アラブの習慣と文化

ボンネットの上で卵焼きは出来ないが 
   クエート、サウジアラビア、イラン、イラクなど中近東の夏の暑さは大変厳しい。近代的なボーディングブリッジのない飛行機で到着した時、扉が開くと同時に熱風が吹き込んできた。タラップを出るとまるでボイラーのすぐ横にいるような感じである。気温が摂氏42度を超えると官公庁は休業となるらしい。しかし、そこはよくしたもので、各国の気象庁に相当する機関は、摂氏42度を超えても公式になかなか発表しないそうである。官公庁を休みにするといろいろ支障がでるからである。

 我々の住んでいたフラットのエアコンは、出勤中でも常に電源を入れておいた。帰宅してからエアコンの電源を入れたのでは冷えるまで時間がかかり、くつろげたものではない。電源を入れておかないと、帰宅した時、蒸し風呂に入ったようになるからである。
 アパートの構造にも問題がある。窓は一応アルミサッシでできていたが、アルミサッシを取り付ける建物の枠の構造が悪いため窓枠とアルミサッシの間に数ミリメートル、大きい部分は1センチメートルほどの隙間がある。家のすべての窓が同じようなものだから、ここからも熱い外の空気が入り込んでくる。エアコンの電源を入れておかないと、すぐに部屋の気温は外気と同じになってしまう。

 建物では、各部屋の角が直角90度になっていない。絨毯を購入して敷いてみたら隙間が出きるので、三角定規を部屋と絨毯の両方に当ててみた。絨毯の方はほぼ直角であった。コンクリートの床も平面が出ていないので、テーブルも厚い絨毯を敷かないと安定しない。とにかく工事方法が雑というかおおらかというか、日本とは信じられないくらい違いがある。

 熱い空気の進入だけならエアコンをつけっぱなしにすることで解決できるが、砂嵐が来ると大変である。隙間から、細かい砂埃が容赦なく入り込む。テーブルの上は砂嵐がないときでも埃で白くなっている。この砂埃は、電子機器でもなんでもどこにでも入り込み傷めてしまう。当時、音楽鑑賞の主流であったレコードは、この砂埃ですぐにだめになってしまった。

日本でも炎天下に駐車をしておくと、ハンドルが触れないくらい熱くなる。摂氏42度を超える暑さではやけどをしかねない。「車のボンネットで卵焼きができる」などと言われる。本当かどうか、半分いたずらのつもりで、試してみた。
 休日の猛烈に暑い日を選んで車のボンネットが十分熱くなった頃を見計らい、その上に生卵を割ってみた。しかし失敗でした。少々白身が白くなったかなーと思われるくらいである。確かにボンネットは熱くなるが、卵を焼けるほど熱量が十分ではない。ボンネット鉄板の厚さが十分でなく、熱を供給し続けられないから卵焼きにはならない。



毎日の暑さ対策に、ノウハウの蓄積が必要

こんな暑さだから、食べ物が腐るのも実に早い。レストランもない離れたところにある取り付け工事現場などへ出掛ける場合は、日本でやるようにおにぎり持参で出かける。朝早く握ったおにぎりも、昼に食べようとして開けてみたところ、もう腐りかけて食べることが出来なかった。炎天下の車に置いていたためである。この間、わずか3時間くらいである。だから、車には冷蔵用の保温ケースと保冷材を常備しておかなければならない。これらは必需品でした。

理由はさだかでないが、停電もよくあった。当時大都市ジェッダでも電力も十分とは言えなかったようだ。住んでいるアパートで、停電になると冷蔵庫に入れておいても傷んでしまう。短時間の停電であれば、暖かくならないうちに再度冷やすので腐らせずにすむが、長時間になるともうダメである。
 エアコンも止まり、部屋は蒸し風呂状態になり、冷蔵庫の中とはいえ、すぐに暖まってしまう。通常、毎日、昼には食事のために帰宅するので、停電があっても、すぐにプロパンガスで調理することができるので救われる。
 しかし、2~3日地方に出張する時は、冷蔵庫の中を出来るだけ少なくして、停電の場合の被害を少なくする。だから、冷蔵庫の他に冷凍庫が必要である。すぐに食べるものは少量を冷蔵庫に入れる。多めに購入したものは冷凍庫へ入れて保管する。冷凍庫であれば、氷の状態から解けるまで時間がかかるので短時間の停電の被害から守ることができた。

このように社会環境も自然環境も厳しい中近東においては、日ごろから栄養補給と十分な休養による体力の維持に努めなければすぐに体調を崩してしまう。
 アルコール類はないから二日酔いはないが、水分の摂取を怠らないようにし、栄養のバランスに神経を使う。水道水は時々出ることもあるが、シャワーや洗濯用である。飲用等には使わない。飲み水は、ミネラル・ウォーターを常にたくさん購入しておく。スペースのある限り、ミネラルウオーターで氷を作っておく。熱さに備えて、いろいろ考えて知恵を出し、対策をひねり出す生活である。日本での生活とは違って、相当広い範囲に神経を使って生活しなければならない。それなりのノウハウの蓄積が大切である。


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