終章
「Semi-Exact Science」
としての
JW・Kプログラム


(1)「No.1、2戦略」

 J.・ウエルチは、黒字だったテレビ等の家電事業から、「今は黒字でも、コスト競争により、日本の企業には勝てない」と判断し、撤退した。一方で、ジェットエンジンや新世代のプラスチック、医療用の画像診断機器等、他社が簡単には真似できない事業を選び、圧倒的に強くするために資金や人を投入した。
 
 さらに、21世紀に勝ちを取りにいく分野として、放送、金融事業など、現在の成長産業をすでに1980年代にM&A(買収と合併)によって獲得している。
 それは21世紀の生き残りをかけ、他社に抜きん出た技術力を武器に、世界でトップレベルでやっていけるニッチ」な分野の事業を選択し、経営資源を集中するという「選択と集中」による「No.1、2戦略」であった。

 
日本企業は、アメリカをはじめ世界の企業との競争において、「DX」分野では圧倒的に後塵を拝している。「現状把握」のラウンドでは、「顧客の声:VOV」や「不良要因:CTQ」の一部として、「DX」に通じる「具体策」を広くラベル化することを試みてほしい。


(2)「ニッチな分野」 
 
 「JW・Kプログラム」による
ボトムアップ型「日本版6シグマ経営」の実践研究にあっては、規模の大小を問わず、モノづくりであれ、商品の販売であれ、サービスの提供であれ、飲食店の経営であれ、業種業態を問わず、日本のあらゆる企業が「No.1、2戦略」の設定と実現を通して、今日求められる国際的なビジネス競争力の基本を学び直すことを期待するものである。

 

 朝日新聞の経済欄(2020年3月6日)に、徳島県の経営者協会会長を務める林香代子さんの「マルハ物産」という会社の記事があった。
 父から多額の借金をかかえた会社を引き継ぎ苦労したが、「レンコン加工」というニッチな市場に絞って、顧客ニーズに応え、植え付けから商品の加工まで、こだわりの商品総数700種以上を開発し、
レンコンの総合エキスパート企業をめざす「N0.1,2戦略」に挑戦している。
 従業員の意識改革、多様な人材の活用、働きやすい環境づくり、地域の活性化の面で優れた取り組みを行っているとして、中小企業庁によって「羽ばたく中小企業、小規模事業者300社」に選ばれている


(3)「People Out」と「Work Out」
 
  J・ウェルチは、「中小企業の組織は、小さく、フラットで、コミュニケ―ションも密にでき、社長の率直さ、真剣さが社員に伝わりやすい。社長と社員が自分の言葉で語り、互いに理解し合い、一体となって経営に取り組む体制もつくりやすい」として、世界のCE社を中小企業の集まりのように経営した。
 
 J・ウェルチは、この過程で、21世紀の生き残りが困難と思われる事業を売却するか、廃棄するかし、「世界No.1、2」レベルでやっていける事業を選択し、人的、資本的資源を投資する「選択と集中」を実行した。この政策で、経営と一体化できない社員をは大量に解雇する「People Out」という施策に辣腕を奮った。
 
 だが、J・ウェルチは、「社員のやる気やアイデアがあるだけではダメだ。問題を解決し、無駄な仕事をなくし、業務を革新し、利益を最大化する」という、社員の実務的な業務力が必要だ」という指摘を率直に受け入れ、
「DMAIC:Define(課題の定義)→ Measure(測定)→Analyze(分析)→I:Improve(改善)→ C:Controe(定着)」という、「累積型問題解決技法」の社員教育の実施を徹底したのである。


(4)「句読点」をつけて話す、書く力

 「JW・Kプログラム」は、J・ウェルチが気に入った「DMAIC」に通じるボトムアップ型「日本版6シグマ手法」である。「問題提起→現状把握→具体策→基本的課題→実行計画」というラウンドを通して、経営上の目標・課題について、ボトムアップの力で「顧客の声:VOC」と「経営内部の不良要因:CTQ」を踏まえ、行動上の「具体策」を自由に発想し、ラベル化し、「KJ法」という手法で「6シグマ戦略課題」をコンセプト化し、「実行マスタープラン」をつくり、進捗を管理していく手法ある。
 
 「日本版6シグマ」の中核は、「KJ法」を使って、「具体策」で「6シグマ戦略課題」をコンセプト化することである。しかし、社員一人ひとりのものの見方、考え方を尊重する結果、雑多な情報の集まりになりやすい。だが、不確かしさや曖昧さを気にせず、「話して考える、聞いて考える、書いて考える」という丁寧なやり取りによって、「何のために、何をどうすることか」をはっきりさせた「ラベル」や「表札」を」つくる。
 英語に、「明瞭な表現」という意味の「Articulacy」という概念がある。本来「句読点をつけて話す、書く」という意味である。我々日本企業の課題は、「話して考える、聞いて考える、書いて考える」という訓練を通して、個々人の情報やアイデアについて、じっくり受け止め、丁寧なヤリトリによって意味を確認し、簡潔な表現の「ラベル」や「表札」に仕上げる力を、「組織の力」にしていくことである。


(5)「COPQ」の極小化
 「COPQ」は「Cost Of Poor Quality」の略語で、製品や商品、サービスの品質や業務そのものの品質の低さによって発生する無駄なコスト、機会損失の全体である。発生した不良そのものの直接的、間接的なロスだけでなく、発生した不良の後始末にかかるコスト、失った機会損失、顧客が被った損失も含まれる。
 不良品が市場に出てしまった場合、回収費用がかかり、損害賠償もしなければならない。顧客の信用も失われ、売り上げが落ちる。発生不良への対応で、作業全体の効率が低下し、売上未達も発生する。

 
COPQ」は、その出所によって、次のように要約することができる。
・不良品を発見するための費用
・不良品を選別するための費用
・不良品の修理費用
・不良品の廃棄費用
・不良品の製造コスト
・市場に出た不良品の回収費用
・販売上の機会損失
・信頼回復のための費用

 さらに、製品やサービスの供給に関連する「業務品質」が低いため発生し、放出されるコストや失われる機会損失を無視してはならない。この意味で、「COPQ」は、製品やサービスの研究・開発から生産、供給まで、全体的な関連業務の効率性を金額換算したものである。初期の計画や競合他社と比較して、スピードと確実さとコストにおいて、どれだけの水準であったかを見る指標でもある。
 
 現実には、この全体業務の品質の低さが、「COPQ」に大きさな影響を与えている。今日グローバルな低価格化競争が進行する中で、販売価格のアップやコスト低減の努力はほぼ限界に達しているかもしれない。しかし、「COPQ」をいかにして限りなくゼロに近づけていくかは、新規事業の開発や「IT」や「AI」の技術の導入も含めて、「JW・Kプログラム」の活用のレベルアップが重大な競争課題になってくるであろう。

(6)「顧客満足:CS」の実現から
   「顧客の喜び:CD」へ!
 
 
 「6シグマ経営」にとって、顧客が製品や商品、サービスにどんな不満やニーズを持っているか、全社的視野から「顧客の声」に耳を傾け、「顧客満足」を実現することが一番の課題である。
 NHKのあるTV番組で、わかりやすい報道があった。日本企業がインドネシアでオートバイを組み立てて販売するというプロジェクトの話である。 
 最近になって、インドネシアでは地方に住むイスラム系女性の社会進出で、オートバイの売れ行きが急激に伸びている。当初は性能も寿命の点でも実績があり、コストダウンも容易な日本仕様のオートバイを現地で組立てて、販売することに絶対の自信と見通しがあった。
 しかし、思うようには売れ行きが伸びなかった。長年かかってわかった単純な結論は、舗装されていない悪路の多いインドネシアでは、「日本仕様の細いタイヤのバイクは乗り心地がよくない」ということであった。
 「顧客の声」の重視は、顧客をつくり、顧客を満足させ、顧客を離さないための必須条件である。インドネシアプロジェクトでは、顧客の苦情や不満を真摯に探り、製品を差別化できたことで、「日本のバイクはすばらしい」ということになり、「顧客満足:CS(Customer Satisfaction)」から「顧客の喜び:CD(Customer Delight」へとつながったのである。

(7)社員こそ最高の資産!
 

 日本企業のものづくりを支えた製造現場の「QC活動」は、「M1型組織」の「和と協調」による「ボトムアップ力」の所産であった。当時の品質管理において、日本の企業はアメリカの企業の「指示・指令」で動く「M0型組織」の追随を許さなかった。それは、「M1型組織」の「M0型組織」に対する圧倒的な勝利でもあった。
 今日のIT化によって、企業でも情報の収集、発信、共有化が進む中、新しい価値を生み出すことができる「組織と社員の関係のあり方」が問われるようになってきている。
 
 J・ウェルチが「6シグマ経営」で、真っ先に取り組んだ課題こそ、「People Out」であった。「People Out」は、アメリカ企業の「指示・指令」でしか動かない「M0型組織」のみならず日本企業の「QC活動」を支えた「和と協調」の「M1型組織」をも否定し、「社員こそ最高の資産」という考え方のもと、経営トップのイニシアティブ」で、社員人ひとりのやる気や知識や知恵を重視し、新たな価値を生み出す人間集団「M5型組織」をめざしたのであった。
 
 J・ウェルチは、「必要な情報を与えないで、部下をコントロールし、押さえ込み、部下にまとわりついて監視する」といった管理をもっとも嫌っていた。
 「現場で働く人が仕事を改善するアイデアや知恵を一番持っている」という考えのもと、「会社の方針や目標を部下に伝え、あとは現場の力に期待する。現場の邪魔をせず、現場が力を存分に発揮できるようにリードしてやる。すばらしい仕事をしたら、それに充分報いてやる。これがリーダーの仕事だ」と言って憚らなかった。


(8)「80点」位は取れる道具だ! 

 「JW・Kプログラム」は、様々な情報をインプットし、莫大な情報をもとに、正確な答えをアウトプットする」という精密情報処理技術的な、すなわち「AI的な道具」ではない。
 情報の「Input ー 処理- Output 」のフローにおいて、「Input」の情報の信頼性が高く、処理の「Process」が「Exact」であれば、「Output」の信頼性は高い。
 しかし、現実の経営にあって、「Input情報」は多様で、信頼性もあいまいな場合が多い。ここに「Input情報」が多様で、信頼性が低くいからこそ、それなりに確かな「Output」を保証できる「Semi・E
xact」な情報処理技術が期待される由縁がある。
 
 「KJ法」は、「Articulacy」を重視した情報のデータ化、ラベル化、表札化によって、インプット情報の曖昧さをそれなりに補うことができる手法」である。さらに「W型問題解決フロー」に沿って、「Critical Thinking Approach」を累積していくことによって、それぞれのラウンドの不十分さは、次のラウンドに進むことで補強される仕組みになっている。「JW・K法」は、最終的に「80点」位はとれる「半精密科学(SemiーExact Science)的な情報処理技法」である。
 ボトムアップ型「日本版6シグマ経営」のための「JW・Kプログラム」は、経営の方針、目標に関して、現場がそれなりに確かな「6シグマ戦略課題」を設定し、その解決に取り組む「道具」である。企業として、組織として、こうした問題解決力をもつことで、デジタル経営の「AI的な道具」も、様々な分野で実用化できるようになるのではないだろか。
 
 J・ウエルチは、「経営で最善な方法は、チームにヒト、モノ、分野でカネに加えて、道具を与えることだ。後は管理しないでまかせることだ。道具があれば誰がやっても上手くいく。簡単なことだ」と言っている。

J・ウエルチも、次のように言ってくれるに違いない。

ーボトムアップ型「日本版6シグマ経営」には、経営と社員が、社員同士が「具体策」の議論を通して、課題を設定し、確かな「実行計画」をつくる、私の名を冠してくれた「JW・Kプログラム」という「道具」がある。いずれ、「AI」も「道具」として一般化していくだろう。

ー「経営方針、目標」をはっきりさせれば、後は管理しないでまかせることだ。こんな「道具」があれば誰がやっても上手くいく。経営とは簡単なものだ。