アラブの習慣と文化

聖典(コーラン)がすべての基準
  八百万の神を信ずる神道、儒教を背景に仏教徒の人口がほとんどで、キリスト教徒も多い日本社会にとって、イスラム教を背景とするアラブの社会は、理解することが難しい世界です。 
 イスラム社会においては、聖典(コーラン)がすべての基準でです。日常の行動のすべてがコーランに記載されたとおりでなければなりません。特に、酒と豚肉はダメです。
 といっても、サウジアラビアがもっとも厳しく、クエート、イラン、イラクなどが続き、エジプト、インドネシアの順に緩くなるようです。イスラム教以外の宗教が多くなるにしたがって、厳しさには少しずつ差があり、聖典コーランの解釈にも差がみられるようです。
ブの習慣と文化


酒はダメ
 海外からの渡航者は通関時に大変厳しく手荷物検査が実施されます。通関の最も厳しいサウジアラビアでは見つかれば必ず没収されます。食用の「みりん」や「酢」でも僅かでもアルコール含有の表示があれば、ウイスキーやブランデーと同じ扱いになります。
 一時預けて出国時に受け取ることができる国もありますが、厳しい国では全く通用しません。ハムやソーセージ、ベーコンなど豚肉を使用したものが見つかると有無を言わさず、ごみ箱に捨てられてしまいます。

 ただ、すべてのイスラム教国が同じような厳しさがあるとは言えません。エジプトやインドネシアは、イスラム教徒が多い国ですが、キリスト教徒なども多いために、街の中でビールもウイスキーも比較的自由に飲めるます。
 アラブの社会でも国によって個人用として通関時に問題にされない国もあります。レストランにウイスキーのボトルを持ち込んでも問題にされない国もあります。厳しいと言われたある国でブランデーやウイスキーをレストランに持ち込み、磁器製の(中身のわかるガラス製ではない)ピッチャーを借用し、テーブルの下で、ボトルから移し替えます。お茶用の小さいカップを借用して、食事の際に他のお客に分からないように、密かに楽しんだ経験もありました。

豚肉がダメな理由
 豚肉がダメな理由は、「イスラム教典コーラン」に、次のように記されています。
 「食べたいのに食べられないものはない。ただし、死肉、流れている血、豚肉を除く。豚肉、それは不浄である」 (第6章145)
 アラーの神の教えによると、豚肉は食べてはいけないただ一つの食べ物である。人間は食べ物で変わる。人間も、豚肉を食べると豚と同じように不浄になると言われている。
 
 なぜ、豚が不浄なのか。「昔、豚肉で食中毒が多く発生したから」、「豚は残飯など不潔に見えるものを平気で食べるから」、「飼育されている環境が不潔でも平気だから」などが主にその理由に挙げられています。
 
 「牝豚は、次から次へと牡豚と交尾し、節操がないから」という理由も言われています。敬虔なイスラム教徒の友人は、特に牡豚の次から次へと、牝豚と交尾する節操のなさを忌み嫌う理由にしていました。
 人間も豚肉を食べると、豚と同じように節操がなくなると言うのです。だから、ハムもベーコンも、豚肉で作られたソーセージも決して食べない。友人は豚について話題にすることも極端に嫌っていました。
 サウジアラビアに入国するとき、空港の税関検査官に持っているハムが見つかったとき、その場でいかにも不潔という顔で私を睨み付けて、ごみ箱へ捨ててしまった理由も後日よく理解できました。

 大分前ですが、当時の新聞に、豚の成分を使用したとして、インドネシアにある日本のメーカーが製造している調味料に回収命令を出され、現地法人の日本人役員ら6人が逮捕されたという新聞報道がありました。
 その調味料の製造工程で豚のエキスが触媒として使用されているということが理由でした。実際には、豚のエキスは使われておらず、政治的な背景もあったのかもしれません。
 われわれ日本人には、容易に理解できないことですが、製造工程で触媒としてでも、"豚"が使われていることにイスラム教徒は嫌悪感を抱くのです。科学的な基準や日本人の常識で判断してはならりません。イスラム教徒にとって、豚は不浄なものなのです。

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