第4章
「JW・Kプログラム」
による
「日本版6シグマ経営X」
ハンドブック化

 J・ウェルチは、「People Out」と「Work Out」を両輪とし、「DMAIC」という手法を使い、全社的な問題解決体制をつくり、GE社を中小企業のように経営した。
 
日本の産業界は、中小企業が全体の99.7%を占める世界である。さらに、日本企業がめざす「6シグマ経営X」は、「M5型組織」を母体とし、KJ法を核とした「M5型問題解決技法」を「道具」としている点で、J・ウェルチの「GE社版6シグマ経営」から学ぶ点はあまりにも多い。
 

 ベルヒュード研究会は、「問題提起ラウンド」から出発し、「現所把握、具体策、基本的課題設定、実行計画作成・実施」までの簡潔な「5つのラウンド」からなる「累積型問題解決フロー」に沿って、企業の大中小の規模を問わず、業種・業態を問わず、簡便で確かな「日本版「6シグマ経営X」を体系化し、そのプログラムをJW・K法」と命名した。

 経営トップと社員が一体となって、「経営理念・方針、目標」を共有化し、製品や商品、サービスの供給において、「6σ」レベルの品質をスローガンに、基本的な「戦略課題」を設定し、「実行マスタープラン」を作成し、全社的な実施体制をつくり、「顧客満足」を実現し、最高の利益を追及する。この「M5型組織」を母体とした、日本版「6シグマ経営X」への一連の取り組み方を簡潔な「ハンドブック」に仕上げることとしたい。




「日本版6シグマ経営X」
ハンドブック


(1)問題提起ラウンド
 経営トップが、21世紀の生き残りをかけ、「経営理念、方針、目標」を明確にし、「JW・K法」を「道具」として、「日本版6シグマ経営X」に取り組むという宣言を行い、具体的な「6シグマ基本テーマ」を提示する。


(2)現状把握ラウンド 

顧客の声
「Voice of Customer」

 「6シグマ経営宣言」のもと、「経営理念、方針、目標」を踏まえ提示した「6シグマ基本テーマ」について、部門単位で「顧客の声:VOC」を広く収集し、一つ一つデータ化
し、ラベル化する。
 顧客は、
既存の顧客、失った顧客、競合他社の顧客、市場の潜在顧客、仕入れ先、広く社会の声も含まれる。会社が提供している製品や商品、サービスの品質・性能、納期、価格、アフターケアに対するクレームや苦情、要望のみならず、経営のやり方、社員の姿勢に対する不満、意見等も、現状把握の対象である。
 
 製造、営業部門のみならず、技術・研究開発、資材・購買から総務・人事部門まで、全部門がそれぞれの立場から、
次の手順と方法で、「顧客の声」を広く収集し、ラベル化する。
①ラベル(3Cm×6cm程度の紙片)を準備し、メンバ-に配布
 する。

②「顧客の声」を一つひとつ拾い上げ、 「~が~である 」とい
 う簡潔な表現でラベル化する。
各ラベルの内容を確認し、例えば「品質、納期、価格の問題」や
 「社員の対応、経営への批判、意見」等に分類し、『「VOCと CTQ」および「具体策」の一覧表の所定欄に記入する。

内部の不良要因
「Critical To Quality」
 次は、経営や各部門の内部の「不良要因:CTQ」の現状把握である。顧客や取引先、内部の関係部署から製品や商品、サービス、さらには業務に対するクレームや苦情、不満、要望があるということは、内部にそれに対応できない「不良要因」が存在しているからである。
 これが「CTQ」
である。この段階では、先に収集した「VOC」を敢えて絞り込むことをしないで、広く収集した「VOC」について、その元になっていると思われる「不良要因:CTQ」を広く列挙し、それぞれ「~が~である」という簡潔な表現でデータ化し、ラベル化し、先に準備した『「VOCとCTQ」および「具体策」の一覧表』の所定欄に記入する。


「VOCとCTQ」および「具体策」一覧表
○○部門
 分類 VOC  CTQ  具体策 
       
   
       
     
       
   
       

(3)具体策ラウンド
 「具体策ラウンド」は、「現状把握ラウンド」でラベル化された「VOC」と「CTQ」に対して、考え方や評価ではなく、「そうならば、どうすべきか」という行動上の対応策としての「具体策」を、それぞれの問題意識や経験から、思いつくまま、ラベル化するラウンドである。先の「一覧表」をもとに、それぞれのVOC」と「CTQ」に対して、取り組む「具体策」をブレーンストーミング的な手法で、思いつくまま360度の視野から自由に発想し、簡潔にデータ化し、所定欄に記入する。
 この段階では一つひとつの「具体策」について、有効性はあまり問題にしなくてもよい。「何をどうすることか」について、自由にアイデアを出し合う。質以上に数を重視するラウンドである。

 
 
「一覧表」への各具体策の記入が終ったら、各「具体策」を見直し、あらためて、「何のために、何を、どうすることなのか」について、メンバー間で議論を繰返し、わかりやすい簡潔な「具体策」への仕上げを行う。
 このラウンドにおける、「具体策」が持って本質的な意味をより明確にし、表現を修正したり、削除したり、追加したりするための議論、対話、コミュニケーションの繰り返しを「弁別」という。


 (4)基本的課題設定ラウンド
 「基本的課題設定ラウンド」は、「VOCとCTQ一覧表」の所定欄に記入された個々の「具体策」を「ラベル」に転記し、「KJ法」を使って、全社的な「6シグマ経営」における「戦略課題」を設定するラウンドである。


①「具体策」のグルーピング

 ラベル化した「具体策」の全体をいくつかのまとまり、グループにする。その手順と方法は、次の通りである。
・ラベル化した「具体策」を机上にバラバラに並べる。
バラバラに並べたラベルを上から見下ろし、各ラベルを2~3
 回は読む。
・似ている、近い、同じようだと思えるラベルを指で寄せたり、
 離したりして、いくつかのグループ
のまとまりをつくる。
・一枚のラベルを手に持って、これに似ている、近い、同じよう
 なラベルはどれかというグルーピングの仕方はしない。
・最初の1グループのラベル数は、2~3枚、多くても4~5枚
 とする。
・各グループの「具体策」を何度も読んで、やり直しを繰り返し、
 より適切な無理のないグループにする。
・グループにならないラベルは、そのままにしておく。

②「表札」づくり

 「具体策」の一回目のグルーピングが終わったら、次は本命の「表札づくり」である。「
表札づくり」とは、グループ内の複数の「具体策」が共通して言わんとしている「本質的なねらい」を浮き彫りにし、一枚の「表札」で置き換えることである。その手順、方法は、次の通りである。
・グループ内の個々の「具体策」について、「何を(What)、何の  ために(Why)、どうする(How)ことか」を明確にする。
・グループ内の各「具体策」は、結局「何を、 何のため、どうする  こと」であり、本質的に一緒であるとして、一枚の簡潔な表現の
 「表札」をつくる。
・一回目の「グルーピング」と「表札づくり」が終ったら、それぞ
 れ「表札」を上にし、輪ゴムやクリップで「ラベルの束」をつく 
 る。
「表札」を上にした「ラベルの束」、まだグループになっていな
 いラベルを再度机上にバラバラに並べ、同じく「グルーピング」
 と「表札づくり」の作業を繰り返し、最終的に5~6個のグルー
 プにまとめる。
・「具体策」の「表札づくり」は、自由に発想した「具体策」につ
 いて、共通した「基本的課題」を浮き彫りにし、「表札」で置き
 換える作業である。この「表札」をつくる情報処理のプロセスを
 「同定」という。

 次のような「表札」は良くない例である。
・「~の問題」というような分類型の表札
・説明をしないと意味がわからない表札
・大きすぎる表札
・「具体策」をつなぎあわせた表札
・自分の感想や意見を述べている表札

③「A型図解」による
 「6シグマ経営戦略」の設定

 最終的に5~6個にまとまった「表札」は、全体的な「6シグマ戦略課題」である。この「表札」を別途ラベル化し、机上にバラバラに並べ、「表札」と「表札」の「共通関係、因果関係、相互関係、反対・対立関係」をもとに、寄せたり、離したりして、各「表札」間」の配置を明確にする。
 「A型図解」は、各「表札」間の全体的な関係を見える化したものである。「戦略的課題、目標」として仕上げた「表札」の全体を実現する上で、各「表札は、どういう関係にあり、どう言う手順で取り組むことが順当かを読み取る。

「A型図解」の作成の手順と方法は、次の通りである。
・最終的な各「表札」について、「何のために、何を、どうすること  か」を再度議論し、より確かな表現の「表札」への仕上げを行う。
全体の「表札」を机上にバラバラに並べる。
・中心となると思われる「表札」をもとに、関係があると思われる
 「表札」を近くに寄せ、それぞれどのような関係かを明確にする。
・各「表札」間の関係は、
 「共通関係」、「因果関係」、「相互関係」、「反対・対立関係」 の「4つの記号」で表現する。

・「何かの関係がある」という、棒線(ー)でつなぐ関係表示はしな い。
・図解の全体は、「左右対称」に
なるよう配置する。これを「空間配
 置」という。 全体的な「6シグマ戦略課題」への取組み方を見え
 る化し、論理的に説明できるようにしたものである。


具体策のラベル化、グルーピン
表札づくりのイメージ



各6シグマ戦略課題
4つの関係記号



(5)実行マスタープラン作成ラウンド
 「6シグマ戦略課題」への取組みは、(4)の3で「A型図解」によって明確にした「6シグマ経営戦略課題」の全体に対する取組む実行体制をつくるラウンドである。


①1実行計画の作成
 各「6シグマ戦略課題」について、責任者および個々の「具体策」の担当者を決定し、どういう流れで実行するかを明確にした「実行手順書」をつくる。
・「A型図解」をもとに
、全体として、各「6シグマ戦略課題」に
 どういう手順で取り組むかを確認する。
6シグマ戦略課題」別に担当チームをつくり、責任者、担当者 を決める。
「6シグマ戦略課題」別に、担当チームで「具体策」の見直しを 行い、修正、削除、追加を行い、それぞれ誰が担当し、いつ手掛 け、いつまでに取り組みを終えるかを検討し、「実行計画書」へ の仕上げを行う。

②進捗管理
 「実行計画」は、重要な事からではなく、手がけやすい事から取り組むことが原則である。
・時間をフルに使って、急がず、時間的に余裕のある計画にする。
・但し、実行の流れがホップ、ステップ、ジャンプと論理的で段階 的でなければならない。

・「実行計画」の
流れを左右する実行が困難な「具体策」につい  ては、「ボトルネック課題」として位置づけ。潜在的な問題を想 定し、事前に「予防対策」を設定し、実行する。
・「予防対策」を打っても上手くいかない「具体策」もある。そう
 した場合、どうするか、速やかに打つべき「緊急時対策」を検討 し、「実行計画」の中に組み込んでおく。