日本生産管理学会
発表抄録


日本版6シグマ
モノづくりにおける
基本フロー

於 広島修道大学


要約
 デフレ不況が深刻化する中、日本の企業がグロ-バルな低価格化競争に生き残っていくためには、政府の構造改革施策に依存するだけでなく、経営課題を明らかにし、自らの手で解決できる力をつけていかなければならない。それは既存事業の見直しにせよ、新規事業の創出にせよ、右肩上がり成長時代の横並び競争とはまったく異なった「自立化競争路線」であり、その1つの道が「日本版6シグマ経営」への追及である。

 「日本版6シグマ」は、顧客のニーズに確実に、スピーディに、かつローコストで応えるために、あらゆる業務の生産性を向上させ、維持していくための、経営と現場が一体となった問題題解決活動である。
 「6シグマ」は、経営や業務、製品、サービス等の品質不良によって放出される無駄な損失「COPQ」を「6σ」化することを目的とした、日本企業の再生を懸けた、経営と現場が一体となって取組む業務革新活動である。

 ここでは、製造業における革新的な品質向上とモノづくり活動としての「日本版6シグマ」について、特に「5つのガイドライン」を基本にした人材育成と組織強化課題について紹介することとしたい。


日本版6シグマとTQCの違い

 日本の企業経営には、「日本版6シグマ」に類似した管理手法として、製造現場を中心とする「目標管理」と「品質管理」をドッキングさせた「TQC活動」がある。しかし、両者間には、次の2つの点で、根本的な違いがある。

(1)「TQC活動」は、欧米の企業に追いつけ追い越せの時代、社員が仕事のやり甲斐や生き甲斐を求めて、自主的に自発的に取り組んだボトムアップ的な活動であった。

(2)「日本版6シグマ」は、グローバルな競争に勝ち残っていくために、コスト低減や顧客満足度アップのために、各部門が解決すべき「6シグマ課題:業務革新課題」を設定させ、社員に挑戦させ、成果は正当に評価し、報えるというトップダウン的問題解決活動である。

 日本企業のかつての「TQC活動」は、和と協調を重視する組織風土の中で、現場のブルーカラーを中心とした、従業員の生き甲斐や働き甲斐にもとづいた自発的で自主的な改善活動に支えられたものであった。
 
 「日本版6シグマ」も「TQC活動」と本来的に対立するものではない。「日本版6シグマ」は、モノづくりやサービスの問題を中心に、経営方針や目標の実現に向けて、経営トップの責任とリーダーシップで、顧客重視の全社的な取り組み体制をつくろうとするものである。



アメリカ企業の「6シグマ」
 アメリカの企業が日本の「TQC」に対抗して取組んだ「6シグマ」には、「VOC(Voice Of Custmer)」、「CTQ」(Critical To Quality)」、「COPQ(Cost Of Poor Quality)」という3つの重要な概念がある。

 「顧客の声:VOC」を重視し、品質不良やコストアップに影響を与えている内部の不良要因「CTQ」を明確にし、解決することによって、無駄なコスト「COPQ」の発生を極小にする、つまり「100万個の製品中、3.4個程度しか不良を発生させない、6σレベルの品質保証レベルを実現する」という考え方である。

「日本版6シグマ」における
ものづくりの基本

 次は、「日本版6シグマ」における基本的な「5つのガイドライン」である。
①「COPQ」
②「CTQ」
③「VOC」
④「GQ」(Good Quality)
⑤「SSP」(6sigma Project)

 「日本版6シグマ」は、アメリカの「6シグマ」をモデルとして、経営と現場が一体となって取組む全社的な業務革新活動である。「COPQ」を限りなくゼロに近づけるために、各部門がそれぞれ、「VOC」と「CTQ」の実態を把握し、解決すべき「6シグマ課題:SSP」を設定し、「GQ」の実現に取組む全社的な問題解決活動である。


(1)GQの追求
 「6シグマ」は既に述べたように、統計的に言えば100万個の製品中3.4個程度の不良しか出さない「6σ」の品質レベルを目標としている。
 
 「日本版6シグマ」では、「6σ」レベルの品質を「GQ」と呼ぶ。「日本版6シグマ」は、この品質をスピーディに、確実に、ローコストで実現するための問題解決活動であるとして、「GQの追求、実現」」を第1のガイドラインとしている。

「GQ」についての「2つの視点」
①「製品やサービス」の品質の平均をいかにして高いレベ
 ルに上げるか。
②「製品やサービス」の品質のバラツキをいかに小さく押
 さえるか。
 
 「日本版6シグマ」にとって、製品やサービスの品質向上のための改善を模索し、実現するだけでなく、その改善の成果を維持、管理していくことが重要な課題である。


2)COPQの認識

 今なぜ、「6σレベル」の品質をめざさなければならないのか。そこで、「日本版6シグマ」は、第2のガイドラインとして、「COPQの認識の重要性」という問題を取り上げている。この「COPQ」という概念にも、先の「GQ」との関連で、次のような「2つの視点」が必要である。
 
 1つは、「製品やサービスの品質が不良であることによって発生し、放出される無駄なコストの重大性を認識する必要がある」という視点である。
 
 品質不良が発生すれば、その改善や後始末に直接的、間接的にかかるコストの総計は、大変大きいものになる。無駄なコストとして放出される「COPQ」がいかに大きい額になるかを把握し、これをゼロに近づけることが、極めて今日的な経営課題であるという認識が重要である。

「COPQの第1の側面」
・不良品を発見するための費用
・不良品を選別するための費用
・不良品の修理費用
・不良品の廃棄費用
・不良品の製造コスト
・市場に出た不良品の回収費用
・販売上の機会損失
・信頼回復のための費用

 2つ目は、製品やサービスの供給に関連する「業務の品質」、言い換えれば業務の生産性が低いために発生し、放出されるコストや失われる機会損失を無視してはならないという視点である。製品やサービスの開発から生産、供給までの全体的な関連業務の効率性の視点である。

 今日グローバルな低価格化競争が進行する中で、販売価格のアップやコスト低減の努力はほぼ限界に達している。「日本版6シグマ」は、この第1、第2の視点から見た「COPQ」の全体を、全部門の業務革新によって極小にしていくという考え方に立っている。


(3)VOCの重視
 
「GQ」を実現し、「COPQ」を改善するためには、顧客は何を「GQ」と考えているかをはっきりさせなくてはならない。顧客の声「VOC」の重視である。「COPQ」の大きさは、「GQ」と「VOC」の乖離の大きさによって決まる。また、この乖離の大きさは、「COPQ」としてのロス金額の大きさだけでなく、今日の経済環境下では、顧客の信頼喪失につながりかねないという点で切実である。

 そのために「日本版6シグマ」では、第3のガイドラインとして、「VOCの重視」を取り上げている。「COPQ」を限りなくゼロにするということは、顧客の声「VOC」を重視し、これに可能な限り応えていくことである。

(4)CTQの絞り込み

 現実的に「VOC」を重視するということは決して容易なことでない。「VOC」の大事さはわかっていても、不注意や実力不足でいたずらに「COPQ」を大きくしてしまっているのが普通である。
 
 「COPQ」には、必ずはっきりした原因がある。ものづくりやサービス提供の現場のみならず、経営方針や意志決定のあり方、関連部門の業務のあり方全般にわたって存在している。
 
 「日本版6シグマ」は、「CTQ」を、「VOC」に十分対応できない理由、言い換えれば、品質不良や業務不良に関わる「内部的な要因」という意味に解釈し、第4のガイドラインとして位置づけている。
 
 「CTQ」は「VOC」と対立し、「COPQ」に重大な影響を及ぼしている概念である。「VOC」を重視し、「VOC」を満足させるためには、「CTQ」を広く深く探り、これを根源的に解決しなければならない。

(5)SSPの設定、解決

 次は、各部門が「VOC」と「CTQ」の現状把握を踏まえ、「GQ」の実現を目標に解決すべき「業務革新課題」を設定し、その解決に取組む。「日本版6シグマ」では、この課題を「SSP:6シグマ課題」と命名している。

 「SSP」は、トップダウンで設定された「経営方針や経営目標」を実現するために、全部門が解決しなければならない「現場の課題」である。「日本版6シグマは、決して理想の追求ではない。一般に「VOC」は無限であり、その要望に100%応えることは本来的に不可能である。また、「VOC」に対応するためには、「時間、資金、人、アイデア、技術、問題意識・・・・」等の制約条件が多くあるのが普通である。
 そうした制約の中で、「何のために、何を、どこまで、いつまでどうする」というを「戦略的課題」の全体をステートメント化したものが「SSP]である。

日本版6シグマ実践の基本

 「日本版6シグマ」の実践の基本は、「5つのガイドライン」に沿って、それぞれのラウンドに沿って進めることである。
 この一連の実践にあっては、「DMAIC:Define →Measure→Analysisi→Improvement →Controle」の4つ」の「Critical Thinking Approach」というアプローチ方法がある。

 現実のプロジェクトでは、参加メンバー間の価値観や問題意識のバラツキ、関連組織間の利害関係等の問題が複雑に絡んでおり、これらを解きほぐしながらのアプローチが欠かせない。
 
 そこで「日本版6シグマ」では、「DMAIC」に代わるフローとして、次のような「6つの問題解決ラウンド」で構成する「W型問題解決フロー」をベースにしたアプローチ方法をとっている。

①問題提起:「経営方針、目標」の明確化、共有化

②現状把握:「VOC、CTQ」の把握、整理
③具体策:「VOC、CTQ」解決のための「具体策」の
     ラベル化
④基本的課題:「KJ法」による「具体策」をもとにした
     「基本的課題」のコンセプト化、A型図解化、戦
     略6シグマ課題:SSP」の設定
⑤実施計画:「SSP」別「実施計画」の作成
⑥進捗管理:「SSP別」進捗管理

最後に

 このフローでは、「Semi-Exact Science」としての情報処理技術をベースに、「CTQ」と「VOC」からの「具体策」のラベル化、「KJ法」を使った「SSP」のコンセプト化、A型図解化のラウンドを重視している。また、「6つの問題解決ラウンドを1つずつ決着をつけながら段階的に進めることを原則としている。
 なぜなら、こうしたステップの踏むことが、参加メンバーやチームの問題意識を高め、問題解決力を向上させる一番の近道だからである。


日本版6シグマ
基本フロー



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