アルメニア共和国
受託研修事業
フォローアップ調査と報告会



 2007228日で、当初計画した3年間3回の本邦研修を終了した。終了にあたり本研修委託先JICA横浜からの依頼により、国立中小企業開発センター及び貿易開発局に対して本邦研修に関する報告書の作成と共に、受講した研修生と面談し、その後の活躍状況に関するフォローアップ調査を実施した。

アルメニアには、当時JICA本部より、長期間トレーナーズトレーニングなどのために専門家を派遣しており、毎回その年度に派遣する研修生の選考にあたるとともに、研修生が帰国する際に評判や反応を確認した。以下、3年間3回にわたる研修生に関する評価も加えた調査報告である。



出張目的
:本邦研修を担当した神奈川県異業種連携協議会(神奈川イグレン)に対する3年間の本邦研修の実施報告及び以後の研修企画のため、アルメニア共和国国立中小企業開発センター(SMEDNC)・関係機関の貿易経済開発省中小企業開発局訪問、研修生への面談フォローアップ 調査

出張期間
200834日 ~ 315

概  要
2008年「アルメニア中小企業人材育成プロジェクトの終了評価調査団」としてアルメニア共和国を訪問。
国立中小企業開発センター及び貿易開発局幹部への報告、受講生と直接面談し、アルメニアヘ帰国後の活動状況のフォローアップ調査



本邦研修の実績報告
 JICA
横浜から受託の2005年から3年間の本邦研修が終了した。合計16名が本邦研修に参加した。研修生の所属先と各年度の受講人数は下記の表の通りとなった。
 
 

 

SMEDDN

貿易経済開発省中小企業開発局

SMEDNC

国立中小企業開発センター

商工会議所

BSP関係

ビジネスサービスプロバイダー

2005年度

1

3

0

0

2006年度

0

1

0

5

2007年度

0

1

1

4


フォローアップ調査

 3年間の研修生16名のうち、中小企業振興施策方にかかわる政府関係者6名、商工会議所関係者1名、振興施策を実践するBSP関係者6名の人選は、適正であった。
 また、来訪したすべての受講生が非常に優秀で研修の実行にあたり、積極的に意見や提案などがあり、適正に運営できた旨を報告した。
 BSPからの研修生の人選にあたって、JICA本部から派遣された専門家が、BSPの実態や研修生の能力を十分配慮し、研修生への動機づけが適切になされていた。この専門家による受生への動機づけが3年間に研修に大きな効果をもたらした。
 受講生16名中、派遣元から退職したものが1名あった。国立中小企業開発センター(SMEDNC)のタービッシュ支店からの派遣であったがこの1名を除き、全員と直接面談し、フォローアップ調査は順調にできた。
 訪問の目的や趣旨などを的確に理解し、政府関係機関として機能的、組織的に対応してくれた。
 特にBSPのトレーナーやコンサルタントは、全て面談や訪問対象として入っており、その時間通りに正確に集合し、非常に協力的で気持ちよかった。
 3
年前に事前調査にアルメニアを訪問したが、その際は企業訪問を依頼したが、連絡が十分とは言えなかった。今回は、SMEDNCが面談や訪問の調整を担当していたが、その主旨を良く理解し、非常に効率の良い面談計画と訪問スケジュールがアレンジされていた。政府機関とその協力メンバーのBSP所属のコンサルタント間の協力体制が非常に良くなっているように思えた。大きな変化は一つの進歩と見たい。


アルメニアでの報告会

研修生の現況

 直接受講生本人及びJICA派遣専門家からのヒアリングによって確認できたこと。

政府機関
「SMEDNCSMEDDN」からの研修生


Mr.Artavazd Sargasyan
2005
年度研修生

SMEDNCの副所長として、所長を財務の面から支える立場になっていた。(2名の副所長の内の一人)

Mr.Apujanyan Sevak
2005年度研修生

  SMEDNCRoli県の支店の県庁所在地バナゾール市の代表者としての立場で活躍していた。
 
訪問調査の主旨をよく理解し、多くの企業を訪問できるように各企業との連絡を取ってくれた。2007年度の研修生との人間関係も良く、アルメニア北部のバナゾールにおいて、近隣工場地帯の中小企業を支援する立場におり、これから更に貢献すると思われる。


Mr.Tadevosyan Syunik
2006年度研修生

  BSPの動きをモニタリングする立場にある。各支店に毎月2回程度出かけて、財政支援に関する情報調査を行い、年末にはアニュアルレポートを作成する。今回のプロジェクトのSMEDNCの評価員の一人として会議に出席した。

Ms.Susanna Khachatryan
2007年度研修生

 6名をまとめる役として日本でも中心になっていた。SMEDNCの設立当時からの古参スタッフとして、2005年度、2006年度の研修生とも良い関係にあり、SMEDNCの中で3年間の本邦研修生16名のまとめ役として活躍が期待できる。
 トレーナー研修(TOT)及び本邦研修を生かし、更に能力を高めるための情報交換の場としてのラウンドテーブルの運営には、彼女の力がぜひ必要である。


Mr.Asahot Sarkhoshyan
2005年度研修生

  中小企業開発局(SMEDDN)から参加であったが、韓国への業務出張中で会うことができなかった。

商工会議所からの研修生
Mr.Vahagn Hovhannisyan
2007年度研修生
  日本で訪問した神奈川中小企業センターの機能及び日本で行われているビジネスキャリア制度について非常に興味を持った。帰国後、トレーニングプログラム部長に昇格したとの報告があった。
 現在計画中のトレーニングセンターの開設準備委員となり、地方で中小企業を振興するに当たり、日本研修で得た知識が活かせる立場になった。
 地方で教えるBSPが少ないので研修制度を設定し、BSPと契約して運営することになる。会員を対象とする研修でSMEDNCとは異なった面からの活躍が期待できそうである。彼自身も講師として研修を担当することになっている。

BSP関係の研修生
ARLIAN Consulting LLC
Mr.Sargsyan Arsen(アーセン)副社長 
2006
年度研修生


  彼の姉が社長をする会社副社長の立場で研修に参加した。本邦研修において中小企業診断の方法など多くの情報を得て、現場で水平展開をしようと積極的であった。
 SMEDNCと協力して地方の研修やコンサルティングを行う一方、比較的大来な企業に対して労務管理に関してコンサルティングを実践するという。日本は、「全ての点で何かをやりっぱなしにするのでなく、必ずきっちりフォローすることには感心した」とのコメントがあった。同時期に来訪した研修生VGMのバルダン氏と連絡を取り、情報交換をしている。


Mr.Markosyan Vardan
VGM
 Partners LLC  
2006年度研修生


  2003年に3名で設立したが、2007年現在常勤32名のスタッフ(契約コンサルタントを含めると50名を超える)を抱える会社に発展させた。彼はアメリカでも研修をしており、その翌年に本邦研修生となった。開発、投資、マーケティング、経営のコンサルティングを実施している。開発の面では外国のパートナーに対して人材を供することもやっている。本邦研修では特に目立つ存在には見えなかったが、最もTOTや本邦研修を生かしている人材と言えそうだ。

Tourism Parberakan LLC
Mr.Voskanyan Arthur(ボスカニヤン)社長
2006年度研修生
Ms.Lusya Badiryan
ボスカニヤン社長の妻
2007年度研修生


  Tourism Parberakan LLC は、1995年に設立した会社で現在社長を含め、5名のスタッフと契約ベースのコンサルタント4~5人で運営するBSPのひとつ。
 2006年ボスカニヤン社長が参加した日本研修の経験を社員全員に伝えたと報告があった。この会社の部長であり、社長の妻であるルシア氏が2007年の本邦研修に参加し、グループのリーダー的な存在で積極的に質問もしていた。


  南部のカパンや北部のデリジャン地区が軍事から観光へと政策的にシフトしており、この会社が観光コンサルティングに応札している。ホテルの従業員の教育も担当するなど活躍している。同社の部長でトレーナーでもある妻ルシア氏も、日本研修において「アルメニアの観光業発展促進のために積極的な企業と手を組み、コンサルティングサービスの活動の幅を広げる」と意気込みをのべており、更なる発展に貢献するものと期待される。

VAK Consulting LLC
2006年度研修生

Ms.Nune Gabrielyan

  VAK Consulting LLC社は、創業支援及び人材育成に関する研修やコンサルティングの会社である。SMEDNCからの受注の比率は約50%程度である。若く、経験が少なく、本邦研修でも質問や意見が少なかったメンバーのひとりであった。若い女性であるが期待できる存在を確認できた。2006年の研修以来、自分自身の意識に大きな変化があったという。研修などで日本に近づきたいという意識が強くなった。アルメニアにJICAより派遣中の園田専門家の話では、SMEDNCの研修の講師を担当するまでに成長しており、推薦して良かったとの報告があった。

Logicon Development LLC
2006年度研修生

Ms.Marianna Petrosyan

  若く経験が少ないメンバーのひとり。帰国して、中小企業の研修を実施している。SMEDNCの入札では、コンサルティングと研修で応札している。全体の比率としては、販売金額の15%程度である。独自の専門分野では、経理に関するサポートを行っている。
 2008年から、新しくプレサービス(無料の研修、又は、コンサルティング)を開始した。


  本邦研修で彼女自身の物の見方が変わったという。また、日本で見たことを事例として説明することで彼女に対する信用が高まったと自信を持ったとの報告があった。
 彼女がコンサルティングするESCAD(高給衣料品やバッグの小売店)及びマザーケア(子供服や女性向衣料品の小売販売)を訪問した。ESCADは、メインストリートに向いてはいないが、店内の展示は、高級品らしくアルメニアにおいては垢抜けた感じである。マザーケアは、子供婦人服専門店で展示方法は他の店と比較し、整然としており、他の店とは違った感じを与えている。2006年の商店街診断が効果的であったようだ。


BSC 
Business and Community Development Center LLC
 (2007年度研修生

Ms.Gabrielyan Nune

 社長の妻で人材育成担当トレーナー
アルメニアで最も大きなBSPのひとつの社長。Mr.Samvel Gevorgyanが本邦研修に参加できないため妻のNune氏を参加させたという経過がある。
  1994年にアルメニアにおいてはじめてコンサルティング業をはじめた。現在100を越えるトレーニングのコースを持っており、既に5000人を越える研修の実績がある。常勤14名と契約社員が40名おり、注文に応じて対応する体制を持っている。将来は、アルメニアだけでなくコーカサス3国に対して研修やコンサルティングを広げようとの方針もある。パンフレットも立派なものができており、経営理念も明確に記されている。アルメニアにおいて最も進歩している大手のBSPと確認できた。このような企業にあって、ヌネ氏は社長を補佐し、彼女自身も研修を担当し、その力を発揮する立場にあり、活躍が期待される。

R Strategy LLC
2007年度研修生

Ms.Avetisyan Gayane

  本社がエレバンにあるBSPのバナゾール地区のトレーナーやコンサルティングを担当するメンバーの一人。今回の研修では、創業者のために事業計画の作成支援をコンサルティングしたいと報告して帰国した。バナゾール地区は製造業が多いので品質管理について研修したいと意欲を示している。現地における面談では、同地区のSeleneva LTDと合同でプロジェクト研修を実施する計画中と意欲的であった。お互いの特長を生かして互いに補完しあって研修を実施する新しい試みをぜひ成功させてもらいたいものである。

Seleneva LTD
2007年度研修生

Mr.Vahagn Nalbandyan社長

  2001年創業の土産品、雑貨、OA機器、ゲーム機器などを販売する店舗を持つ社長。最近税制に対応する法律や経理を中心とする研修、コンサルティングを開始した。研修やWebデザイン(看板作成)などSMEDNCの入札に応募するようにもなった。現在の販売だけでなく、全アルメニア及び北に位置するグルジアも含めた創業及び生産管理に関する研修を広げたいと意欲的である。
 3R Strategyとの合同研修プロジェクトの計画も彼らしい発想であった。活躍と成功を期待したい。

研修後の成長の実態と今後への期待

  受講生は、それぞれの立場で研修の成果を報告し、今後のアルメニアの中小企業振興に寄与できる意見や提言をしており、研修事業を引き受けた立場から言えば、期待以上の成果であった。

  ビジネスサービスプロバイダー(BSP)からの派遣者は、公式の面談の中で各BSPでの活動状況を力強く説明していた。
 特に2006年度参加で経験が少なく、その効果を懸念した若い2名の女性研修生は、面談において日本の企業訪問で意識が変わったと報告した。若いうちに日本の研修を受けたことで経験豊富な研修生とは異なった元気な活動が期待できる。

 2007年度は女性が多かったが、BSPからの2名は経営者の妻である。TOTの研修を受け、成績が優秀で推薦された。今後、それぞれBSP社長の片腕的な存在として、また、コンサルタントやトレーナーとして、能力を発揮すると共にアルメニアにおける主要なBSP
としての発展に寄与できることを確認できた

 2007年度来訪したバナゾール市からのSeleneva LTD社のバハン社長と6名中最も若かった3R Strategy社の女性ガヤネ氏は、合同でプロジェクト研修を検討中と報告があった。
 地方においてまだ十分BSPが育っていない中で、お互いに補完しながら事業を推進する新しい試みとして期待したい。

 第3回の本邦研修ではじめて商工会議所から参加のMr.Vahagnバハン氏からは、トレーニングプログラム担当の部長に昇格したと報告があった。新しく、商工会議所が、トレーニングセンターを開設する準備委員会のメンバーとなっており、今後の活動が大きく期待できる。

  貿易経済開発省中小企業開発局(SMEDDN)出身の1名は、現在その部局から韓国へ出張中で直接面談はできなかった。そのほかのメンバーはそれぞれの立場で中小企業人材育成のために意欲的に活動している様子が確認できた。

 Tourism Parberakan LLCのボスカニヤン社長、ルシア氏夫妻は、2006年度と2007年度のリーダー的存在であり、各メンバーとネットワークも形成できる。3年目の研修生は、全員非常に意識が高く、知識が豊富でレベルが揃っており、チームワークもあった。最初の2年間の受講生は、3年目の受講生に対して事前に予備知識を与えていた効果が大きい。



本邦研修への評価の確認

 研修生は、帰国後1名を除き、それぞれの機関においてそれぞれの立場で活躍しており、又これからも活躍できる立場にあり、研修で得た知識や経験を十分活かせることを確認できた。報告会において、派遣先の政府機関や支援関係機関及びBSPの評価は受託先としては最高の評価を得られた。

今回BSPからの研修生全員と直接面談できた。すべてが本邦研修について良い評価や印象を持っていた。BSPから派遣された研修生はいずれも非常に真面目で優秀であり、態度も真剣であった。
 
 特に、2007年の研修生は、優秀だけでなく、グループのチームワークもよかった。各研修生それぞれの立場で役割を理解し、新しい方針を提示するなど活躍している実態を確認できた。日本における工場での実践状況を観察して、企業に対するコンサルティングにおいて大変自信をもって実施する力強い報告があった。

研修生が日本の中小企業を訪問し、5Sや改善の実態をつぶさに観察し、実践していることを見て、「研修やトレーニング、コンサルティングにおいて自信を持って説明できるようになった」と言ってくれたことは心強い。
 特に、製造工場に天井から、大きな4Sの横断幕や壁に掲示されている経営理念やスローガンを見て従業員への徹底の仕方を学んだようであった。5Sでなく、4Sに変更して現場に適応していることが印象に残ったようであった。



アルメニア共和国の評価

 海外研修を受託した当方にとっては、報告会における実績報告では、非常に満足する結果を得ることができた。3年間の受託研修の経験は、自信となり、継続して対応できる余力は十分あると大きな期待が寄せられた。

3年間に来日した受講生からは、研修の継続の大きな期待があり、アルメニア共和国国立中小企業開発センター及び貿易経済開発省中小企業開発局の研修に対する評価は非常に良かったので更に継続する強い要求があったとの報告があった。しかし、本邦研修は当初より3年間の契約であり、延長はできなかった。

 

JICA本部の評価

 報告会におけるアルメニア政府関係及び受講生からの評判は、JICA本部にとって予想を超える良い反応であった。通常これだけの評判があれば継続されるようであるが継続はできなかった。
  後日、JICA本部の担当者から、アルメニア国の経済的な発展が大きく、日本が支援する開発途上国の条件を超えたためであったという話があった。当初本邦研修を実施した段階では、アルメニア北部の大きな地震被害など、開発途上国として経済支援すべき対象国であった。しかし、その後の発展が良好で国民所得など経済的水準がこれを超えてしまったのであった。JICAが経済的に支援すべき厳しい経済的条件の国々がほかに多数存在し、アルメニア共和国はその対象ではなくなったのである。これが本邦研修継続のできない真の理由であることが知らされた。

 JICA本部や外務省関係者が3年間の評判を聞き、これだけで終了するのはもったいないとの判断から、JICAの事業として活用する方法が検討された。そして、南西アジア地域の域内輸出力強化事業として20092月から6年間合計7回のJICA横浜の新しい事業に結びついたのである。