IS9000には
品質レベルの改善・向上は
盛り込まれていない
 

 ISO9000の規格の要求事項は、汎用性があり、業種、業態、規模、並びに提供する製品を問わず、あらゆる組識に適用できるとされている。手順書に従って同じ作業やサービスを行えば、同じレベルの品質は維持できる。
 
確かに、ルール化、マニュアル化、責任の明確化、そして、ドキュメント化が進めば、契約したある一定レベルの品質の製品やサービスは継続して供給できる。
 
経営者の品質に関する考え方や方針を文書に表し、全員に理解させ実行させるシステムとしても有効である。作業に当って、マニュアルを忠実に守らせることにより、あるレベルの水準を維持することもできる。
 国際規格ということもあり、建設業、サービス業、学校、官公庁などの分野でも、IO9000を採用し、認証を受けつつある企業や団体が増えている。
 ISOの認証を与える審査機関は、その多くが認証を取得するためのコンサルタント機能を兼ねている。しかし、コンサルタントは、認証を取得するまで、文書化し、そのルール通りに作業するよう指導監督するだけである。現在の品質レベルを大幅に改善・向上させるという考えは盛り込んでおらず、監査の対象になっていない。
 しかも、認証基準のレベルを上げると合格する企業が少なくなり、その結果、その審査機関を通して認証を受ける企業が少なくなって、審査機関としての経営に悪影響が出てくるというジレンマがある。また、審査する機関も一旦合格にした以上、管理状態がたとえ悪くなっても不合格として、認証を取り消すことは難く、審査が甘くなる傾向もあることが推測され、指摘もされている。


ISO9000
改善の意欲も損ねかねない

 一方で、ISO9000の文書化には、作業工程での、熟練技能者の頭の中にあるものまでも組み入れることが要求され、大変な労力とコストがかかる。また、できあがる文書の量も膨大となる。
 日本の企業においては、文書化がそれ程徹底していなくとも品質レベルは高く維持管理することができている。このような工場で改めて詳細に文書化しても、かかる労力とコストの割に品質向上などの効果は見えにくい。
 また文書は、現場での工程改善や手順の変更がある度に変更しなければならない。品質改善や効率改善の自由度を失わせ、意欲も損ねる。ここではQCサークルで発揮された人間の自主性尊重、人の能力への信頼という考えは見えない。
 
 日本企業の多くには、以心伝心、みんなで仲良く助け合いの精神で人間としての弱みの部分を補完し、品質を維持してきた経験と自信がある。日本企業に働く社員には、マニュアル通りに仕事をすることに少なからず抵抗もある。特に、ホワイトカラーには、その抵抗感は大きい。
 しかし、ISO9000は、最近多くの企業が採用している。経営トップがやるという方針を明確にすれば担当者も従がわざるを得ない。確かに、金と労力はかかるが、品質に弊害が出ることはない。マニュアルを作成し、その通り作業させることは悪いことではない。組織的にも、これに反論できる根拠もない。「品質を維持するためにマニュアルを整備する」といえば反対はできない。
 
 採用した企業では、トップの方針通りに、認証取得を推進したところが多い。日本企業で不十分だったマニュアル化、文書化で作業を見直すきっかけとなった点では評価されるている。実務担当者として、品質マニュアルを作成したり、運用にあたった幾人かの人に実態を聞いてみたが、資料作りに大変な労力と金をかけたが、認証という目標を達成したことに対する満足感を持った人も大勢いる。
 しかし、取得したことによって、販売金額を大きく伸ばし、利益に結び付いたと自信を持ってその効果について発表する人は少ない。費用と労力をかけた割合に効果にはまだ直接結び付いていないようである。

 トヨタ自動車は、ISO14001には非常に熱心に取り組んでいるが、ISO9000の認証は受けていない。ISO4001は、地球環境保護の観点から取り組む価値と必要性を認めている。トヨタは十分お客様を満足させることのできる良い品質水準を保つシステムを、既に構築できているという自信持っているのであろう。「ISO9000の認証を受ける為にわざわざ費用と労力をかける必要はない」と、品質管理に自信があるトヨタ自動車は、一つの見識を示している。
 アメリカやカナダの企業は、欧州向けの輸出をするために必要な場合に限って認証取得に取り組んでいると言われる。業務のルール化やマニュアル化、責任の明確化のために、ISO9000を改めて取得する必要性については、それほど熱心であるようには見えない。


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