するやり方の方向に引っ張る」と述べている。 

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