新連載
「日本版6シグマ」による「人材育成と組織強化」
<No.7>
 M5型問題解決技法による
   日本版6シグマ活動の推進 People Out その1
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Work Out」と同時進行の「People Out」
 ここまでに、「日本版6シグマツール」としての「M5型問題解決技法」による6シグマ活動の展開、すなわち「Work Out」の全プロセスを紹介した。このプロセスは、経営課題としての「6シグマプロジェクト」を実現するための、経営トップ層と現場が一体となった問題解決活動であり、次の「4つのステップ」に要約することができる。

「Work Out」の4つのステップ
(1)6シグマプロジェクト」の共有化
(2)VOCとCTQのコンセプト化と絞り込み
(3)VOCとCTQをもとにしたSSPのコンセプト化
(4)SSP実現のための実行計画のプログラミングと実行

 「Work Out」の成果を左右するポイントは、「一体化体制」である。つまり、トップダウンによって決定された経営課題としての「6シグマプロジェクト」の解決に向けて、経営トップ層から現場末端までが、どれだけ一体となった効率的な推進体制をつくることができるかである。それでは、このような「6シグマプロジェクト」の「一体化体制」は、何によって保証されるのであろうか。

 GEのジャック・ウエルチは、アメリカ企業に一般的であった「指示命令で管理される組織−M0型組織」を否定した。しかし、日本の和と協調をベースにした「ボトムアップ型組織−M1型組織」の限界も看破していた。つまり、M0,M1型的な組織に固執する社員を整理し、社員全体がトップと一体となって経営課題解決に創造的に挑戦する組織−M5型組織を追求したのである。つまり、「People Out」である。
 ジャック・ウエルチは、組織の一体化体制醸成のために、経営トップとしての労働時間の7割を、社員に直接的に語りかけることに費やしたという話が語り草になっている。クロトンビルにあるGEのリーダーシップ開発研究所で、経営方針や自らの価値観を熱く語り、社員と事業の戦略や戦術について検討や討論を行った。またこの研究所には、財務や人事、IT等の特殊な専門家を育成するコース、キャリア開発コースに加えて、6シグマツール実践支援コースがある。ジャック・ウエルチは、当研究所をGEの知的活動の原点として位置づけ、経営の価値観を社員に伝え、共有化させる、つまり、「People Out」のためのトレーニングや教育の場であるとし、その精神は今日に受け継がれている。

 アメリカの他の企業でも、6シグマプログラムを中心に、この「People Out」のためのトレーニングや教育が一般化している。私のアメリカの友人の話によれば、アメリカの6シグマ教育は、アメリカ人でもいい加減にして欲しいと思うぐらい、「何に、どのように取り組まなければならないか」まで、がんじがらめの有無を言わせないプログラムになっている。

 確かに、日本の企業内教育では、アメリカのようなトップ主導型の徹底した「People Out」は期待できない。しかし多くの日本企業の社員は、「何のために、何をやるべきか」がはっきりし、任されれば、がんじがらめの手順やマニュアルがなくとも、グローバルに見ても圧倒的なレベルで、主体的に取り組み、確実に成果を出す力を持っている。ここに、日本版6シグマの独自な展開の可能性がある。

 日本版6シグマでは、「6シグマ導入目的の明確化」のプロセスをトレースすることによって、経営課題としての「6シグマプロジェクト」の目的を共有化し、「6シグマプロジェクト」への実際的な取り組みによって、経営と現場の質の高い一体化体制を実現できるという立場に立っている。

 つまり、日本版6シグマでは、「M5型問題解決技法」を武器として「Work Out」に取り組むが、中でももっとも重視している「VOCの本質を把握し、CTQを絞り込み、いくつかのSSPをシャープにコンセプト化するとともに、そのSSPの全体を共有化する」(これはアメリカ版6シグマの問題解決フローの『Defnision』の部分に相当する)ための「Semi−Eact」な情報処理技術のレベルアップによって、「People Out」は、より本質的な部分で、同時進行的に進展するという考え方が中心になっている。従って、「People Out」の全体を紹介するにあたっては、先ず、「6シグマプロジェクトの推進メンバーが『M5型問題解決技法』の中核となっている『Semi−Eactな情報処理技術』をいかにして身につけるか」という切り口から入ることにしたい。

 もちろん、「People Out」は、問題解決力ある「6シグマ組織」をつくり上げるためのトータル的な組織力強化、人材育成プログラムである。6シグマ活動を効果的に展開して行く上で、一人一人の「Semi−Eactな情報処理技術」に加えて、中でもプロジェクトリーダー(ブラックベルト)に求められるマネジメント能力やメンバーとして求められる組織行動、専門的知見や技術、技能等のコンピテンシーの明確化、これらをガイドラインとした人的能力の評価やキャリア支援システム、「SSP」や「S・SSP」と直結したMBO制度(Management By Object:目標管理による公正な成果の評価)等の「インフラの整備」も「People Out」の重要な要素である。これらについても、具体的に順を追って紹介することとしたい。

人材育成の中心は
 情報処理技術のレベルアップ

決め手となる3つの基本概念のコンセプト化力
 −不可欠な「Semi−Exact ScienceとしてのST」

Semi−Exactとは
 「M5型問題解決技法」における、特に「VOC」と「CTQ」をもとに「SSP」を設定する現状把握から課題設定までのラウンドでは、それぞれにふさわしい「情報収集、処理技術」が重要な位置づけになっている。現実的に、「SSP」をどれだけシャープに設定できるかが、「Work Out」の成功を左右すると言ってよい。しかし、経験的にも、日本版6シグマにおいて、もっとも大事なこれらの3つの基本概念をコンセプト化するための情報処理技術の難しさを訴える人が格段に多い。

 確かに、情報の収集といっても、今日の世の中の変化の激しさや多様化の流れを考えた時、我々が手にできる情報が持っている、将来を展望し、経営課題を解決できるという意味での正確性、信頼性はとみに落ち込んできている。経営トップ層が握っている情報はむしろ大体が陳腐である。現場の社員が持っている情報やアイデアや知恵は、現場に渦巻いているという意味では新しいが、経営の問題解決に対する信頼性という点では曖昧で低いと見なされているのが普通である。コンピューターは正確(Exact)な情報処理のチャンピオンである。正確で信頼できる情報をインプットすれば、その情報処理プロセスが正確であれば、アウトプットの信頼性は高くなる。しかし、今日のようにインプット情報の信頼性がはっきりと弱まりつつある時、情報処理のプロセスが正確であればあるほど、アウトプットの信頼性は低下してくる。これまでのような正確(EXACT)なデータの収集と正確な分析に頼っている限り、経営予測がはなはだしく困難になっているという状況は、まさにこのことを物語っている。

最近アメリカで流行っている「ナレジマネジメント」は、課題解決のために個人が蓄積してきた暗黙知的な情報を、形式知的な情報に転換し、全体が共有化し、価値ある知力を創出するための情報管理手法である。確かにIT時代の到来で、誰もが大量の多様な情報を容易に入手できるようになった。そして、誰もがそれぞれの問題意識と情報を持って、問題解決の場面に参加できるようになった。しかし、実際には、こうした情報は一人一人の人間を媒介して収集され、伝達される。言いたいことが的確に表現され、正しく受け止められ、共有化される保証はない。「Work Out」においても、「VOC」と「CTQ」をもとに、「SSP」をコンセプト化するプロセスでは、「そんな一般的で、しかも曖昧な情報で出す結論には、信頼性がないのではないか」という批判が出る。

 そこで問題は、スーパーなアイデアや情報が見つけ難い限り、一般の社員が持っている身近な情報を持って、それはまさしくIT時代に特徴的な多種多様で曖昧な(Semi−Exact)情報の氾濫であるが、いかにして解決につながる価値ある「知力」を創造することができるかである。今日の情報自体がもっている曖昧さ、不確実さを前提として、それなりに確かな将来展望や意志決定ができる「情報処理技術」が待たれる理由がここにある。つまり、「Semi−Exact Scince」としての「情報処理技術」である。

 「日本版6シグマ」では、「VOC」や「CTQ」の本質を探り、的確に「SSP」をコンセプト化できる力を最重要視し、プロジェクトリーダーを中心に、「M5型問題解決技法」を通して、中でも「Semi−Exactな情報処理技術」をレベルアップすることこそが、「Peple Out」の成果を左右する基本であるとしている。

理論的背景としての等価変換論
 「Semi−Exactな情報処理」とは、第4稿で紹介した「VOC」の本質的意味を把握するために、顧客のクレーム情報をデータ化し、グループ化し、「表札」をつくるプロセスがこれにあたる。また、第5稿で紹介した「CTQ」の絞り込むために、事実としての問題点データをもとに「表札」をつくるプロセス、同じく「6シグマプロジェクト」を解決するための「SSP」をコンセプト化するために、身近な具体策データをもとに「表札」をつくるプロセスがこれにあたる。

日本版6シグマでは、「M5問題解決技法」の中核となっている、特に「VOC」→「CTQ」→「SSP」という一連の累積的な問題解決プロセスを、「Semi−ExactScience」としての「ST」(Solution Tecnology)であると位置づけている。いずれも、もとになる情報は曖昧で信頼性に乏しいが、そういった情報を広く集め、本質をたどりながら、最終的に70点から80点程度の確かさ(Semi−Exact)で解決すべき課題を結論づける情報処理技術である。「People Out」は、この「Semi−Exact」な情報処理によって、「VOC」、「CQ」、「SSP」を的確にコンセプト化するプロセスとともに進展する。しかし、かなり訓練が必要である。なぜ訓練が必要なのか、どのような訓練をすればよいかについては、図表1「VOC、CTQ、SSPコンセプト化のための情報処理プロセス−表札の構造、「表札づくりの情報処理理論」)にまとめた。ここでは「Pople Out」にかかせない表札づくり力をアップを図るために、知っておきたい情報処理技術上の最小限のポイントを説明しておくことにしたい。なお、この「表札づくりの情報処理理論」は、市川亀久彌博士の創造性開発研究理論としての「等価変換論」をヒントにまとめたものである。

コンセプト化の情報処理プロセス

16シグマプロジェクトに対する問題意識の強さ

情報の収集や処理を通して「VOC」や「CTQ」、「SSP」をコンセプト化するプロセスにおいて、その表札の信頼性は何によって保証されるであろうか。

 会議などでよく見かける光景であるが、ウツラウツラ居眠りしていた人が突然身を乗り出してとうとうとしゃべりだすことがある。しかし、一通りしゃべってしまうと、あっさりと引退してしまう。自説に最後までこだわり、他人の意見や情報を積極的に受け入れようとしない人もいる。

 自分なりに興味、関心が持てるところでは、一応の役割を果たそうとするが、ほんの少しでもそれたところでは、頭の働きは停止して、他人任せになってしまう。逆に自説や先入観念に拘り、批判されると、問題の解決よりも自分のメンツの方を重視し、他人の情報や考えに耳を貸さなくなり、全体の足を引っ張ったりする。このように関心の持ち方が部分的で、表面的であるということは、本人の課題に対する「問題意識の弱さ」からきている。

 6シグマプロジェクトでは、メンバーは何よりも、プロジェクト目標を何としてでも実現したいという「問題意識の強さ」で選抜されるべきである。問題意識が強ければ強いほど、自分の持ち合わせの価値観や枠組を越えて、顧客の声や部下が持つアイデアや知恵に対して謙虚になることができる。プロジェクト課題解決のために、あれこれと広範な視野から、顧客の声である「VOC」や内部の問題点である「CTQ」や、その「CTQ」を解決するための手だてとしての「具体策」を真剣に探し求めようとする「エネルギー」(Vι)は、本来的に真摯な問題意識の強さに比例するものであり、プロジェクトメンバーにとってもっとも強く求められる要素である。

2情報の収集とデータ化

(1)幅広い視野から情報収集

「6シグマプロジェクト」で、リーダーを中心にチームが結成される場合は、それぞれの分野から問題意識の強い専門家が集められるのが普通である。しかし、実際的なアプローチでは、専門家としての固定観念や枠組みを捨てて、できるだけ幅広い視野から、顧客の声「VOC」の本質を理解し、客観的に部門の問題点「CTQ」を絞り込み、解決すべき課題「SSP」をシャープに設定することに専念する必要がある。そのためには、顧客の声や部門の問題点に関して、360度の視野から幅広く事実情報を収集し、ひとつずつ4W1Hの視点から「〜が〜である」という表現で簡潔に個別的にデータ化することができる情報処理力が求められる。

 また、設定した「SSP」の解決のためには、メンバーの専門的な知識や技術、技能が武器になるが、スピードと確実さを第1に、幅広く外側に知見を求め、ダイナミックに最適解決策を探っていかなければならない。そのためには、「SSP」の解決に向けて、どのようなアプローチ方法があるかを明確にし、同じようにその「具体策」をひとつずつ「〜を〜する」という表現で簡潔に個別的にデータ化できる情報処理力が求められる。

(2)情報を独断的にねじ曲げない
 問題意識が強いメンバーで構成されているプロジェクトチームでも、自分が言いたいことを相手に的確に伝えたり、相手の言いたいことを的確に理解したりすることは必ずしもやさしい事ではない。特に、リーダーに対しては、部下の意見や情報は十分に伝わり難いものである。部下が持ってくる情報が、上司にとって都合の悪い場合もある。躊躇や遠慮があったり、緊張したりして、また伝えたいことが十分咀嚼されていなかったりして、部下がしどろもどろになってしまうことも珍しくない。

 自分の狭い枠組みでしか考えられないリーダーは、自分に都合のいい情報が伝えられた時は小躍りして喜び、「それ見給え、君」等と言ってメンバーに高圧的な態度をとったりする。しかし、自分にとって都合の悪い情報に出くわすと、それがどんなにプロジェクトの進展に役立ちそうな場合でも、「君、そんな事はあり得ないよ。本当はこういうことなんじゃないか」等と、時には荒っぽく、時には陰険に、部下からの情報の解釈をねじ曲げてしまいがちである。

 一般的に、「何か新しいことを受け入れることができる」ということは、いつも経験や体験を通してである。「ねじ曲げる」ということは、背景となる経験や体験上の情報が不足して場合に見られる。部下からの情報を率直に受け止められず、ねじ曲げて解釈するということは、自分にとって、未経験なことや一面的な理解しかできていないことに対して、独りよがりのドグマテイックな見方や考え方を、部下に押しつけていることでもある。

 6シグマプロジェクトにおいては、自分にとって、未経験なことや一面的な理解しかできていないことが多発することは普通だし、むしろ健全なことである。プロジェクトのマネジメントにおいては、「VOC」や「CTQ」の情報収集にしても、「SSP」解決のための「具体策」の列挙にしても、リスクはあるが、そうした未経験な情報や一面的な理解しかできない情報を積極的に素直に受け止める原則があるべきである。

(3)データ化された情報の不十分さを補う
 これまで見てきたように、強い問題意識を持って、幅広く情報を集め、ねじ曲げずに率直にその意味を理解しようとすれば、結果的に価値の曖昧な情報の山に埋もれてしまうことになりかねない。しかし、こうした6シグマ活動における情報収集は、曖昧な多様な情報の山から価値ある情報を見つけようとするものではものではない。どんなに曖昧な情報にも、本質的な意味が隠されている。6シグマ活動で重視していることは、そうした情報が持っている、隠された本質的な意味を引き出そうとする姿勢と実際的な情報処理力である。客観的な状況や自らの考えや思いを的確にデータ化したつもりでも、100%正しく表現することはできない。いつの場合でも、誰の場合でも、言葉や文章によって表現できる内容には限界があり、コミュニケーションによって直接的に伝え合える内容には自ずと限界がある。

 そこで、6シグマプロジェクトでは、「君の言いたいことは、こういうことか。こんな理解でいいか。僕はこう思うけど、君はどうか」、「いや、そうじゃないんです。こういう事なんです」といったやりとりを習慣化することをお勧めしたい。メンバー間で対話を共振させれば、相互に納得のいく合意を得たり、新しい発見をすることが、それだけ容易になるはずである。とりわけ、プロジェクトリーダーにとって、部下からの情報の表現上の不十分さを丁寧に補って読む姿勢と実際的なコミュニケーション力のレベルアップが大事である。

3グルーピングから表札へ
(1)情報の弁別

 大分以前のことであるが、「チガイがわかる男」というウイスキーのテレビコマーシャルがあった。「いろんな銘柄のウイスキーの味のチガイがわかる、中でも○〇〇ウイスキーの良さがわかる男」といった趣旨のコマーシャルであった。最近ビールも、コクやキレを売り物にしているが、そうした微妙な違いがわかる人はやはりビール通なのだろう。音楽の世界でも同じことが言える。演歌の好きな中年は、北島三郎の歌と都はるみの演歌を同じだとはとっていない。どちらも唸る感じだが、チャント聞き分けているし、歌い分けている。しかし、そんな彼らにも、最近の若い歌手の歌になるとみんなウルサイ音でしかなくなる。

 このように「ある事象」(Aο)について、何もかも一色単にしないで、それぞれの事象は一見同じようであるが、実はそれぞれに微妙なチガイが存在することを識別し、認識できる力、これが「弁別する能力」である。ところが、日本の企業では、上司や同僚の意見や情報に、あれこれ真意を質したりすると、つまり弁別力を働かそうとすると、「理屈っぽい」と嫌われる場合が多い。少々疑問があっても、さしさわりなく、軽く受け止めて、波風を立てないことが賢いとされる。また企業では「価値のある情報」、「価値のない情報」という言い方がよくされる。部下の報告やアイデアも、「平凡だ。こんなことは分かり切っている。そんなはずはない」等と、上司の評価で乱暴に棄てられてしまうことも多い。ここでは上司の経験や価値観が、「価値ある情報、価値のない情報」という分類の基準になっている。本当に情報にはそうした価値のアリナシがあるとしても、とかく、こうした分類的な評価方法が幅をきかしている。

 こうした環境で、日本企業の社員は、次第にイマジネーション欠乏症や感受性スリキレ症に陥り、情報を厳しく弁別する姿勢や能力を失ってきている。ここにきて経営環境が厳しく急変してきたこととも相俟って、日本企業は経営の内外でおきている顕著な「事象」(Aο)に対して鈍感な事なかれ症候群症を抱え、問題解決に向けてのボトムアップ力を急速に失ってきている。

 経験的に言って、どのような企業でも、6シグマプロジェクト活動で、最初ほとんど例外なく苦労するのは、顧客の声「VOC」をひとつずつ簡潔にデータ化したり、「VOC」に対応できない現実の問題点「CTQ」をひとつずつデータ化したりする作業である。「CTQ」を解決するための手がかりとしての「具体策」をデータ化する作業についても同じである。日本企業の多くの社員は、実際的な事象を客観的に観察したり、言葉や文字で正確に伝達する極めて原始的な能力を著しく退化させてしまっている。本来は充分持っていたはずの観察力や情報処理能力がまったく錆びついてしまっている。

 こうした意味で、6シグマプロジェクトのリーダーは、メンバーの部下が集めた情報、関連部門から寄せられた情報に対して、何よりも豊かなイマジネーションを働かせ、その「事象」(Aο)の持つ意味合いをきびしく理解し、認識しようとする姿勢を習慣化することが、何にも増して重要である。このことが、6シグマプロジェクト組織トータルの「VOC」や「CTQ」を客観的に本質的に見る目を養い、あわせて基本的な課題「SSP」をシャープにコンセプト化する力を回復させることにつながるからである。

(2)具体性を捨て、本質を引き出す
 「情報を弁別する」とは、ある「事象」(Aο)に関して情報を収集し、イマジネーションを働かせ、その個々の情報に隠された本質を見極めることである。「6シグマプロジェクト」において、「情報の本質的な部分」(Σb)が見えず、粗末に扱ってしまうというのにはそれなりの理由がある。情報の本質を見え難くしているものは、既に触れたように、ひとつは根元的な「問題意識の弱さ」であるが、もう一つ理由がある。それは「具体性」である。「物事の具体性の部分」(Σa)が、「情報の本質的な部分」(Σb)(をベールのように覆っているからである。

 「クレーム情報」をもとに、その一例について考えてみよう。A君から「顧客から、ある製品について、こういう内容のクレームがあった」と上司に報告があったとする。ところが上司は、「B君やC君なら、その程度のクレームなら、その場で顧客に説明し、解決してくるよ。A君、君はいつもお客の言いなりではないか」という一喝してしまったという。上司は、かねがねA君の顧客説得力に不満を持っていたのである。こうした場合、「A君からの情報」、「その程度のクレーム」という具体的な理由「Σa」で、上司はA君が持ってきた情報の本質的部分「Σb」を理解しようとせず、「VOC」や「CTQ」の絞り込み、強いては「SSP」の設定にまで関心が行かなかったのである。

 クレーム情報と言えば、これまでの「TQC」では、どんなクレームがどれだけあったか等、クレーム発生状況を「工程別」や「顧客別」や「クレーム種類別」に層別し、パレート図等を作成する方法(参照:4月5日号「Work Out」その2)がある。このような「具体的な部分を形式的に分類し、分析する」という思考方法では、結果的に無数と言っていいほど存在する「具体的な事象」へのモグラ叩き的な対応で終わってしまいかねない限界がある。

 「日本版6シグマ」では、具体的な視点「Σa」からクレーム発生の事象「Aο」を分類し、分析するという姿勢を否定している。分類的、分析的思考に慣れている人にとっては、「具体性」を捨てるわけにはいかない。なぜならば、具体的な部分「Σa」を棄てると、あとは何も残らないからである。それでは情報が持つ「具体性」を棄てても、後に残るものは何か。それは本質的部分「Σb」である。顧客ニーズの本質を探り、根本的な対応策を打つ。結局この理由で、日本版6シグマはクレーム情報を広く収集し、その本質的部分「Σb」を明らかにするステップを優先させるのである。

 

(3)情報を同定する

 ある事象「Aο」に関連して、収集した一つ一つの情報に共通した本質的部分「Bτ」を自らに取り込むプロセスが「同定プロセス」である。つまり、「VOC」、「CTQ」、「SSP」のコンセプト化は、それぞれ収集した情報をグルーピング化し、表札をつくる情報処理プロセスである。 

 例えば、上司と部下の関係で言えば、上司が部下の意見や考え方がよく理解でき、任せられるというのは、自分の意見や考え方、あるいは自分がこれまで経験しことと共通点を見いだすことができる場合である。このように、お互いの共通点を明確にし、共有化する対話のプロセスが同定のプロセスである。ミスがあったり、手間取ったりすることが心配でも、部下に任せきれるというのは、結局、上司が部下を本質的なところで信頼できるからである。そして信頼できるということは、自分と部下と間には、基本的なところで同じ部分「Bτ」があると認識できるからである。

 日経ビジネスのインタービユーに応えて、前整理回収機構社長の中坊氏が「会社は社長が言うてること以上に社員がしなければいかん。そのためには下の人が上の人の心を理解して、自分で発案して、自分で行動せないかんのですわ。・・・僕の指示がどんな意味を含んでいるのかをじっくり考えて行動することなんです。少々指示に反したような行為をしても、指示の意図さえ理解しておったらよいんです。・・・会社というのは自発的に考えて、自分でやるという風土が生まれてこないと実績は上がらないんでしょうな」と言っている。中坊さんが言っていることも、部下とのやりとりの中で「同定」を前提とした一体化体制ができていることが前提になっている。       

 ここでいう「同定」−Idetificasion−と言う言葉は、湯川秀樹博士の「同定の理論序章」の中から引用したものである。博士はこの中で、「同定とは、それぞれについて異なる存在として認識した上で、しかし、結局は同じことだと見ることである」とし、創造的問題解決の手がかりは、この「同定」の能力に見いだされるとして、「同定の理論」を提唱している。そして、「ニュ−トンがリンゴの落ちるのを見て、なぜ月は落ちてこないのかを疑った」という話をもとに、「リンゴと月の運動に共通した本質的部分を同定しようとして、万有引力を発見した」という趣旨の話を紹介している。

 この「ニュートンの万有引力発見の話」を表札をつくる情報処理プロセスに沿って説明すれば、次の通りである。第1に「リンゴが落ちる」、「月は落ちない」という二つの事実をデータ化しラベル化した。第2に、そのチガイをよく弁別した上で、しかし、「リンゴが落ちるのも、月が落ちないのも同じことではないか」としてグルーピングした。第3にリンゴとか月とかの具体性は棄て、双方の事実を同時に説明できる「万有引力の法則」というを本質部分を明確にし、表札化した。

 「日本版6シグマ」の中で、もっとも基本的な部分は、「VOC」、「CTQ」、「SSP」という3つの基本的概念のコンセプト化である。そしてこのコンセプト化のプロセスは、実は「同定の理論」をベースにした創造的な情報処理活動そのもであるということができる。この意味で、「Peopl Out」プログラムの中心は、「Semi−Exact」な情報処理技術のレベルアップを通して、プロジェクトメンバー個々人や組織に求められる「創造性の開発」をめざすものであるということができる。なお、この「表札と同定の理論」の部分は、著者が月刊人事マネジメント(ア−バンプロデュース社 2000年4月号)に発表した「変革期のナレジマネジメント 情報共有化による問題解決の方法」の第4項 「知力創出のための創造的情報処理」を加筆修正し、引用したものである。   

(4)「People Out」
   表札のできばえではかれる
 表札づくりは、中でも「6シグマプロジェクト」を実現するために解決しなければならない課題「SSP」をコンセプト化するラウンドでもっともシビアさが求められる。的確に「SSP」を表札化できるどうかは、「6シグマプロジェクト」に対する問題意識、取り組みの姿勢、必要な専門的な知識や技術等のバックグランドをどれだけ革新できているかどうかにかかっている。そして、日本版6シグマでは、これらのバックグランドの革新、すなわち「People Out」は、M5型問題解決技法を通しての実践的な訓練によって可能であり、その成果は「SSP」の表札づくりのできばえにもっとも顕著に現れると考えている。こうした問題意識から、6シグマ活動にとって、「Semi−Exact」な情報処理技術のレベルアップは、永遠の課題である。               


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