読書日記

日本型会社経営における
ニッポンスタンダード構築の可能性
を考える


会社はこれからどうなるのか

平凡社
東大教授 岩井克人 

会計戦略の発想法

日本実業出版社
木村 剛 


 株価は一万円台に近づいているが、実質経済の回復はほど遠いというのが巷間の評価である。「会社はこれからどうなるか」で、経済学者の著者は「企業の業績不振、忍び寄るリストラの中、サラリーマンは現在働いている会社が、学生は自分たちが将来働くことになる会社が、これからどうなるのか、大いなる不安を抱いているはずだ」として、21世紀会社論を展開している。

 著者によれば、現在の日本経済の低迷状態は、従来の「日本型会社システム」がアメリカ主導型の「資本主義のグローバル化」、「IT革命」、「金融革命」という「三つの潮流」に対してミスマッチを起こしているからであり、日本のサラリーマンや学生の不安は、「会社は株主のものというアメリカ的な株主主権論の現実的な優位性の前に、従業員の利害を重視する日本型会社システムが敗北し、もはやこの世から消えてしまう運命にあるのではないか」ということに対する不安であるとしている。
 この不安に応えるためには、日本の会社が「三つの潮流」に対応できないでいる理由から解きほごす必要があり、それはとりもなおさずアメリカ型会社と対極的な構造をしている日本の会社の独自性に起因するものであり、従って、そもそも「会社」とは何かを問わなければならないとしている。そして、大半の紙面を「会社を株主のものとみなす株主論は、決してグローバル標準になりえない」ということを専門の会社法の研究に基づく論証に割いている。

 さらに、21世紀の資本主義においては、価値を産み出す人間の知識や能力を求めて、おカネは少しでも有利な投資先を求めて動き回らざるを得ないようになり、おカネの会社に対する供給者である株主の力は、会社のなかのバランス・オブ・パワーにおいて軽くなっていくとして、今後の日本型会社システムの可能性と従業員の働き方について具体的に言及している内容には説得力がある。

 「会計戦略の発想法」は、会計戦略の視点から日本型株式会社ガバナンスに関してニッポンスタンダード構築の可能性を主張した野心的大作である。政府の金融関連プロジェクトの委員も務める著者も「会計に対する無知と軽視」、「会計知らずの日本企業」等とたびたび指摘していることからもわかるように、会計素人にとっては取っつき難い難解な内容である。しかし、「経営者は会社財産を運用する受託者であり、その受託者である株主に説明する責任を負っており、会計とは経営者からの株主への財産運用の説明であり、会計の約束は委託、受託に関する約束である」という基本的なスタンスにたって読み進めば、日本型会社経営の強さをグローバルな視点から見なおすモノサシを会計に求め直すことの意味を理解することができる。
 著者も会計に対する認識不足が日本企業のたくましい復活を妨げているのではないかとして、日本の銀行はBIS基準等の会計の国際化の流れの中で巨額の損失計上を迫られる結果となり、バブル発生、崩壊、その後の不良債権問題、金融不安という日本経済の歯車が狂ってしまった根本には、日本型会社経営における会計の狂ったモノサシ、端的に言えば会計のウソがあったと言い切っている。

 日本経済がこのまま没落してしまっていいのか。日本の会社がいかにあるべきか、従業員は会社の中でいかに働くべきか。二つの著書から、それはいずれも日本の会社がポスト資本主義時代に向けてニッポン経営スタンダードを構築できるかどうかにかかっているということを読み取ることができる。


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