本邦研修
初年度

初年度
2005年
11月22日 ~ 12月13日

 国立中小企業開発センター及び貿易開発省中小企業開発局の幹部職員のための「中小企業支援政策の策定に資する情報及び資料の提供を目的とする研修

概要
対象者
アルメニア国中小企業開発センター、貿易経済開発省中小企業開発局の中小企業育成方針の作成、政策決定にかかわる幹部職員4名

 アルメニアの産業や中小企業の実態は、ソ連邦から独立し、10年以上を経過していた。しかし、回復状況は、日本が第二次大戦によって壊滅的になった状況から急速に復興、発展していた昭和30年代後半から40年代と類似していた。

 アルメニア政府関係者は、戦後の日本の産業の復興と発展に大きく寄与した中小企業施策や中小企業の役割に深い関心を示していた。
 このことから、日本の中小企業施策や中小企業の役割など中小企業振興に関する講義を中心に日本の産業構造、中小企業の特徴や日本政府がとってきた中小企業支援施策や起業・創業支援制度・金融支援制度などを紹介した。

アルメニアの地形が山岳地帯でワインやコニャックの生産が有名で日本では山梨県の状況が似ていることから、山梨県庁を訪問し、山梨県商工労働部工業振興課において山梨県の産業施策及び中小企業施策の説明を受けた。中小企業の視察訪問では、ワイナリー「中央葡萄酒株式会社」を選んだ。
 また、アルメニアはソ連邦時代のリゾート地としての機能を持っており、これからも観光産業のウエイトが大きくなると想定し、富士五湖の観光ルート及び道の駅を視察した。

  
  また、中小企業支援機関である神奈川県中小企業センターを訪問し、年間事業計画の詳細資料をもと概要説明を受けた。視察訪問企業としては、ワイナリーのほかに製造加工業、特に精密加工を得意とする企業を選んだ。


講義
(1)第二次大戦後中小企業の果たしてきた役割

  第2次世界大戦後、日本の産業の復興を支えのは中小企業であり、大企業に拡大発展した企業もある。日本の中小企業の特徴と果たした役割を解説するとともに、日本政府の中小企業支援施策や起業・創業支援制度・金融支援制度、従業員の能力開発に関する諸制度などを紹介した。


日本産業の盛衰
根岸講師による講義

(2)経営理念とその重要性

 経営理念は、会社の存在意義や使命、会社の経営目的などを表現したものである。経営理念は、社会の理法や自然の摂理にかなった正しい社会観、人間観感に根差したもので、 社会が大きく変動しない限り、長期間変らないもの、また、変えないものである。
 企業にとって経営理念は、経営者及び社員の行動の基本、基準であり、建前ではなく、これに向かって進む本音であり、壁にぶち当たったときに判断の基準となるものである。
 講義では、企業活動の全てが経営理念と矛盾してはならないことを強調し、代表的な日本企業の経営理念の英語版を紹介した。

 研修生が帰国して、各社の経営理念の作成を支援できるように「経営理念をつくる手順」も講義した。


(3)日本の中小企業支援政策

  日本の金融施策の具体的事例として、東京都及び大田区における事例を紹介した。
  神奈川県内の中小企業が県内で行う事業活動に必要な資金を円滑に調達できるよう、神奈川県、金融機関、神奈川県信用保証協会の三者が協調して支援する制度も紹介した。
 
 神奈川県は、金融機関の貸付原資の一部を負担し、長期・固定の低利な融資を実現している。さらに、中小企業が神奈川県信用保証協会に支払う保証料の一部を県が補助することで、負担の軽減を図っている。「信用保証協会」は、事業の経営に真面目に努力し、将来に向かって発展の可能性のある中小企業・小規模事業者に対して、金融上の強力な「公的な保証人」となる制度である。


(4)起業・創業支援制度

 神奈川中小企業センターが支援する諸制度を紹介した。

①起業する人のための起業家セミナーや経営塾の開催

②起業資金や設備貸与や設備資金貸与制度

③製造業のための商品の販売面での受発注商談会や取引斡旋支
 援制度


(5)企業における人材能力開発

 日本企業で実施されている「人材開発育成制度」、「企業内人事制度 人事評価 昇格制度」、「ビジネスキャリア資格制度」について紹介した。
  
 「ビジネスキャリア資格制」は、厚生労働省が1994年に始めた、事務系従業員を対象とする人材能力に関する資格認定制度である。厚生労働大臣が認定した民間教育機関が行う講座を受け、中央職業能力開発協会の試験に合格して得る資格。人事・人材開発・労務管理、経理・財務管理、営業・マーケティング、生産管理などの分野がある。






JICA研修室での講義風景


(6)異業種交流活動概要

 異業種交流とは、国の新たな社会的課題や経営課題の解決に挑戦する中小企業者の多種・多様な交流や連携づくりを応援し、国内外の広域ネットワークと豊富な人脈を活用して新しい時代づくりに貢献する活動である。
 横須賀市を拠点とする「横須賀異業種交流サロン」活動を訪問し、実際の交流の様子を視察した。




中小企業支援機関訪問視察

1)山梨県の観光産業

 アルメニアの地形が山岳地帯でワインやコニャックが有名であり、日本では山梨県の状況が似ていることから山梨県庁及び関連企業を訪問した。

①山梨県庁商工労働部工業振興課

  山梨県の観光事業、中小企業振興施策、産業施策及び中小企
業施策の説明を受けた。山梨県内の中小企業を訪問視察した。

②財団法人 山梨総合研究所

  山梨県の気候風土と産業動向についの説明を受けた。


(2)神奈川県の観光産業

 アルメニアの将来にとって、観光産業に関するウエイトが大きい。神奈川県の富士山を中心とする観光産業を紹介した。神奈川県の代表的観光産業施設である富士五湖の観光ルート及び道の駅も視察した。


(3)神奈川県中小企業支援センター

  神奈川県の中小企業支援センター「財団法人神奈川中小企業支援センター」を訪問し、年間事業計画の講義を受け、経営総合相談室、インキュベーションルームを案内した。


中小企業の訪問視察、感想

①山梨県内の中小企業

 ・機械加工業   株式会社 土橋製作所

 ・宝石加工業   株式会社 森銀

 ・宝石加工業   株式会社 石友

 ・ワイナリー   中央葡萄酒株式会社

②神奈川県内の中小企業

  ・精密機械加工業 JASPA株式会社
           まんてんプロジェクト

  ・精密機械加工業 株式会社 山之内製作所

  ・精密機械加工業 株式会社 開明製作所

  ・
情報通信業   有限会社 ホームポジション

③研修生の主な感想

  ・JASPA社見学でロケットや航空機の部品について、仕様
   の説明やサンプルの提示があったが、旧ソ連時代から全く
   あり得なかった体験であった。
  ・航空機用には、ISOとは異なった厳しい基準の存在に感心    した
  ・経営に対する考え方、経営理念についての説明に深い関心
   を持った。
  ・人事管理や人材育成方法に関心がある。ノウハウを習得で
   きたので帰国したら応用できる。
  ・信用保証制度については、日本と自国の制度に大きな違い
   がある。
  ・中小企業支援施策に関しては、多くのヒントを得た。



初年度研修会記念撮影
後列中央4名がアルメニア研修生