アラブの習慣と文化

雨の少ないアラビアが
水害に悩まされる

  サウジアラビアの地図を見ると、他の国と同じようにいくつかの「川の流れ」が見える。しかし、実際には水は流れていない。水が干上がってしまった涸れ川である。大変希に大雨になった際に大地に吸い込まれなかった水が流れ込む低いところが川として記されている。
 少しくらいの雨量は、砂や泥土に吸い込まれてなくなるか、流れになる前に蒸発してしまう。雨が降らないから、下水の設備に流れ込むのは生活排水だけであるが、住宅の密集地でない限り、生活の排水も蒸発、乾燥してしまう。従って、下水の設備も大掛かりなものは必要なく、完備されているとはいえない。

 従って、極まれにたまに大雨が降ると大変である。雨の降り始めは、すべて地面に吸い込まれてしまうがそれを越えた雨量になると、水は低い土地を目指して一挙に流れ下る。生活排水用に作られた下水用の設備では役に立たない。
 
 逆に低いところにある通りでは、マンホールが大量の水で持ち上がり、噴水のように水が溢れ出る。更に、大変なのは雨が上がった後である。普段自然に蒸発してしまうため、排水溝もほとんどメンテナンスもされていない。排水溝は砂で埋まって配水できず、自然蒸発を待つことになる。いつまでたっても水が引かない。人も車も遠回りしなければならない。雨の少ないサウジアラビアが、大雨の後は、しばらくの間、水の被害に悩まされることになる。

伝染病の発生はほとんどない
 サウジアラビアに特有な感染症はない。温度が高く、環境条件が厳しくても伝染病がないのは、サウジアラビアには河川がないからと言われる。
 平常は、川にも水が流れていないので、河川で増える伝染病の媒体役となる蚊もほとんどいないし、寄生虫も住めない。ボーフラの発生するところがないのでマラリアや日本脳炎のような蚊を媒体とする伝染病もない。細菌類もドライアップして死んでしまうようだ。

 海岸近くには、日本と同じように小さな虫がみられる。砂漠には昆虫類がわずかに生き延びるだけである。ただ、不思議なことにハエは、しぶとく繁殖する。真夏の熱いときは少なくなるが、涼しくなる冬に増えるのは日本とは逆である。サウジアラビアは、暑く厳しい環境であるが、伝染病に関する点では日本より安心して生活できる。 

 しかし、時折伝染病の発生が報道される。毎年、巡礼(ハッジ)の季節に世界各国から数十万人のイスラム教徒が、巡礼地のメッカやメジナを訪れる。伝染病は、外国から巡礼者が持ち込むものである。
 巡礼者は、メッカやメジナに近いジェッダなど紅海海岸に集まり、巡礼者用のホテルもその期間、特別に準備される。発生する場所は、この地域と巡礼者用の宿泊設備の中に多い。しかし、伝染媒体がほとんどないので、政府が手を打つことですぐに流行もおさまる。我々外国人もその発生をあとから聞かされることが多いくらいである。