日本生産管理学会発表抄録

革新的な品質向上とモノづくりにおける「5つのガイドライン」
ー日本版6シグマと人材育成の視点からー
5guidelines of Inovational Quality Controle
 in 6sigma Activities
2002.2.24
於 広島修道大学

ベルヒュード国際経営研究所
井上 仁
Belhyud International Management Institute
Jin Inoue


要約
デフレ不況が深刻化する中、日本の企業がグロ−バルな低価格化競争に生き残っていくためには、政府の構造改革施策に依存するだけでなく、経営課題を明らかにし、自らの手で解決できる力をつけていかなければならない。それは既存事業の見直しにせよ、新規事業の創出にせよ、右肩上がり成長時代の横並び競争とはまったく異なった自立化競争路線であり、その1つの道が「日本版6シグマ活動の追求と展開」である。
「日本版6シグマ」は、顧客のニーズに確実に、スピーディに、かつローコストで応えるために、あらゆる業務の生産性を向上させ、維持していくための、経営と現場が一体となった問題題解決活動である。言い換えれば経営や業務、製品、サービス等の品質不良によって放出される無駄な損失を限りなくゼロに近づけ、利益を確保していくことを目的とした、日本企業の再生を懸けた活動である。

ここでは、製造業における革新的な品質向上とモノづくり活動としての「日本版6シグマ活動」について、特に「5つのガイドライン」を基本にした人材育成と組織強化課題について紹介することとしたい。


日本版6シグマとTQCの違い

日本の企業経営には、日本版6シグマに類似した管理手法として、製造現場を中心とする目標管理と品質管理をドッキングさせたTQC活動がある。しかし、両者は実際的な取り組み方において、次の2つの点で、根本的な違いがある。

(1)「TQC活動」は、欧米の企業に追いつけ追い越せの時代、社員が仕事のやり甲斐や生き甲斐を求めて、自主的に自発的に取り組んだボトムアップ的な活動であった。

(2)「日本版6シグマ」は、グローバルな競争に勝ち残っていくために、特にコスト低減や顧客満足度アップのために解決すべき経営課題−「6シグマプロジェクト」を設定し、社員に挑戦させ、成果は正当に評価し、報えるというトップダウン的活動である。

日本企業のかつてのTQC活動は、和と協調を重視する組織風土の中で、現場のブルーカラーを中心とした、従業員の生き甲斐や働き甲斐にもとづいた自発的で自主的な改善活動への取り組みに支えられていた。この点で、「日本版6シグマ」もTQC活動と本来的に対立するものではない。しかし、TQCの成功体験を、これからの「日本版6シグマ」に生かせるかどうかは、モノづくりやサービスの問題に限定し、現場のやる気やがんばりに依存するだけでなく、経営上の重大な課題の解決を目的として、経営トップ層の責任とリーダーシップで、スタッフ部門も含めた全社的な取り組み体制をつくることができるかどうかにかかっている。

5つのガイドライン
アメリカの「6シグマ活動」には、「QC」の時代から「COPQ」(Cost Of Poor Quality)と「CTQ」(Critical To Qality)という2つの重要な指導概念があった。つまり、品質不良のために放出される無駄なコスト「COPQ」をいかに極限までゼロに近づけるか、そのために品質不良に影響を与えている内部要因「CTQ」を明確にし、解決するという考えである。
「日本版6シグマ」でも、この2つを極めて重要な指導概念としている。つまり、「日本版6シグマ」も、100万個の製品中、3.4個程度しか不良を発生させないような品質保証レベルを実現することが目標としている。そのためには顧客ニーズに応えることが第1であり、そのニーズに応える上で何が障害となっているのかを明らかにし、その解決を通して、放出される無駄なコストを限りなく極小にしていこうとするプロジェクティブな品質管理活動である。
 
しかし、そのためには、個々の製品やサービスの品質問題を越えて、経営方針の設定や意志決定のあり方、業務の効率性といったあらゆるビジネスの局面を根本的に見直していく必要がある。この意味で「日本版6シグマは、経営と現場が一体となった経営革新のための総合的な問題解決活動」であると言うことができる。

そこで「日本版6シグマ」では、先の「COPQ」と「CTQ」の2つに、「VOC」(Voice Of Customer)と「GQ」(Good Quality)と「SSP」(6sigma Project)を加えた「5つのガイドライン」を、「6シグマプロジェクト活動」を効果的に展開していくために不可欠な一連の手順として設定した。
つまり、いずれの「6シグマプロジェクト」への取り組みも、「COPQ」を限りなくゼロに近づけるための問題解決活動である。そのためには、「VOC」を把握し、障害となっている「CTQ」を絞り、どこまでその「VOC」に応えるべきか、目標としての「GQ」の内容とレベルを明確にしなければならない。その上で、その「GQ」を実現するために解決しなければならない「SSP」を設定するという手順である。(参照:「
日本版6シグマ5つのガイドライン」)

(1)GQ(Good Quality)の追求

「6シグマ」は既に述べたように、統計的に言えば100万個の製品中3.4個程度の不良しか出さない品質レベルを目標としている。「日本版6シグマ」では、この6シグマレベルの品質を目標として当面実現すべき品質内容とレベルを「GQ」(Good Quality)」と呼ぶこととした。そして、「日本版6シグマ」は、この品質をスピーディに、確実に、ローコストで実現するための問題解決活動であるとして、「GQの追求」を第1のガ イドラインとして設定した。
ところで、「GQ」という概念には、次のような「2つの視点」が必要である。「製品やサービスの品質の平均をいかに高いレベルに上げるか」、同時にそうした高いレベルにおいて、「製品やサービスの品質のバラツキをいかに小さく押さえるかである。この意味で、「日本版6シグマ」は、製品やサービスの品質向上のための改善を模索し、実現するだけでなく、その改善の成果を維持、管理していくことがもっと重要な課題になってくる。

(2)COPQ(Cost Of Poor  Quality)の認識

では、今なぜ、6シグマレベルの品質をめざさなければならないのか。そこであらためて、「日本版6シグマ」のための第2のガイドラインとして、「COPQ(Cost OfPoor Quality)の認識の重要性」という問題を取り上げることとした。この「COPQ」という概念にも、先の「GQ」との関連で、次のような「2つの視点」が必要である。
 1つは、「製品やサービスの品質が不良であることによって発生し、放出される無駄なコストの重大性を認識する必要がある」という視点である。品質不良が発生すれば、その改善や後始末に直接的、間接的にかかるコストの総計は、大変大きいものになる。無駄なコストとして放出される「COPQ」がいかに大きい額になるかを把握し、これをゼロに近づけることが、極めて今日的な経営課題であるという認識が重要である。

「COPQの第1の側面」
・不良品を発見するための費用
・不良品を選別するための費用
・不良品の修理費用
・不良品の廃棄費用
・不良品の製造コスト
・市場に出た不良品の回収費用
・販売上の機会損失
・信頼回復のための費用

2つ目の視点は、製品やサービスの供給に関連する「業務の品質」、言い換えれば業務の生産性が低いために発生し、放出されるコストや失われる機会損失を無視してはならないということである。製品やサービスの開発から生産、供給までの全体的な関連業務の効率性の問題である。初期の計画や競合他社と比較して、スピードと確実さとコストにおいて、どれだけの水準であったかという視点である。
現実には、この第2の視点から見た全体業務の効率の低さが、第1の視点から見た「COPQ」に大きさな影響を与えている。また、今日グローバルな低価格化競争が進行する中で、販売価格のアップやコスト低減の努力はほぼ限界に達している。この意味で、ここ当面は、この第1、第2の視点から見た「COPQ」をいかにして限りなくゼロに近づけていくかは、極めて重大な競争課題になっていくはずである。

(3)VOC(Voice Of Custmor)の重視

「GQ」を実現し、「COPQ」を改善するためには、顧客は何を「GQ」と考えているかをはっきりさせなくてはならない。つまり、顧客の声「VOC(Voice Of Custmor)」の重視である。「COPQ」の大きさは、「GQ」と「VOC」の乖離の大きさによって決まる。また、この乖離の大きさは、「COPQ」としてのロス金額の大きさだけでなく、今日の経済環境下では、即座に顧客の信頼喪失につながりかねないという点で切実である。
そのために「日本版6シグマ」では、第3のガイドラインとして、「VOC(Voice Of Custmor)の重視」を取り上げている。「COPQ」を限りなくゼロにするということは、顧客の声である「VOC」を重視し、これに可能な限り応えていくことであるからである。

(4)CTQ(Critical To Quality)の絞り込み

しかし、現実的には、「VOC」を重視するということは決して容易なことでない。「VOC」の大事さはわかっていても、不注意や実力不足でいたずらに「COPQ」を大きくしてしまっているのが普通である。しかし、「COPQ」には、必ずはっきりした原因がある。そうした原因は、ものづくりやサービス提供の現場のみならず、経営方針や意志決定のあり方、関連部門の業務全般にわたって存在している。
そこで、「日本版6シグマ」では、「CTQ」(Critical To Quality)という概念を、「VOC」に十分対応できない理由、言い換えれば、品質不良を発生させてしまう内部的な要因という意味に解釈し、第4のガイドラインとして位置づけた。 従って、「CTQ」は「VOC」と対立する概念であり、結果的に「COPQ」に重大な影響を及ぼしている。「VOC」を重視し、応えるためには、「CTQ」を広く深く探り、これを排除するか、根源的に解決するかしなければならない。

(5)SSP(6 Sigma Sub−Project)の解決

「日本版6シグマ」は、以上「4つのガイドライン」を基本とした取り組みになっている。つまり、第1に、「COPQ」の大きさを金額換算することによって、「6プロジェクト」の重大性を認識する。
第2に、「COPQ」を改善するために、最優先で「VOC」を把握する。第3に、「VOC」に応えるために、競合他社のレベルも調査した上で、障害となっている「CTQ」を絞りこむ。
そこで、5つ目のガイドラインとして、「VOC」と「CTQ」を踏まえ、「GQ」の実現を目標に解決すべき課題を決定しなければならない。「日本版6シグマ」では、この課題を「SSP」(6Sigma Sub−Project)とネーミングした。
「SSP」は、トップダウンで設定された「6シグマプロジェクト」を実現するために、関連業務部門が解決しなければならない「現場の課題」である。
ここで大事なことは、「日本版6シグマは、決して理想の追求ではない」ということである。一般に「VOC」は無限であり、その要望に100%応えることは本来的に不可能である。また、「VOC」に対応するためには、「時間、資金、人、アイデア、技術、問題意識・・・・」等の制約条件が多くあるのが普通である。
そうした制約の中で、最低限、「何のために、何を、どこまで、どのように、いつまで解決すべきか」を明らかにしたものが「SSP」である。「SSP」は、最善を目指すが、決して万全なものではない。
従って、「SSP」は、現場の取り組み案として提案され、「6シグマプロジェクト」の責任者によって、経営判断で最終決定されるべき性格のものである。

日本版6シグマ実践の基本

「日本版6シグマ」の実践の基本は、この「5つのガイドライン」に沿って、1つづつ決着をつけながら最終的に「6シグマプロジェクト」を実現するために取り組むべき課題「SSP」を設定し、その解決にチーム全体で適材適所の実行体制をつくることにある。
この一連の実践にあっては、PDCAの外にMAIC「M:Measure、A:Analysis、I:Improvement、C:Controle」の4つのステップからなるアプローチ方法がある。現実のプロジェクトでは、参加メンバー間の価値観や問題意識のバラツキ、関連組織間の利害関係等の問題が複雑に絡んでおり、これらを解きほぐしながらのアプローチが欠かせない。そこで「日本版6シグマ」では、これらに代わるフローとして、「問題提起、現状把握、サブプロジェクトの設定、実行体制の提案、成果の追求と維持」の6つの問題解決場面で構成する「W型問題解決フロー」をベースに「フローチャート」をおすすめしたい。(参照:「
日本版6シグマフローチャート」)
先ず、「問題提起ラウンド」で「COPQを限りなくゼロに」という「6シグマプロジェクト」についての基本的認識を全体で共有化する。「現状把握ラウンド」では、「VOC」と「CTQ」を絞り込み、「サブプロジェクト設定ラウンド」では、「6シグマプロジェクト」を実現するために解決しなければならない課題「SSP」を設定する。さらに後半では、「SSPの実行分担体制づくりラウンド」から「成果の追求と維持ラウンド」へとつなげ
る。

最後に

このフローでは、「Semi−Exact Science」としての情報処理技術をベースに、「CTQ」と「SSP」をコンセプト化するステップ重視している。また、「6つの問題解決場面」を1つずつ決着をつけながら段階的に進めることを原則としている。なぜなら、そうしたステップの踏むことが、参加メンバーやチームのプロジェクト課題意識を高め、問題解決力を向上させる一番の近道だからである。なお、「PDCA」や「MAIC」と同様、各場面で種々の問題解決スキルが必要であるが、その紹介は、別の機会にゆずることとしたい。


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