新連載

日本版6シグマによる人材育成と組織強化
<No.9>

組織行動様式の変革
日本版6シグマ「プロジェクト組織」の本質

GEに代表されるアメリカの6シグマでは、問題解決力のある「M5型組織」への転換に向けての「People Out」は、経営トップの長い期間に渡る強いリーダーシップに依存している。しかし、長い間ボトムアップ型経営に依存してきた日本企業では、一般的に、トップにこのような強いリーダーシップを急に期待することは困難である。この意味で、日本版6シグマでは、経営トップ(チャンピオン)が「6シグマプロジェクト」への取り組みを現場にエンパワーメント(Enpowerment)しているという前提であるが、問題解決力ある「M5型6シグマプロジェクト組織」の発足と運営において、管理職層(ブラックベルット)の果たすべき役割は大きい。

 「日本版6シグマ」における「6シグマプロジェクト組織」として、「M5型組織」が具備すべき本質的な特徴を整理すると、次のようになる。

(1)6シグマプロジェクトに対する問題意識が強く、メンバー間やメン
   バーと上司の間でメールなどによる自発的な情報の発信と共
  有化が日常的に行われている。
(2)プロジェクトの進捗状況に応じて、メンバーの主体的な提案で臨
   機応変に合議の場が持たれる。
(3)合議の場では、メンバーの主体的で多様な視点からの意見やア
  イデアや情報提供が評価され、積極的に取り上げられる。
(4)プロジェクトの実現に向けて、常にチームの合意で、顧客第一
   主義の立場から「基本的課題」が論理的に設定される。
(5)「基本的課題」の解決にあたっては、メンバーが自らの持つ専
  門的な知識や技術を踏まえ、失敗を恐れず、挑戦的に取り組む
   ことが奨励される。
(6)メンバーに対するプロジェクトへの貢献度は、個々の失敗にでは
  なく成果に対する「加点評価主義」がベースになっている。

問われる「M5型組織」のマネジメント力

 「M5型6シグマプロジェクト組織」にあっては、プロジェクトマネージャー(ブラックベルト)は、「問題意識の共有化」、「顧客ニーズの理解」、「問題要因の絞り込み」、「顧客の立場に立った課題設定」、「課題解決のための適材適所の実行分担体制づくり」という一連の原理原則的な問題解決プロセスを通して、メンバー(イエローベルト)を実践的にリードし、実際的な成果をスピーディに確実に上げなければならない。つまり、日本における6シグマ成功の鍵は、管理職層を中心としたプロジェクトリーダーが自らのリーダーシップで、「M5型的プロジェクト組織」をいかにつくり上げ、いかに運営していくかにかかっている。

 このことはとりもなおさず、日本企業の管理職が、これまでの「M0型組織」や「M1型組織」のマネジメントにおいて成功してきた行動様式に訣別し、どれだけ「M5型組織」をマネジメントする上で効果的な組織行動様式、つまり「M5型マネジメント行動」へ転換できるかが問われているということではないだろうか。

「M5型組織マネジメント」に
  不可欠な「2つの基本的力」

(1)個性派人間集団をマネジメントできる力
 「これまでの成功を踏襲したり、同業他社の出方を見てから」という経営の時代は完全に終わった。日本企業が得意としてきた高品質な規格品を大量に安く供給するという役割は中国等に移行し、低コスト化の要求はこれまでの常識をはるかに越えたレベルになっている。国内的には、成熟期に入り、モノの生産が頭打ちになっている。デフレ不況で収益悪化が続いている。しかし、国民の消費動向を見ると、冷え切っているというわけではない。ただ、モノがレジャー化し、何がなぜ売れのる、何をどうすれば売れるのかが予測し難い、混沌とした時代になっているだけである。

 これまでの経営では、「将来は、過去の経験やデ−タの延長線上にある」という前提があった。しかし、今日では、過去はどんなに分析しても、明日を予測する材料にはなり得ない。こんな中で、これまで力を持っていた「同じ感じ方、考え方」の持ち主ばかりを集めていたのでは、事態は堂々巡りするだけである。「6シグマ活動」に取り組んでも、相変わらず同質的な「M1型人間集団」が中心であれば、結局目先の利益が捨てきれず、従来路線を走る方向でしか手が打てないであろう。
 いずれにせよ、日本企業における「6シグマ活動」は、こうした時代認識のもとで、コストダウンにせよ、商品やサービスの開発にせよ、先を読んで、最小の「COPQ」でスピーディに成果を出せるものでなければならない。そのためには、今起きている動きや変化を事実として素直に捉まえ、明日をさまざまな視点から展望し、課題を設定し、その課題解決に向けて自律的に発言し、行動できる人間集団、すなわち「M5型組織人間」が登場しなければならない。さらに何にも増して大事なことは、こうした人間に存分に働いてもらえる、いわゆる「M5型組織」をマネジメントできるリーダーの存在である。

(2)説得より聴く力
 これまでのキャッチアップ時代にあっては、日本企業の競争力は、同質化、同一化の力を持った「M1型組織」の中にあった。ここでは「何が善で、何が悪か」という「組織のタテマエ」が、経営トップから幹部社員に、上司から部下へ、先輩から後輩へと、長い期間にわたって連綿と伝えられ、みんなが暗黙の内に、競って同じ考えや行動をとる「M1型金太郎飴組織」ができ上がってきた。自己主張の強い社員があらわれると、周囲は敏感に反応し、脅し、なだめ透かし、皆と同じ「一本道」を走るよう説得してきた。

自我を通そうとすると、間髪を入れずに横やりが入る。こうした組織風土の中で、全体がいつ、どの方向に向かうか、常に神経を研ぎ澄まし、ついには、何かを感じた瞬間に同じ方向に一緒になってサッと動く「メダカのような集団」が出来上がったのである。これまでの部長や課長に求められた指導力は、組織の「タテマエ」になじまない異質人間を説得したり、改造したり、あるいは排除したりして、結局、結集力の強い「金太郎飴集団、メダカ集団」をつくる、いわゆる「M1型組織マネジメント力」そのものであった。

 これに対して、日本版6シグマが推奨する「M5型組織マネジメント力」は、経営課題を解決するために、内外の異質な情報、異質な人間を重視し、その関わりの中から「問題解決力のある組織」を創る力である。お互い共通部分の少ない相手を受け入れることは、「M1型組織」にどっぷりつかってきた人間にとっては、決してやさしいことではない。ましてや、自分と対立する価値観や考え方を持つ人間と一緒に考えたり、実行したりするということになれば、絶望的なくらい困難である。この意味で、「M5型組織のマネジメント」において問われる力は、組織のタテマエや枠を越えて、相手の立場に立つことができ、相手の感じ方や考え方がわかり、自らの役割や課題を率直に認識し、設定できる力を持っているかどうかである。

 外にあっては、顧客の声「VOC」の重視である。内にあっては、組織の弱み「CTQ」の把握である。顧客や部下のどんな意見も考え方も切り捨てたり、無視したりせず、首尾一貫、大いに歓迎し、そこから自らの役割を認識し、課題をつくる姿勢が原則である。ここでは、「M1型組織」のマネジメントに不可欠であった「説得の技術」は中心になり得ない。中心になる技術は、「聴く技術」である。必要なことは、相手が言わんとしていることを、確実に言わせ、あるがままに受け入れ、認識する力であり、その認識をもとに自らの課題「SSP」をつくる力である。    

組織行動様式を診断する
 日本版6シグマでは、これまで繰り返し「M5型組織」が指向され、プロジェクトマネージャーやメンバーは自らを「M5型組織」にふさわしい人間へ自らを変革していくことが望まれることについて述べてきた。つまり、「問題意識の共有化」、「顧客ニーズの理解」、「問題要因の絞り込み」、「顧客の立場に立った課題設定」、「課題解決のための適材適所の実行分担体制づくり」という一連の「6シグマ活動」において、この「Work Out」の実効を上げるためには、大事な目安として、マネージャーやメンバーは「M5型組織」に特徴的な「マネジメント行動」や「組織行動」がとれなければならない。そして、この「M5型組織集団」に向けての行動変革こそが、「People Out」の中心的内容である。

 ただ、人間が組織の中で見せる行動様式は、現実の様々な場面で学習を繰り返しながら、意識的に、無意識的に身につけてきたものである。あるいは、子供の頃の家庭や学校生活の中で、両親や兄弟姉妹、友達や先生から受けた影響に強く根ざした部分もある。この意味で人間の行動は、本来的に複雑で流動的で、無理矢理に「一つの様式」に集約してしまうことは現実的でないかもしれない。しかし、これまで「M0型組織」や「M1型組織」の世界に順応することによって、強固に身につけてきた行動様式から脱却できない限り、「6シグマ活動」すなわち「Work Out」の成果も多くは期待できない。従って、ここでは「People Out」を、「意識や考え方」の次元の問題としてだけではなく、「行動」の次元の問題として取り上げることにした。具体的な「行動」の結果として、「メンバーの意識や考え方」、「組織の雰囲気や風土」がどのように変化し、そのトータル的な結果として、「Work Out」がどのような成果を生みだしたかを実感できるようになれば、「People Out」も現実的なものになるはずである。
     

組織行動様式の
バージョンアップ課題をはっきりさせる

 自己診断表(省略)によって、自分に特徴的な「組織行動様式」がわかる。6シグマ活動の担い手として、具体的にどんな行動をどのようにバージョンアップしなければならないかがわかるはずである。そこで以下に、「60の組織行動診断リスト」をもとに「6つの組織行動様式」の本質的な特徴をまとめてみた。皆さんの組織行動様式のバージョンアップの一助にして戴ければ幸いである。

(1)M0型組織行動
ここでは、唯我独尊タイプのトップや上司と、これに滅私奉公的に仕える部下の双方の関係の作り方が中心である。このタイプのトップや上司にとっては、自分の考えや思いを実現することが一番の価値であり、その価値観に基づいて組織全体を厳しく方向づけし、制御しようとする。彼らは危険や失敗を恐れず、部下を力で支配し、自分の手足のように動かすことができる。部下が役に立たないと判断した時は、すぐに排除する手段に出ることができる。

 この世界で、中間管理職として力を発揮するためには、トップや上司の期待に応えようと自らも努力し、部下にも努力を強制できるリーダーシップが必要である。時には虎の威を借りて、部下を自分に従わせ、上手く取り仕切ることで、上からの信頼を不動のものにしなければならない。部下が思うように動かない時は、上司のところに足繁く通い、指示を仰ぎ、彼らを仕切り切らなければならない。自分に対する不評や不満が上司に伝わる前に、こまめに先手を打って状況を説明し、いかに自分は一生懸命やっているかをわかってもらわなければ、いつお役後免になってしまうかわからない世界であるからである。

(2)M1型組織行動
 この「M1型組織」では、どんな成果も全体が「タテマエ」や「ルール」をよく守り、協調してがんばって走った「結果」であり、その結果として組織はベストの状態に維持されるという考え方に立っている。そのために、リーダーにとっては、部下が自分個人に対して以上に、組織の「タテマエ」や「決まり事」に対して、どれだけ忠実であるかということの方が重要である。

「M1型組織」のマネジメントの究極の目的は、成果を上げることよりも部下が主体的に「和と協調」を重視し、、決めたことや決まったことを横並び的に競って実行する組織をつくり上げることにある。成果は、そうすることによって自ずと積み上がるものであるからである。この意味で、部下に「質の高い仕事を効率よくやれ」と創意工夫の必要性を説いても、勝手に従来にないやり方をさせ失敗させては、「M1型組織」のリーダーとしては失格である。「リスクをおかさせない、冒険させない、失敗させない、上司に迷惑をかけない」ための「ホーレンソー」(報告、連絡、相談)による気配りの組織マネジメントができるリーダーが優秀なリーダーである。

(3)M2型組織行動
ここでは、「組織のタテマエ」を認識しながらも、自分の好きなことしかやろうとしない「M1型組織内放浪人間」を、どう戦力化するかというリーダーシップが問われる。もともと「好き嫌い人間」は、上司の命令と言っても「気の進まないこと」からは上手く逃げ回るのが得意である。しかし、誰しも「好きなこと」は「得意なこと」であるはずである。「好きなこと」には、あまり苦にせず努力できるし、結果として人一倍努力できるからである。会社でも誰もが「好きなこと」が仕事になっていれば、本人にとっても会社にとってもどんなにいいかわからない。ところが、現実には会社で「好きなこと」や「得意なこと」を仕事にできている社員の数は少ない。「嫌なこと」でも仕事だから我慢してやっているし、不本意ながら、嫌々ながら上司にゴマもするというわけである。そして成果にはあまり関係なく、本来的に「嫌なこと」を我慢して辛抱強くやっている人間が評価されている。

 会社としては、高い成果を効率よく上げさせる上で、社員のやる気を出させる上で、「好き嫌い人間」を積極的に発掘し、彼らにやってもらう仕事をたくさん用意することにもっと真剣になってもいいはずである。この意味で、「M2型組織」のリーダーは、部下に対して寛容的、肯定的、共感的に接すると同時に厳しく成果を求める姿勢と行動が求められる。部下の想いや興味関心を理解できるだけの感受性や知識や技術も持っていなければならない。彼ら「好き嫌い人間」が、「どんな仕事を、どういう理由で、どうやりたいのか」を単刀直入に迫り、組織の中で彼らが没頭できる仕事をお膳立できれば、あとは実績で迫れるだけである。「好き嫌い人間」を戦力化することによって、むしろしたたかに彼らの上前をはねることができれば、お互いにハッピーである。

(4)M3型組織行動

 「M3型組織」では、「リーダーシップ」とか「マネジメント」という概念が根本から見直されなければならない。ここでは「タテマエ中心の組織を、漂うように、無感動に生きている人間に、どう対処していったらいいか」という視点から、リーダーシップのあり方を問題にする。彼らはどんな要請にも反発はしない。「M1型組織」の世界のタテマエは認めている、しかし、積極的に渦中に入ろうとはしない。今の「組織のタテマエ」自体が、彼らにとってはどうでもいいことであるからである。ただ彼らは内なる羞恥心の琴線に触れる場合は、途端に「オリル」という「脱行動」に出る。

 昨今、日本の政治や経済が閉塞状態にある中で、国民は「オリル」という脱行為を通して、日本型社会のシステム転換を求めている。最近の国政選挙の投票率は30%台がめずらしくなくなっている。国民は「棄権」によって、今の政治の論点が的はずれであることを指摘している。経済面では、国民の「買え控え」が一向に回復しない。国民は「買え控え」という「脱消費行動」によって、日本経済社会の根本的なシステム転換を迫っているのである。

 「M3型組織」では、どんなリーダーも打つ手はないように思われる。必要なことは、原点に戻って「M1型組織」のどこが、どういう理由でおかしくなってきたのか」を洞察し、将来のあるべき姿を展望し、使命感を持って変革すべき課題を明確にし、一人一人に問いかける「M4型的組織リーダー」の出現である。                 

(5)M4型組織行動
 ここでは、「M0型組織」や「M1型組織」の停滞や頽廃に対するアンチテーゼをバネに、「高い志と使命感」を持って、自らの想いと理想の実現に「我が道を行く人間」のリーダーシップを問題にしている。

 ただ、この「M4型組織」に登場するリーダーは、自らの想いや理想の実現に性急に走る傾向がある。先見性があり、主張が一貫しており、妥協しない、ウソをつかない、言い訳をしない、決断力があるが、しかし、現実の矛盾を客観的、理性的に分析し、周囲の人間に丁寧に説明し、理解者を増やしていくという戦術は苦手としている。そのためには、このM4型的リーダーは、危険や失敗を恐れず、行動するが、「自分は絶対正しい」という思いこみと頑なさと無手勝流ゆえに、抵抗派の切り崩しにあい、同調者は漸減し、やがて孤立していく宿命にあるとした。

(6)M5型組織行動
 「M5型組織」は、日本企業の「6シグマ活動」を成功に導く上で不可欠な「組織モデル」である。「6シグマプロジェクト組織」のリーダーやメンバーをめざす人間は、これまで「M0型組織」や「M1型組織」の世界で身につけてきた「行動様式」からの脱皮が求められる。

 今日、日本企業はバブル経営の後始末、グローバルな競争力強化に向けて、コスト構造の正常化、付加価値の高い製品やサービスの創出という困難な課題をかかえている。あわせて「内需拡大施策を成功させ、世界経済の安定化に寄与する」という国際的な使命と責任の問題もある。日本人はいよいよ、これまでのキャッチアップ時代に訣別し、新しい価値創造の担い手として、主体的な消費者として、「我が道を行く」ことを問われる時代を迎えたのである。

 先ずは、協調性はあっても、自己主張のない非個性的な「金太郎飴集団づくり」からの決別である。そのためには、家庭でも、学校でも、企業でも、あらためて一人ひとりの多様な個性を重視し、尊重する社会システムを追求していかなければならない。企業における、経営や業務の競争力アップをめざす「M5型組織行動」をベースにした「6シグマ活動」は、何にもまして成功させなければならな現実的課題である。「M5型組織行動」は、「日本人の意識構造や行動様式の改革プログラム」のようなものである。しかし、決して大げさなものでもないし、難しいものでもない。とりわけ企業組織の中で、自分たちに課せられた「6シグマプロジェクト」を成功させるために、自分の枠組みをどう拡大していくか、仕事に対する取り組み方や顧客や上司や同僚や部下との関係の持ち方をどう変革していくかについて、具体的な行動の問題として考え、実行することから始めればいいだけである。いろいろなところで、とりわけ企業組織社会の中で、そうした地道な積み重ねがなされるようになれば、全体として「個性が尊重され、豊かな発想が重視される社会基盤」がつくられていくようになるに違いない。

「M5型プロジェクト組織行動」の本質的特徴
(1)顧客ニーズへの対応を第1にして、常に組織のメンバーに社内
   事情よりも市場事情を優先させた考え方や行動を奨励している。(2)メンバーの問題解決への参加意欲を高めるために、誰からも
  率 直に話を聴く姿勢を保っている。
(3)メンバーの問題解決への集中力を高めるために、論理的な課
  題設定のプロセスをリードすることができる。
(4)最適な問題解決体制をつくるために、上下の関係なくメンバー
   に適材適所で仕事をまかせている。
(5)メンバーの可能性を最大限に引き出すために、「長所と成果」
  のワンセットを重視した加点主義考課を貫いている。        


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