はじめに |
日本のもの作りは、1980年代、品質管理の面でアメリカの製品を圧倒していました。それは日本企業の「和と協調」を重視し、情報を共有し、知恵を出し合い、設計や技術部門をも巻き込み問題を解決していく、製造現場の「QCサークル活動」によるものでした。それは世界の「指示・命令」で動く組織に対する日本の「和と協調」の「ボトムアップ型組織」の勝利でもありました。 当時、日本の対米貿易は年々輸出超過が続き、80年台後半にはアメリカの貿易赤字の50%を占めるまでになり、当時の世論調査では、「日本の経済力は、ソ連の軍事力よりも米国の安全保障にとって脅威である」とまで言わせた程でした。 しかし、アメリカは、通信機器メーカーのモトローラ社を先頭に、「日本の工業製品の品質は優れているが、製造現場のブルーカラーの力によるものだ」として、「ビジネスのあらゆる分野で問題解決に取り組むならば、日本企業に勝てる」として、全社一体となって問題解決に取り組む「6シグマ」を導入しました。 「6シグマ」は、「D(Define)→M(Measure)→A(Analysis)→I(Improve)→C(Controle)」という問題解決手法によって、「製品100万個中、不良品は3.4個」という「6σ」レベルを実現し、「品質不良:COPQ」からくる無駄なコストや機会損失を極小化し、利益を最大化するというものです。 ジェネラルエレクトリック社(以下GE社)のジャック・ウェルチ(以下J・ウェルチ)は、21世紀の競争の厳しさを予測し、世界トップレベルでやっていける事業を選択し、集中するという「N0.1、2戦略」のもと、志気の高い組織をつくる「People Out」に辣腕をふるい、さらに、社員が無駄な業務をなくし、価値を生み出す仕事に主体的に取り組む「Work Out」を重視し、その手法としての「DMAIC」の社員教育を徹底しました。 それは「N0.1、2戦略」のもと「People Out」と「Work Out」を両輪とするJ・ウェルチ版「6シグマ経営」というべきものでした。今日のアメリカ産業界の復活とベンチャー企業の隆盛は、J・ウェルチの21世紀の生き残りをかけた「6シグマ経営」を基盤としたものであり、成功した他社から学ぶ真摯な「ベスト・プラクティス運動」によってもたらされたと言われています。J・ウェルチは、このプラクティス運動によって、20世紀世界最高の「CEO」と謳われることになりました。 一方日本は、20世紀後半以降、貿易不均衡に対する国際的な批判に応えて、国内需要の拡大、海外製品の輸入拡大、海外生産へのシフト等、輸出中心型から国際協調型へ構造転換を図りました。それはバブル崩壊後の日本経済の再生に向けた路線転換でもありました。 「6シグマ」は、日本でも大企業を中心に大きなブームとなりました。しかし、世界と比較して、政府や経営トップの「イニシアティブ」が今一つということもあり、バブル崩壊後の経営変革手法として、深く浸透し、広く定着することはありませんでした。IMD (国際経営開発研究所)の「世界競争力年鑑」によれば、日本企業の経営競争力は、調査対象の63カ国中、かつての世界トップの座から悲惨な50位台へと転落し、今日なお下降状態が続いています。 日本の経済産業省は、こうした現実を踏まえ、「DX推進ガイドライン」を発表し、企業が顧客や社会のニーズをもとに、データとデジタル技術を活用し、製品やサービス、業務の品質を革新し、さらにビジネスモデル、企業文化・組織風土を変革することであるとしています。そして、これができなければ、将来的に大きな損失を生むとして、これを「2025年の崖」と命名し、広く警鐘を鳴らしています。 ベルヒュード研究会は、20世紀後半以来IT時代の到来を受けて、多様な人材が情報を共有し、様ざまな組織単位で生き生きと問題解決に取り組む創造的な組織をモデル化し、「M5型組織」と命名しました。さらに、「M5型組織」が持つ、問題解決のための情報処理技術「累積KJ法」を核とする「M5型問題解決技法」の実践研究に取り組みました。研究会の名称「ベルヒュード」は、「Beautiful Human Dynamism in Business:Belhyud」から命名したもので、ビジネス組織の世界で、ダイナミックに生き生きと働くという意味を込めています。 |