新連載

日本版6シグマによる人材育成と組織強化
<最終回 No.10>

 

自律的、継続的自己改革をめざす6シグマ
「6シグマインフラ」の整備
これまで6シグマについて、業務遂行プロセス改革のための「WorkOut」プログラムと、組織風土の改革のための「People Out」プログラムの2つの視点から述べてきた。経営課題としての「6シグマプロジェクト」のスピーディで確実な実現は、経営トップから現場の業務担当者までが、その経営課題の重要性の認識においてどれだけ一体感を醸成し得るか、その業務の役割分担においてどれだけ一貫性を保ち得るかにかかっている。「2つの改革路線」の成功は、まさにこの一体感の醸成と一貫性の保持如何である。

 ところで、この改革路線は従来の日本型経営を支えた「ボトムアップ」に依存するものではない。経営トップは自ら設定した経営課題「6シグマプロジェクト」に向けての社員の実行体制をより確固たるものにするために、「ボトムアップ」に期待する以上に、経営側の見識と責任において、次の「2つの6シグマインフラ」の整備を優先させなければならない。

 第1は、経営トップから現場の担当者まで、「6シグマプロジェクト」に関して果たすべき役割分担と目標を明確にし、その実現に責任を負うという「目標管理制度」、つまり「6シグマMBO」(Management By Object)の整備である。
 第2は、その目標実現の成果を公正、公平に評価し、実績に応じて報酬を与えるとともに、必要とする能力要件「コアコンピテンシー」を明示し、給料の保証につながるキャリア形成を支援する「能力評価制度」、つまり「6シグマEBC」(Evaluation ByCore−Competency)である。

6シグマMBO
経営課題解決のための目標管理

 「日本版6シグマ基本フロー」で述べたように、経営環境の変化を正しく把握し、経営方針をアセスメントし、No.1,2戦略を踏まえ、今後取り組むべき事業範囲を明確し、解決すべき経営課題「6シグマプロジェクト」を設定するのは、経営トップ層(チャンピオン)の役割である。そして、「6シグマプロジェクト」の実行はプロジェクトマネージャー(マスターブラックベルト)を中心としたプロジェクトチームに委ねられる。

 プロジェクトリーダーは、「日本版6シグマツール」としての「W型問題解決フロー」をベースとした「M5型問題解決技法」を基に、「現状把握ラウンド→具体策ランド→基本課題設定ラウンド」の3つのラウンドを通して、「6シグマプロジェクト」を実現するために解決すべき基本的課題「SSP」(Sub−6sigma Project)を設定する。「SSP」は通常複数設定され、それぞれに実行責任者「Sub−6sigma Project Leader」(ブラックベルト)が選任される。実行責任者は、「最適課題設定ラウンド→リスク対策ラウンド→実行計画作成ラウンド」の3つのラウンドを通して、それぞれの「SSP」を解決するために最適な解決策「S・SSP」(Sub−SSP)を設定し、実行計画書を作成する。「S・SSP」も通常複数設定され、それぞれに担当責任者(グリーンベルト)が選任される。

 「6シグマMBO」では、こうして「6シグマプロジェクト→SSP→S・SSP」という一連の6シグマ課題(6sigma Objects)の流れがつくられ、「プロジェクトマネージャー→サブプロジェクトマネージャー→メンバー」という経営目標実現のための一連の実行分担体制がつくられる。「6シグマプロジェクト」のスタートにあたっては、これらの6シグマ課題が「実行計画書」と一体となった形式で登録される。プロジェクトリーダー、サブリーダー、メンバーは、それぞれに成果が公正、公平に評価され、実績に応じて報酬が与えられる。この経営課題に対する役割分担体制の明確化と実績評価、報酬主義を中心とした「6シグマMBO」は、6シグマ活動を軌道に乗せる上で、経営側が自らの責任において、第1に整備しなければならない「インフラ」である。

6シグマEBC
人材育成のための4つのコアコンピテンシーの設定

4つの能力評価表の作成

6シグマ活動の本質は、経営課題を実際的に解決すると同時に、自律的、継続的に学び、自己改革を行っていく「組織文化」を企業体に植え込んでいくことにある。これまでのように、社員に表向きの「従順さ」や「忠実さ」要求するだけのものではない。「このプロジェクトで頑張ろう」と問題意識を1つにして、「安心して切磋琢磨できる同僚」、「安心して自分を託せる上司」、「安心して任せられる部下」といった「人と人」「人と組織」「人と経営」の関係が重要な要素になってくる。大事なことは、経営課題としての「6シグマプロジェクト」の解決のために、多様な意識や価値観を前提とした「関係」を重視し、それを裏付ける「技術、技能、知識、行動」といった「コアコンピテンシー」を明確にすることによって、そうした能力を持つ社員を、どれだけ実質的に育成し、戦力化できるかである。

 今日、余剰労働力の排出や自主的な労働力の流動化の現象が一般化してきている。しかし、陰湿な肩たたきやいじめばかりが強調され、会社は社員にどんな能力を期待し、社員は会社にどんな能力をアピールしていくのかという、これからの会社と従業員の本来的な関係のあり方の問題は曖昧なままである。この曖昧さが、内にあっては従業員の気持ちを不安にさせ、上司や仲間に対する不信感をつのらせ、志気を低下させている。外にあっては、求職者の能力と求人条件の間に納得のいかない食い違いの問題(ミスマッチ)を引き起こしている。

 これからは、「経営は何を目指すのか、従って、個人に何を期待し、何をどう評価するのか」を積極的に公開する企業が出て来るべきであろう。その結果個人としても、希望する企業や仕事に対して、自らの責任とコストで、どんな能力を身につけていく必要があるのかを明確にすることができる。

 日本版6シグマではスピーディで確実なプロジェクト活動の展開という視点から、社員に求める能力を「4つのコアコンピーテンシー」に分類し、それぞれに「評価表」を作成し、個々人の能力向上のガイドラインとして位置づけしている。

 第1は「6シグマプロジェクト」の責任者に求められる、プロジェクトトータルプロセスをダイナミックにマネジメントできる能力である。プロジェクトの発足から終結までの様々な意志決定の場面で、プロジェクトマネージャーに期待される行動をデータ化し、結局「何のために、何をどうする力」が求められるのかをコンセプト化し、全体で7つから8つ程度の「評価項目」と3段階程度の難易度に分類した「具体的行動課題群」から構成する自前の「プロジェクトマネージメント行動能力評価表」として作成する。

 第2は「6シグマプロジェクト」を構成するサブ6シグマプロジェクト「SSP」およびサブSSP「S・SSP」の遂行にあたって、一連の業務プロセスの効率的な取組を支援できるための「コーチング能力」である。第3は、「S・SSP」の実施担当者に求められる質的に高い成果を上げるために必要な、全体で考え、判断し、行動する「組織行動能力」である。個々の「S・SSP」の効率的な業務遂行を目的として、サブプロジェクトマネージャークラスに期待される「コーチング行動」、メンバーに期待される「組織行動」を同じようにコンセプト化し、全体で7つから8つ程度の「評価項目」と3段階程度の難易度に分類した「具体的行動課題群」から構成する自前の「コーチング行動能力評価表」、「組織行動能力評価表」として作成する。

 第4は「S・SSP」の実施担当者に求められる、正確かつ円滑に業務が遂行できるための専門的知識、技術技能としての「テクニカルスキル能力」である。ここでも企業の製品やサービスの競争力の源となっている個々の要素技術をデータ化し、全体で7つから8つのコアコンピテンシーをコンセプト化し、それぞれに3段階程度に分類した「具体的要素技術群」から構成する自前の「テクニカルスキル能力評価表」として作成する。

いずれの「評価表」においても、評価項目の「コンセプト」、「項目数」、「具体的な評価アイテム」、「ウエイト付け」、「評価基準」等は、企業やプロジェクトの性格や実態によって独自に決定されるものであり、ここではフオーマット例を紹介するにとどめることとしたい。

能力資産の評価と
生活設計に合致した能力向上
     

 年功序列、終身雇用制度の維持が困難になり、企業の人事部は「会社におんぶにだっこはもうダメ。これからどんな仕事について自分を活かしていくか、自分の考えと責任で会社から自立してやっていく時代である」と、社員に「キャリア再設計」を勧めるようになってきている。現実には自律的な退職のすすめになっている節もあるが、それはそれとして、企業はリストラ要員の選択基準やアウトプレースメント支援策が、従業員に対してもっと説得力あるものにしていく責任がある。

 日本版6シグマでは、経営側の責任として「4つのコアアコンピテンシー」を明確にするとともに、会社にはどんな経営課題があり、目標管理による実績評価と報酬に加えて、社員にはどんな能力要件を求め、どのように給料を支払うかについて、ガイドラインを準備し、デスクローズして行くことを原則としている。つまり、「4つのコアコンピテンシー」の評価によって、自らの給料を稼ぐ「能力資産高」を確認するとともに、これからの生活設計に合致した能力資産向上に向けて、自らの責任とコストで自己啓発に取り組むことを奨励する「6シグマEBC」制度である。この能力評価制度では、プロジェクトマネージャーやサブマネージャー、メンバーの毎月の定額的な給料は、能力要件としての「4つのコアコンピテンシー」によって産み出されるものと仮定している。その上で、次のように個々人の給料を稼ぐ「能力資産高」を会社の要求水準を満たしている「能力要件」の数をもとに、100点満点で換算した得点と査定値で計算する「給料を稼ぐ能力資産高計算方式」を採用している。

 

給料を稼ぐ能力資産高計算方式

■査定値による能力資産高の計算
プロジェクトマネージャー
プロジェクトマネジメント行動能力評価の査定値:A1 給料を稼ぐ能力資産高=給料×A1


サブプロジェクトマネージャー
コーチンググ行動能力評価の査定値:B1 テクニカルスキル能力評価表による査定値:B2 給料を稼ぐ能力資産高=給料×(B1+B2)/2

メンバー
組織行動力評価の査定値:C1
テクニカルスキル能力評価表による査定値:C2 給料を稼ぐ能力資産高=給料×(C1+C2)/2
■計算例

得点別査定値

100点〜90点 査定値S=1.75
89〜80点    査定値A=1.5
79〜70点    査定値B=1.25

69点〜60点  査定値C=1

59点〜50点  査定値D=0.75
49点〜30点  査定値E=0.5、
39点以下    査定値F=0.25

 例えば得点が50点台では査定値は0.75になり、給料分の75%の「人的能力資産」しか持っていないという評価になる。つまり、査定がD以下の場合は、現給料額を稼ぐだけの「人的能力資産」を保有していないということになる。6シグマでは、キャリア開発の視点から、少なくとも計算上、「人的能力資産額」が「現給料」ないし将来の「期待給料」に等しくなるまで、査定値を上げる必要がある。そのためには、どの能力要件をどこまで上げるか、そのためには具体的にどのような自己啓発課題を設定し、どう実行して行くかをはっきりさせ、直ちに実行に移して行かなければならない。           

日本版6シグマの監査
既に述べたように、日本版6シグマ活動の最終的な目的は、W型問題解決フローをベースとした「M5型問題解決技法」を武器に、経営課題を実際的に解決することを通して自律的、継続的に学び、自己改革を行っていく「組織文化」を企業体に植え込んでいくことにある。しかし、現実には日本企業社会に伝統的な「和と強調」を重んじる「金太郎飴組織風土」の中で、右肩上がり時代の成功体験豊富な抵抗勢力との戦いは必然である。長期間、少しも気を緩めることができない戦いである。そこで、最後にあらためて、一連の6シグマ活動の流れを振り返り、自律的、継続的に経営課題を解決できる企業組織体に到達するまでの道筋において、欠かすことのできない「6シグマ活動監査ポイント」を整理しておくことにしたい。

「No.1,2戦略コンセプト」を明確にしているか
6シグマは強者がますます強者になるための活動である。厳しい競争時代にあって、大きくはグローバルに、国内にあっては業界で、地域で、いずれもトップレベルの潜在的なパワーを持った事業を、文字通りトップレベルのビジネスにスピーディに確実に仕上げることができる経営体の実現をめざすものである。

 そのためには、先ず、選択と集中による「No.1、2戦略コンセプト」がなければならない。勝ち目のないビジネスに手を出してはいけない。「何が自分の会社の得意技か、競合相手はどこか、標的顧客はどこで、答えるべきニーズは何か」を、経営トップを中心にしっかりと掴み、経営の意志で実現可能と考えるビジネス目標をトップダウンで示すことが必要である。

トップダウンで「6シグマプロジェクト」が設定されているか
日本版6シグマとTQCのもっとも大きな違いは、課題の設定がトップダウンかボトムアップかにある。従来のQCサークル活動で取り上げるテーマは、現場のリーダーが中心となってグループ内で決めることが多かった。上司は部や課の方針から外れていなければ却下することはない。上司も経営トップ層も現場が一生懸命やっていれば「それでよし」としてきた。いわゆる「ボトムアップ」の奨励である。

 しかし、今日の厳しい競争環境下にあっては、どの企業もきわめて困難な「経営課題」をかかえている。6シグマは、「これらの課題を限りなくゼロに近い『COPQ』レベルで解決できなければ、もはや生き残ってはいけない」という経営の危機意識が出発点になっている。従って、6しぐまでは、テーマが「良きに計らい」方式で、現場のボトムアップで決められるということはない。なぜなら、現場の設定では、普通比較的難易度の低いものに限られることが多いからである。6シグマでは「何が経営課題であるか、何を経営課題とするか」を難易度にかかわらず決定されなければならない。これができるのは本来的に経営トップ層である。いわゆる「トップダウン」による決定である。

プロジェクトマネージャーはエンパワーメントされているか
経営課題を設定するのは経営トップ層であるが、解決に取り組むのは現場の社員である。解決のための情報やアイデアを一番持っているのは、現場で働く社員であるという考えるからである。競争力の厳選は現場の社員である。これらの社員を束ね、経営課題の最善の解決策をつくり実行分担体制をつくるのはプロジェクトマネージャーである。

 6シグマでは、この問題解決の全プロセスは、本来的にプロジェクトマネージャーにまかされなければならない。つまり、権限委譲(エンパワーメント)である。プロジェクトは、誰かが全員からの情報をすべて統合してマネジメントしなければならない。その権限と役割を与えられているのが、プロジェクトマネージャーである。この意味で、経営トップ層の役割と権限の与え方が中途半端になっていないか、逆に良きに計らい式になっていないか、プロジェクトマネージャー自身が、そうした役割期待にふさわしい問題意識とマネジメント能力を具備しているかどうかがきびしく問われなければならない。

目標「COPQ」を金額換算しているか
「6シグマプロジェクト」は2つに分類できる。1つは発生しているトラブル改善、解決型テーマである。2つは新しいサービスや製品、システムの開発型テーマである。いずれも、現実の損失の大きさや改善、解決、開発目標を金額換算することによって、「6シグマプロジェクト」の重大性や問題解決プロセスの管理、成果の評価をわかりやすくすることが必要である。

 トラブル改善、解決型テーマでは、目標「COPQ」の設定は比較的容易である。トラブルが発生しているために、直接、間接に発生している損失を金額換算し、改善、解決によって発生損失「COPQ」をどの金額に押さえるかを定め、6シグマ活動の目標にしていなければならない。開発型テーマでは「開発COPQ」という概念が有効である。決定された開発の「品質や性能」や開発のための「費用、期間」等のトータル目標を計画通り実現することができれば、「開発COPQ」はゼロになる。この考え方をもとに、目標とする品質、性能を実現できるまでの「費用、期間」を金額換算し、計画や予算とのズレを厳しく管理できるようにしておく必要がある。

「VOC」の本質を足と頭で把握しているか
 6シグマのもっとも重要なキーワードは、「顧客の重視」である。6シグマプロジェクトは、いかなる内容の場合でも、一般消費者であったり、ユーザーであったり、取引先であったり、関係部門であったり、必ず顧客は存在する。また「VOC」は、クレームであったり、不満であったり、要望であったりする。

 6シグマプロジェクトは、結局はこうした「VOC」にどう答えるかをはっきりさせるための問題活動である。しかし、顧客のニーズや要望に個別に何でも答えたらよいというものではない。現実に答えられないものも多いはずである。6シグマプロジェクトに関連して直接寄せられたり、自ら足を運んで確認した様々な情報をもとに、「VOC」の本質をきっちりと確認した上で、「最低限、何にどこまでは対応できなければならないか」を絞り込んでおかなければならない。どう対応するかは、あらためて次のステップで考えればよい。絶対に省略してはならないラウンドである。

「CTQ」を絞り込んでいるか
顧客のニーズや要望に100%対応できれば問題はない。大体は内部事情で中途半端にしか対応できていない場合が普通である。内部にどんな問題を抱えているのか、顧客対応が充分できていない事実としての問題点をもとに、組織として本質的に解決すべき問題を浮き彫りにし、絞り込まなければならない。小手先の対応でその場を切り抜けるのでなく、急がばまわれ出で、先ず内部にメスを入れることである。

「SSP」をシャープにコンセプト化できているか
 日本版6シグマでは、6シグマプロジェクトを実現するために解決しなければならない基本的課題「SSP」をコンセプト化するラウンドがもっとも重要である。「VOC」、「CTQ」をもとに、大胆に「SSP」を設定し、絞り込まなければならない。しかし、その「SSP」の妥当性を100%こだわる必要はない。「Semi−Exact」な正しさでよい。大事なことは、「SSP」のコンセプトのシャープさである。「何のために、何を、どうするのか」、つまり基本課題の「Why,What,How」が明確化できていなければならない。

 なぜならば、日本版6シグマでは、メンバー全体の問題解決への集中力を高めるためには、論理的でシャープな課題設定のプロセスが不可欠であると考えるからである。とりわけ、プロジェクトマネージャーが「Semi−Exact Science」に裏づけされた情報処理技術を持って「SSP」設定プロセスを充分リードできることが、6シグマプロジェクトの成功にとって不可欠であると言っても過言ではない。

リスク対策を徹底しているか
「SSP」の妥当性は「Semi−Exact」であるが、決定した「SSP」は確実に解決するというのが日本版6シグマである。そのためには、解決策としての一連の「S・SSP」の設定や実行はプロジェクトメンバーの手に委ねられるが、その実行と成果については厳しいフオローが不可欠である。特に「SSP」の責任者であるサブプロジェクトリーダーの「リスク対策面」でのリーダーシップが不可欠である。

 個々の「S・SSP」への取り組みにあたって、「誰が分担し、いつスタートし、いつまでに終えるか」を全体で議論し、実行計画書を作成する。しかし事前検討をどんなに十分行ったとしても、この計画は常に絶対ではない。そこで計画通りの進行を阻害することになると思われる「リスク」を一緒になって想定し、事前の「予防対策」、事後の「緊急事対策」を的確に盛り込んだ「実施計画書」を作成する必要がある。

実施計画のジャッジは経営トップ層の役割である
日本のボトムアップ型の経営では、経営トップや上位者はよく、下からの提案に対して「これで大丈夫か」という質し方をする。6シグマでは、その判断はまさに経営トップ層(チャンピオン)の役割である。プロジェクトリーダーの責任のもとで作成された「実施計画書」は、チャンピオンに提案される。「VOC」や「CTQ」の把握の仕方、「SSP」や「S・SSP」の設定の確かさ、実行期間の長さ、目標とする成果、かけるコストの大きさ等、実施計画書の妥当性について、経営的判断を仰ぐためである。

 もし不十分であれば、その部分を指摘して差し戻せばよい。実施計画の立案と実施については、チャンピオンからプロジェクトマネージャーに権限委譲がされるが、それは決して良きに計らいでもなければ無秩序でもない。6シグマはあくまでトップダウンである。実施計画について、提案通りでいいかどうかについて、経営上のリスクをもって最終判断するのは経営トップ層でなければならない。この点において、権限委譲はあるが、トップダウンの原則は一貫しているのである。

プロジェクト活動状況はITネットワークで適宜発信されているか
 「6シグマプロジェクト、SSP、S・SSP」はワンセット化され、「6シグマMBO」制度と直結していることが、6シグマ活動の全社的な定着には欠かせない。6シグマは、企業が自律的、継続的に学び、自己改革を行っていく「組織文化」を自らに植え込んでいくことが究極の目的である。、そのためには、各プロジェクトの活動状況がIT情報ネットワークで適宜発信され、その成果が全体で容易に共有しあえるようにすることによって、お互いに刺激となって、全社的な運動として展開されるようになることが有効である。

経営は成果の評価と人材育成の責任を果たしているか
経営にとって、プロジェクトの成果を正当に評価し、社員に対して目に見える形で報えることは当然の責任である。さらに6シグマ円滑な活動と成果の最大化のためには、同じく経営の側の役割として、それぞれの企業がプロジェクトマネージャー、サブリーダー、メンバーの各クラスを対象に、独自の「ココンピテンシー」に裏づけされた「6シグマ教育と評価、人材育成プログラム」を展開し続けることが必須である。

おわりに
 欧米にあっては、1985年から1995年にかけて、多くの企業が必至に改革に取り組んだ。その代表的例が経営、業務品質向上のための問題解決活動としての「6シグマ」である。一方日本は、最近の米国経済の失速でさらに先行きが怪しくなってきている。日本経済が復活するためには、これまでの財政、金融政策に加えて、各企業が拡大成長路線の後始末を厳しく清算するとともに、ますます多様化し、個別化する市場ニーズに対して、コスト、品質、スピード面で競争力ある独自の製品、商品、サービスを提供できる実力をつけ直すしか道はない。

 筆者は、83年のベルヒュード研究会の発足以来、独自の「6つの組織モデル論」と「ST(ソリューションテクノロジー)としてのM5型問題解決技法」の体系化と普及によって、企業経営の内部革新について問題提起を行ってきた。この間、3つの大きな契機に遭遇した。1つは90年に入ってのバブル崩壊不である。2つは90年後半のIT時代の到来である。いずれも日本企業に対して、特に「経営、組織、社員の関係のあり方」について根本的な見直しを迫るものであったが、多くの企業の対応は表面的なものでしかなかった。そして3つ目がジャックウエルチの「GE6シグマウエイ」との出会いであった。そして、その全体は、従来のアメリカの指令統制中心の「M0型組織」や日本の和と協調重視の「M1型組織」を否定し、経営トップと価値観を共有し、問題解決に挑戦する組織「M5型組織」をめざす「People Out」路線と、あらゆる業務において無駄な仕事を排除し、「ST(ソリューションテクノロジー)」としての論理的な問題解決的なアプローチ方法を追求する「Work Out」路線によって構成されているという理解に至ったことであった。

 この3つ目の出会いが契機となって、「日本版6シグマウエイ」の発想が生まれた。日本版6シグマは、経営トップ層からエンパワーメントされた幹部職層が中心となって、現場の一人一人のやる気やナレジを重視し、徹底的に管理しない、主体的かつ継続的に問題解決に挑戦する企業組織風土を、確かなソリューションテクノロジーの裏づけを持ってつくり上げようとするものである。しかし、日本企業では、これまでは強みそのものであった「M1型組織」からの脱却は至難の技である。日本企業で6シグマを成功させるためには、これまでの企業社会に伝統的だった組織文化の本質をよく理解した上で、本来的な組織のチームワークや総合力で勝負できる「日本版6シグマウエイ」を工夫していく必要がある。日本の企業組織の文化的な体質転換は避けては通れないという意味で、今後も「日本版6シグマプログラム」の耐えざる実践的改善が必要なのはいうまでもない。  


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