読書日記

西堀流
「ものづくりマネジメント」
シャープの「液晶スパイラル戦略」
に見る 

ものづくり道
原題「創造力」 講談社刊WAC出版
西堀栄三郎

凡人が天才に勝つ仕事術 シャープの謎
プレジデント社
長田貴仁    


 今回は 編集長より「技能伝承と技能者育成」という視点から、上記の2冊の推薦を戴いた。
  30年以上前、東京での学生時代を終え、関西系の企業に就職したが、社会人としての方向性が決まるきっかけとなったのは、「創造性開発」というテーマの研究会で、多くの京都学派の先生や仲間と出会ったことであった。西堀先生も、「ものづくり道」の著書の中で紹介しているが、「KJ法」の川喜田二郎先生が主催する湖北移動大学に講師でお見えになり、先生からキャンプの火を囲みながら南極の話などを夜遅くまで直にお聞きしたことを思い出した。

 本著は、「人が喜ぶモノをつくるために、本当に大切なことって何だろう」という問いかけで、あらためて先生の言葉や行動に耳を傾け直そうと復刻されたものである。今日、本著が再び取り上げられることになった背景を探り、私なりの理解で、その論調をまとめると、次のようになる。
 先ず出発点は、「他国で創造された製品や技術の種を買ってきて大量生産し、安く輸出していくという日本のやり方が批判されている今日、これからの我が国のとるべき道は単に製品を大量につくり安く売るということではなく、製品なり技術の種を創造することである」という問題提起である。つまりは、今後めざすべきことは、お客さんの方を向いて、お客さんが本当に喜ぶモノを創造することであり、一口で言うと「行き届いたモノ」、「会心の作」を創造することだ言っている。今日で言う顧客の感性に訴える「Customer Delight」につながるモノづくりである。
 そのためには、独創的な発明から身の回りの小さな工夫まで、あらゆる場面で創造性を発揮できる人間、創造性を生む組織が必要である。そこで西堀流ともいうべき、異質を認める「リーダーシップ論」や「チームワーク論」、「プロジェクトチームマネジメント論」が紹介されている。
  しかし、我が国では他の人や組織の力を借りて行う創造的な仕事が下手である。それは日本人に創造的なアイデアがないのではなく、そうしたアイデアを出しても周囲の人とか組織が協力して育てることが下手だからであろう。西堀先生が戦後日本の産業界に展開した、現場のアイデアや情報をもとに問題解決を図る「日本的品質管理技法」は、こうした日本の企業組織が創造性を発揮できるようになるための武器であると位置づけることとしたい。それは西堀流の「創造性を生む組織マネジメント技法」でもある。

 「凡人が天才に勝つ仕事術」は、「液晶」そのものを進化させる要素技術、リーズナブルなコストにするための生産技術、液晶を採用したテレビ、携帯電話、携帯情報端末等の応用製品の「3つの開発」を進め、相互に連携させて相乗効果を高める「液晶スパイラル戦略」を成功させたシャープの創造的な経営を紹介したレポートである。著者はシャープという一企業をとりあげ、日本企業のものづくりの強さを分析したという。社長のリーダーシップの取り方、創造する組織の作り方、やる気にさせる仕掛け、「Customer Delight」につながるテクノロジーオリエンテイド戦略は、いずれも西堀流ものづくりマネジメント「シャープ版」であろう。

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