読書日記
日本企業変革の本質的課題」
を理解するために
  
日本能率協会 
人材教育 平成14年6月号  

V字回復の経営 2年で会社を変えられますか
日本経済新聞社
三枝 匡

トヨタ式最強の経営
「キャノン高収益復活の秘密


 日本企業が急速にグロ−バルな競争力を失っている。「V字回復の経営」で著者は、日本企業が、どうしてもこれまでの枠組みを壊さず、人を大切にする経営を守りながら、世界の企業に対抗できる競争力を回復したいとするならば、役員も社員も、今まで以上に経営的技量を身につけ、熱く燃え、集中的にいい仕事をするしかない、そうすれば余剰人員をかかえた沈滞企業でも元気になれる芽があるとしている。そして、日本企業をめざましく生き生きとした組織体に変えるために、どんな壁を乗り越えなければならないかについて、著者が過去に関わった5社での企業変革の実際を題材にして、その答えを提供しようとしている。スポンサー役の社長、力のリーダー、知のリーダー、動のリーダーと黒子のコンサルタントの5人が変革タスクフオースを結成し、どのような手順で、どのような紆余曲折を経て企業変革を進めていったか、ノンフィクション的なストーリーの展開には興味深いものがある。

 ところで、同じ出版社からの「キャノン高収益復活の秘密」と「トヨタ式最強の経営」は、日本企業の数少ない勝ち組と言われるキャノンとトヨタの経営の強さの本質を探ろうとする労作である。前著の実際版を確認したという思いで読んでみることにした。

 奇しくも、キャノンは研究開発型企業として、開発革新と生産革新をトップダウンとボトムアップを絡み合わせながらダイナミックに展開し、高収益を実現したが、その経営の根底は「終身雇用こそ力の源泉、事業を切っても人は切らず」であるとして、「ロイヤリティの高い組織力の強さ」が強調されている。一方、ずば抜けた強さで世界的に勝ち続けるトヨタは、終身雇用を守り、泥臭いほどに日本的な会社である。このトヨタが一番こだわっているのは、やはりロイヤリティの強い組織づくりであるという。改善で有名な「トヨタ生産方式」も、単なる方法論ではなく、トヨタのカルチャーがあってはじめて上手くまわるもので、他社が安易にまねてもトヨタほどの成果が上がらないという話には一理ある。もしトヨタが長期安定雇用を崩せば、それが「トヨタ生産方式」の空洞化につながりかねないということまで読みとることができる。

 同じく、日本で元気のいいホンダやリコーやソニーの経営を紹介した著書も多い。読者の皆さんに、あらためてこれらの企業の競争力の源を探ってみることをお勧めしたい。共通した何か本質的なものがはっきりしてくるはずである。


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