アルメニア共和国 |
2007年2月28日で、当初計画した3年間3回の本邦研修を終了した。終了にあたり本研修委託先JICA横浜からの依頼により、国立中小企業開発センター及び貿易開発局に対して本邦研修に関する報告書の作成と共に、受講した研修生と面談し、その後の活躍状況に関するフォローアップ調査を実施した。 アルメニアには、当時JICA本部より、長期間トレーナーズトレーニングなどのために専門家を派遣しており、毎回その年度に派遣する研修生の選考にあたるとともに、研修生が帰国する際に評判や反応を確認した。以下、3年間3回にわたる研修生に関する評価も加えた調査報告である。 |
出張目的 出張期間 概 要 |
本邦研修の実績報告 JICA横浜から受託の2005年から3年間の本邦研修が終了した。合計16名が本邦研修に参加した。研修生の所属先と各年度の受講人数は下記の表の通りとなった。
また、来訪したすべての受講生が非常に優秀で研修の実行にあたり、積極的に意見や提案などがあり、適正に運営できた旨を報告した。 BSPからの研修生の人選にあたって、JICA本部から派遣された専門家が、BSPの実態や研修生の能力を十分配慮し、研修生への動機づけが適切になされていた。この専門家による受生への動機づけが3年間に研修に大きな効果をもたらした。 受講生16名中、派遣元から退職したものが1名あった。国立中小企業開発センター(SMEDNC)のタービッシュ支店からの派遣であったがこの1名を除き、全員と直接面談し、フォローアップ調査は順調にできた。 訪問の目的や趣旨などを的確に理解し、政府関係機関として機能的、組織的に対応してくれた。 特にBSPのトレーナーやコンサルタントは、全て面談や訪問対象として入っており、その時間通りに正確に集合し、非常に協力的で気持ちよかった。 3年前に事前調査にアルメニアを訪問したが、その際は企業訪問を依頼したが、連絡が十分とは言えなかった。今回は、SMEDNCが面談や訪問の調整を担当していたが、その主旨を良く理解し、非常に効率の良い面談計画と訪問スケジュールがアレンジされていた。政府機関とその協力メンバーのBSP所属のコンサルタント間の協力体制が非常に良くなっているように思えた。大きな変化は一つの進歩と見たい。 |
研修生の現況 直接受講生本人及びJICA派遣専門家からのヒアリングによって確認できたこと。 政府機関 2005年度研修生 SMEDNCのRoli県の支店の県庁所在地バナゾール市の代表者としての立場で活躍していた。 訪問調査の主旨をよく理解し、多くの企業を訪問できるように各企業との連絡を取ってくれた。2007年度の研修生との人間関係も良く、アルメニア北部のバナゾールにおいて、近隣工場地帯の中小企業を支援する立場におり、これから更に貢献すると思われる。 Mr.Tadevosyan Syunik 2006年度研修生 BSPの動きをモニタリングする立場にある。各支店に毎月2回程度出かけて、財政支援に関する情報調査を行い、年末にはアニュアルレポートを作成する。今回のプロジェクトのSMEDNCの評価員の一人として会議に出席した。 Ms.Susanna Khachatryan 2007年度研修生 6名をまとめる役として日本でも中心になっていた。SMEDNCの設立当時からの古参スタッフとして、2005年度、2006年度の研修生とも良い関係にあり、SMEDNCの中で3年間の本邦研修生16名のまとめ役として活躍が期待できる。 トレーナー研修(TOT)及び本邦研修を生かし、更に能力を高めるための情報交換の場としてのラウンドテーブルの運営には、彼女の力がぜひ必要である。 Mr.Asahot Sarkhoshyan 2005年度研修生 中小企業開発局(SMEDDN)から参加であったが、韓国への業務出張中で会うことができなかった。 商工会議所からの研修生 BSP関係の研修生 Mr.Voskanyan Arthur(ボスカニヤン)社長 2006年度研修生 Ms.Lusya Badiryan ボスカニヤン社長の妻 2007年度研修生 Tourism Parberakan LLC は、1995年に設立した会社で現在社長を含め、5名のスタッフと契約ベースのコンサルタント4~5人で運営するBSPのひとつ。 2006年ボスカニヤン社長が参加した日本研修の経験を社員全員に伝えたと報告があった。この会社の部長であり、社長の妻であるルシア氏が2007年の本邦研修に参加し、グループのリーダー的な存在で積極的に質問もしていた。 南部のカパンや北部のデリジャン地区が軍事から観光へと政策的にシフトしており、この会社が観光コンサルティングに応札している。ホテルの従業員の教育も担当するなど活躍している。同社の部長でトレーナーでもある妻ルシア氏も、日本研修において「アルメニアの観光業発展促進のために積極的な企業と手を組み、コンサルティングサービスの活動の幅を広げる」と意気込みをのべており、更なる発展に貢献するものと期待される。 VAK Consulting LLC 2006年度研修生 Ms.Nune Gabrielyan VAK Consulting LLC社は、創業支援及び人材育成に関する研修やコンサルティングの会社である。SMEDNCからの受注の比率は約50%程度である。若く、経験が少なく、本邦研修でも質問や意見が少なかったメンバーのひとりであった。若い女性であるが期待できる存在を確認できた。2006年の研修以来、自分自身の意識に大きな変化があったという。研修などで日本に近づきたいという意識が強くなった。アルメニアにJICAより派遣中の園田専門家の話では、SMEDNCの研修の講師を担当するまでに成長しており、推薦して良かったとの報告があった。 Logicon Development LLC 2006年度研修生 Ms.Marianna Petrosyan 若く経験が少ないメンバーのひとり。帰国して、中小企業の研修を実施している。SMEDNCの入札では、コンサルティングと研修で応札している。全体の比率としては、販売金額の15%程度である。独自の専門分野では、経理に関するサポートを行っている。 2008年から、新しくプレサービス(無料の研修、又は、コンサルティング)を開始した。 本邦研修で彼女自身の物の見方が変わったという。また、日本で見たことを事例として説明することで彼女に対する信用が高まったと自信を持ったとの報告があった。 彼女がコンサルティングするESCAD(高給衣料品やバッグの小売店)及びマザーケア(子供服や女性向衣料品の小売販売)を訪問した。ESCADは、メインストリートに向いてはいないが、店内の展示は、高級品らしくアルメニアにおいては垢抜けた感じである。マザーケアは、子供婦人服専門店で展示方法は他の店と比較し、整然としており、他の店とは違った感じを与えている。2006年の商店街診断が効果的であったようだ。 BSC Business and Community Development Center LLC (2007年度研修生 Ms.Gabrielyan Nune 社長の妻で人材育成担当トレーナー 1994年にアルメニアにおいてはじめてコンサルティング業をはじめた。現在100を越えるトレーニングのコースを持っており、既に5000人を越える研修の実績がある。常勤14名と契約社員が40名おり、注文に応じて対応する体制を持っている。将来は、アルメニアだけでなくコーカサス3国に対して研修やコンサルティングを広げようとの方針もある。パンフレットも立派なものができており、経営理念も明確に記されている。アルメニアにおいて最も進歩している大手のBSPと確認できた。このような企業にあって、ヌネ氏は社長を補佐し、彼女自身も研修を担当し、その力を発揮する立場にあり、活躍が期待される。 3R Strategy LLC 2007年度研修生 Ms.Avetisyan Gayane 本社がエレバンにあるBSPのバナゾール地区のトレーナーやコンサルティングを担当するメンバーの一人。今回の研修では、創業者のために事業計画の作成支援をコンサルティングしたいと報告して帰国した。バナゾール地区は製造業が多いので品質管理について研修したいと意欲を示している。現地における面談では、同地区のSeleneva LTDと合同でプロジェクト研修を実施する計画中と意欲的であった。お互いの特長を生かして互いに補完しあって研修を実施する新しい試みをぜひ成功させてもらいたいものである。 Seleneva LTD 2007年度研修生 Mr.Vahagn Nalbandyan社長 2001年創業の土産品、雑貨、OA機器、ゲーム機器などを販売する店舗を持つ社長。最近税制に対応する法律や経理を中心とする研修、コンサルティングを開始した。研修やWebデザイン(看板作成)などSMEDNCの入札に応募するようにもなった。現在の販売だけでなく、全アルメニア及び北に位置するグルジアも含めた創業及び生産管理に関する研修を広げたいと意欲的である。 3R Strategyとの合同研修プロジェクトの計画も彼らしい発想であった。活躍と成功を期待したい。 |
研修後の成長の実態と今後への期待 ビジネスサービスプロバイダー(BSP)からの派遣者は、公式の面談の中で各BSPでの活動状況を力強く説明していた。 |
本邦研修への評価の確認 今回BSPからの研修生全員と直接面談できた。すべてが本邦研修について良い評価や印象を持っていた。BSPから派遣された研修生はいずれも非常に真面目で優秀であり、態度も真剣であった。 研修生が日本の中小企業を訪問し、5Sや改善の実態をつぶさに観察し、実践していることを見て、「研修やトレーニング、コンサルティングにおいて自信を持って説明できるようになった」と言ってくれたことは心強い。 |
アルメニア共和国の評価 3年間に来日した受講生からは、研修の継続の大きな期待があり、アルメニア共和国国立中小企業開発センター及び貿易経済開発省中小企業開発局の研修に対する評価は非常に良かったので更に継続する強い要求があったとの報告があった。しかし、本邦研修は当初より3年間の契約であり、延長はできなかった。 JICA本部の評価 報告会におけるアルメニア政府関係及び受講生からの評判は、JICA本部にとって予想を超える良い反応であった。通常これだけの評判があれば継続されるようであるが継続はできなかった。 JICA本部や外務省関係者が3年間の評判を聞き、これだけで終了するのはもったいないとの判断から、JICAの事業として活用する方法が検討された。そして、南西アジア地域の域内輸出力強化事業として2009年2月から6年間合計7回のJICA横浜の新しい事業に結びついたのである。 |