今、なぜ
ボトムアップ型
日本版6シグマなのか
J・ウェルチの
「6シグマ」に学んで!

はじめに

 今日アメリカ経済は、IT時代に入り、「従来型大企業の再生」とその再生を基盤とした「ベンチャー企業の創出」によって、再び世界市場を大きく支配している。
 アメリカ産業界の復活は、大企業中心の「6シグマ」を推進力とした「ベスト・プラクティス」運動(成功した他社から学ぶ)によってもたらされたと言える。

 それは、従来型大企業の「情報の発信と共有化」というITインフラをベースにした「e経営改革」と一体化した「6シグマ」への取り組みがスタートであった。


ボトムアップ型
「日本版6シグマ」の提案
 1980年代までのアメリカ企業では、マニュアルで動く「指示統制、管理中心の組織」が一般的であった。ベルヒュード研究会は、このタイプの組織を「M0型組織」としてモデル化した。
 これに対して、日本企業は、「タテマエやルール」を自主的に守る「和と協調の組織」が中心であった。このタイプの組織を、M0型に対して「M1型組織」としてモデル化した。
 
 日本企業の品質管理を支えた製造現場の小集団活動は、「M1型組織」の所産であった。当時の製品の品質において、日本の企業がアメリカの企業の追随を許さなかったのは、まさに「M1型組織」の「M0型組織」に対する勝利であった。

(1)トップ主導の「6シグマ」に対して
 世界に「6シグマ」を広めることになったGE社のCEOジャック・ウェルチは、アメリカ社会に一般的であった、指示命令で管理される「M0型組織」の否定こそが、アメリカ企業復活につながると考えた。しかし、和と協調のボトムアップ型システムで動く日本の「M1型組織」の限界も看破していた。
 そして、「M0、M1型」の組織や人間を「People Out」し、社員が問題解決に主体的に挑戦する「M5型組織」づくりをめざすとともに、「DMAIC」を武器として業務改善に取組む「Work Out」を展開した。
 
 
(2)ボトムアップ型
   「日本版6シグマ」を!

 日本企業の場合、経営トップにJ・ウェルチのような強力なリーダーシップを期待することは、一般的に困難である。現実のところ、「日本版6シグマ」にあっては、実績のある品質管理小集団活動のような「現場のボトムアップ力」に期待したいところである。
 
そのためには、
①経営の「No,1,2戦略」を踏まえた「経営方針、目標
 の明確化と現場との共有化」が出発点になければならな
 い。

②現場には、多様な人材が活躍できる「Work Out」のた
 めの簡便で確かな「ST(Solution Technology)プロ
 グラム」の準備と教育訓練が不可欠である「
③経営は、人材育成や評価の仕方を見直し、任せることは
 任せ、成果や頑張りに正当に報いる「People Out:人
 事処遇制度」の革新が必須である。


日本企業の経営戦略転換のための
「日本版6シグマ」

 アメリカのGEやモトローラ、デルコンピュータ、インテル等大企業の「6シグマ経営」は、トップ主導型の「People Out」と「Work Out」を両輪として、大量の雇用を放出している。しかし、経済全体の再建は、次の3本の柱で進んでいる。
①政府によるマクロ経済政策
②企業各社の人員削減、業務革新による株価回復
③新しいベンチャア-企業の進出、人材吸収


(1)不可欠な第一、第二変曲点の認識

 日本は1960年以降、10年以上にわたって10%台の高度成長が続き、74年にはオイルショックで一時的にマイナスを経験したが、その後はバブルの発生で最高水準に達した90年まで、平均して4%台の中成長が続いた。
 しかし、90年、2つのビッグな歴史的出来事を同時に体験することになった。「バブルの崩壊」と「大競争時代(メガ・コンペティション)の到来」である。


 日本経済は、この二つの側面から低コスト化競争を余儀なくされ、1%を切る低成長期に入り、ついに96年を境にマイナス路線に転じるに至った。
 この間の「日米のGDP推移」を比較してみた。アメリカに比較して、日本経済の推移の特徴が顕著である。日本が成長カーブを維持できなくなり、マイナス成長に転じた1996年を「第一変曲点」、また近い将来、経営戦略転換が実り、GDP曲線が再び成長方向に転ずる時があるとして、その点を「第二変曲点」と呼ぶことにした。

 

 
 日本の企業は、この間、厳しい生き残り競争を展開してきている。しかし、生き残りを懸けた低コスト化競争にしのぎを削れば削るほど、経済全体はシュリンクし、「第二変曲点」は遠のくばかりであった。



 日本は、96年にGDPが低下を始めて以来、今日まで上昇の機運をみることができません。
2021年の一人当たりGDPは、世界第24位です。

 これまで日本は、「規格工業製品」の大量生産を得意とし、世界の市場をリードしてきた。しかし主役は、既に東南アジアや中国に移っている。日本のいかにコストを下げ、いかに安い販売価格に耐えるかという低コスト化、低価格販売競争路線は、ほぼ限界に達している。
 
 今や、日本企業の多くは、従業員の低賃金化路線によって維持されているのではないか。今日の生産性は、「第一変曲点」以前の、特に80年代の「M1型組織」のレベルのままである。かっての成功体験を超えることができず、無策が続いている。


 日本の実質賃金は、20 年間以上にわたり長期低落傾向にある。就業者一人当たりGDPは緩やかに上昇してはいるが、労働者への配分が過少なため、働く者の多くは「生活がよくな った」と実感できず、「将来の生活はよくなる」という見通しが持てずにいま す。


(2)ベスト・プラクティス運動で
広まった「6シグマ経営」

 アメリカ企業の「6シグマ」は、1979年、日本のポケベル市場に参入しようとした通信機メーカのモトローラ社が、日本のメーカと比較して自社の不良率の高さに驚き、品質改善活動に懸命に取り組んだことが発端になった。
 その後、「6シグマ」は品質改善のための「問題解決活動」として、成功した他社から学ぶ「ベスト・プラクティス運動」の流れに乗って、テキサス・インストルメント、IBM、アライドシグナル等、従来型大企業を中心に暫時広がりを見せ、アメリカの「モノづくり復活」につながっていった。
 
 中でも1995年、GE社のジャック・ウェルチが導入を決意し、「GE版」とも言うべき「6シグマ」を展開し、大きな成果を上げ、世界でもっとも尊敬される経営者として評価されるに至った。「6シグマ」は、ジャック・ウエルチの成功によって、世界各国に一気に知られる結果になり、欧州企業やアジア企業にも広がっていったのである。
 
 
「6シグマ」とは、統計学上の概念である「標準偏差:σ」の6倍の範囲内に品質のバラツキを押さえようとする考え方である。「ものづくり」で言えば、これまでの3σ、つまり歩留まり99.73%という品質管理レベルを、6σ、つまり99.99966%、「100万個中、不良品を3,4以下に押さえる」というレベルにまで改善しようとするものである。

6シグマ経営」は、さらに次のように「定義」することができる。
①製品やサービスに対する「顧客の声:VOC(Voic
 e Of Customer)」を重視し、
②製品やサービスの品質不良に関わる「内部要因:CT
 Q(Critical To Quality)」を解決し、
③業務や製品・サービスの不良の発生を100万個中3
 から4個レベルという「6σ」をめざし、
「顧客満足:CS(Custmer Satisfaction)」を実現
 し、
「無駄なコストや機会損失:COPQ(Cost Of Po
 or Quality)
」を極小化する。

 それは、「顧客満足:CS」を重視し、製品やサービスの品質問題だけでなく、経営方針、目標を明確にし、情報の発信と共有化によって、社員の目で業務を見直し、知恵を出し合い、業務を革新するという「企業の組織文化」の変革をめざすものである。
 
 戦後、日本の企業は品質にこだわり、当時の日本製のテレビや腕時計は、既に「6σレベル」に達していた。品質管理の面で遅れをとったアメリカは、トップ企業の経営者を中心に、日本企業の品質管理に学ぶ姿勢を持っていた。
 日本の企業は品質改善への取組みを、製造現場のボトムアップ的な小集団活動に限り、経営や業務全体のプロセス改善に向けようとはしていなかった。
 しかし、アメリカの企業は、「6シグマ」を製品をつくることだけでなく、経営方針や目標の実現のために、全社各部門の業務を革新し、のための「問題解決活動」として、トップ主導で取組むならば、日本製品に勝てると考えたのである

J・ウエルチの「6シグマ経営」に学ぶ

 今日、日本企業の国際的な競争力は、急激に失われている。企業の意思決定や人材育成、組織づくりは、「第一変曲点」以前の右肩上がりのキャッチアップ型経営を支えた「M1型組織モデル」の中に組み込まれたままである。 

 日本企業は、今後何にどう取り組むべきか。アメリカの21世紀の産業界復活の力になった「6シグマ」に率直に学ばなけれならない。
 それは
、J・ウェルチの
「M1型からM5型」への組織モデルの転換(People
 Out)
②「No.1、2戦略」を踏まえた既存事業での生き残りと
 新規事業の開発に賭けた業務革新(Work Out)を両輪
 とした「6シグマ経営」である。

 「日米GDP比較表」をもう一度見て戴きたい。アメリカは80年代、日本の追随を受け、構造的不況に陥っていた。しかし、85年から95年にかけて、生産性向上のための経営改革に必死に取り組み、急激な立ち直りを見せている。
 中でも、従来型大企業の対応が顕著であった。それは、日本企業との品質管理競争に破れ、構造不況に陥った80年代以来、モトローラ社をはじめ従来型大企業が中心となって取り組んだ品質管理面からの「顧客の声:VOC」の重視を第一とした業務革新、すなわち「6シグマ経営」への戦略転換であった。
 この「6シグマ経営」こそが、コア技術を中心に製品やサ-ビスを特化し、「CS:顧客満足」を実現し、世界レべルの事業へと強化するとともに、世界の多様化し、個別化していく市場ニーズに対応し、多くの新ビジネスを創出する道筋をつくったのである。



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