・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  BMM【Belhyud Mail Media】 No.53 2002.3.14発行   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
新連載
「日本版6シグマ」による「人材育成と組織強化」
No.3 6シグマ活動の推進 

「Work Out その1」

不可欠な日本版6シグマツール
「M5型問題解決技法」

出発点となる
6シグマ・プログラム「DMAIC」
 
 「日本版6シグマ」は、ジャック・ウエルチの「GE版6シグマ」がベースになっている。最初ジャック・ウエルチは、6シグマは集中的管理、官僚的、画一的評価という側面が強いという理由で、自分の経営戦略に逆行するのではないかと懸念していたが、95年になって、GMの成長、収益、社員の満足度向上を実現する武器として、「6シグマ・プログラム」を導入する決心をすることになった。

 「6シグマ・プログラム」は、「6シグマプロジェクト」への問題解決的取り組み、すなわち「Work Out」の道筋を手順化したもので、次の「DMAIC」という5つの基本的ステップで構成されたものが一般的である。

D(Definition) :目標と課題の設定
M(Measurement):問題点の把握
A(Analysis)   :問題点の分析
I(Improvement):分析結果にもとづく改善
C(Controle)   :改善結果定着のための管理

 GEでは、なかでも「D」の部分を重視し、「目標の設定とその実現に向けて」というスローガンのもと、この問題解決プログラムの本質を社員に理解させるために、徹底した社内研修を実施した。その結果、GEの6シグマは、1998年で15億ドルを上回る成果を上げるに至ったと喧伝されている。

ところで、日本のTQCにも同じような「PDCA」、つまり「Plan−Do−Check−Action」という4つのサイクルがある。この「DMAIC」と「PDCA」の違いについては、これまでもよく質問を受けたが、強いてその違いを言えば、「Definition」と「Plan」の解釈の部分にあるのではないか。

 TQCの「PDCA」は、現場の自発的でボトムアップ的な品質管理小集団活動に一般的な問題解決サイクルであった。ここでの「Plan」は、現場の主体性的なやる気にまかされ、それなりの問題意識とがんばりで、なにがしかの成果が出れば、例えモグラ叩き的な取り組みでも、それはそれで勝ちがあった。しかし既に触れたように、今日の日本企業は、「COPQ」が極めて重要な経営課題になっている。「COPQを改善するために、何を経営課題とし、何を6シグマプロジェクトとして設定するか」は、その重要性と難しさ、曖昧さからして、ボトムアップに依存するような性格のものではない。「VOC」と「CTQ」という視点から、経営の責任で判断し、決定すべき課題である。

 この意味で、「日本版6シグマ」でも、目標と課題を設定する「D」のフエーズを極めて重視している。「D」はまた、経営と現場の問題解決に向けて、問題意識を共有化し、一体化体制をつくるために、充分なエネルギーを注ぐべきフエーズである。「D」の部分が充分検討されれば、次の「MAIC」の部分を、現場に「Enpowerment」することがそれだけ容易になる。ここで大事なことは、「D」のフエーズで決定された課題は、緊急で重要な経営課題であるということである。それだけに、「MAIC」以下の一連のフローは、その重要性と緊急性に確実に応えられるだけの、実際的で具体的な「問題解決プログラム」に裏付けされたものでなければならない。

「DMAIC」を越えた
 「W型累積問題解決フロー」

 ところで、日本の企業の経営者の場合、トップのリーダーシップで全体をリードしていくことを一般に苦手としており、現実にはボトムアップ的な提案に依存しているのが普通である。それだけに、複雑で解決困難度の高い経営課題の場合には、「DMAIC」のステップにいきなり入っても、行き詰まるだけである。問題の難易度が高いということに加えて、関係する組織や人間の価値観、問題意識のバラツキや利害関係、あるいは組織の指示命令系統等の問題が複雑に絡んでいる場合が多いためである。

 そこで、「日本版6シグマ」では、効果的な「Work Out」の武器として、「DMAIC」や「PDCA」に代わるものとして、「W型累積問題解決フロー」をベースにした「Semi−Exact Science」としての「アナログ情報処理プログラム」と「各種統計手法」をドッキングさせた「M5型問題解決技法」を体系化した。なお、このネーミングは、第一項で紹介した問題解決型組織すなわち「M5型組織」が武装すべきスキルということに由来している。

 「M5型問題解決技法」は、「問題提起ラウンド」 → 「現状把握ラウンド」 → 「具体策ラウンド」 → 「課題設定ラウンド」 → 「最適案作成ラウンド」→「リスク対策ラウンド」 → 「実行計画作成ラウンド」という「7つの問題解決プロセス」からなる「W型問題解決フロー」をベースしたトータル的な問題解決体系である。(図表1)

 この問題解決プログラムは、何かの問題が提起されてから、解決し終えるまでの7つのプロセスを1つずつ決着をつけながらたどろうとするものである。頭の中で考えるラウンド(思考レベル)と現場の世界で考えるラウンド(経験レベル)を峻別し、それぞれのラウンドを交互に累積的にたどることによって、問題解決のレベルを上げていくという点に特徴がある。

 ところで、「W型問題解決フロー」とは、7つのラウンドの流れがアルフアベットの「W」に似ていることから命名され、もとは、文化人類学者の川喜田二郎氏よって提唱された「10ラウンド累積型問題解決フロー」が出発点になっている。その後、ベルヒュード研究会が、ビジネスの世界でも通用する「課題設定」と「計画の作成と実行」の場面に強い、「ST(Solution Technology)」として発展させ、さらに「日本版6シグマツール」としての体系化したものが「M5型問題解決技法」である。

7つの問題解決ラウンドからなる
  「Critical Thinking Process」

 「M5型問題解決技法」は、前段の「問題提起」から「課題設定」までの「4つのラウンド」と、後段の「最適解決案の作成」から「実行計画の作成」までの「3つのラウンド」に分けられる。前段は課題をつくるフローであり、後段は課題を解決する実行のフローである。

 実際的な「日本版6シグマ」への活用の流れをフローチャートで示せば「図表2」のようになる。前段では、例えば「製品やサービスに対するクレームが続出し、売上が落ちている。コスト高になって、収益も悪化している」というような「COPQ」を意識した問題提起から始まる。そこで品質レベルを早急に向上させ、安定化させる必要があるという問題意識を共有化し、「顧客のニーズは何か、自社の問題点は何か、競合他社の状況はどうか」等について、「VOC」や「COPQ」を把握し、目標とする「GQ」レベルを決定する。その上で、「品質を改善し、安定化させるために、どうしたらいいか」について、「具体的な手がかり−具体策」をデータ化し、その「具体策」をもとに「基本的課題−SSP」をコンセプト化する。

 後段では、この「基本的課題」を解決するための「最適解決案」を検討する。しかし、「最適解決案」ができたとしても、現実にはいろいろ障害があり、計画通り進まないのが普通である。そこで事前に打っておくべき「リスク対策」を準備し、「いつ、誰が、どのような順序で、いつまでに実行するか」というような実行分担体制を明確にし、無理のない確実性の高い「実行計画」に仕上げる。勿論、どんな問題の場合でも、このような「7つのラウンド」を段階的にたどるというわけではない。簡単な問題であれば、「問題提起」があってすぐ「実行」という場合もある。

 しかし、日本の企業が直面している経営課題のような場合は、複雑で解決の手だても単純ではない。困難な問題であればあるほど、用意周到に、着実に段階的に取り組んでいく必要がある。

先の「DMIC」や「PDCA」も含めて、このように段階的にいくつかの思考プロセスをたどる問題解決的アプローチ方法を、米国発の問題解決と意志決定技法として有名な「ケプナー・トリゴー法」では、「Critical Thinking Approach」と呼んでいる。

 ところで、「COPQ」の改善を目標とする「6シグマプロジェクト」では、一段とスピードと確かさが求められる。しかし、企業の世界では、解決のための技術的なアイデアや手段を考え出すことの難しさが問題になっているというよりは、先に見たように関係する組織や人間の価値観、問題意識のバラツキや利害関係、あるいは組織の指示命令系統等の問題が複雑に絡み、整然とした問題解決体制がとれないことがネックになっている場合が多いのではないだろうか。「6シグマプロジェクト」の推進にあたって、この「Critical Thinking Process」をたどるということは、7つのラウンドに対して、それぞれにふさわしい問題解決プログラムを持って、徒に先を急がず、じっくりと時間をかけて取り組むということである。関係者がそれぞれにラウンドを共有し、つまり同じ土俵に上がって、じっくりと腰を落ち着けて知力を結集できるならば、結局急がば回れで、確実でスピーディな問題解決につながるからである。

M5型問題解決技法による
 日本版6シグマ活動の推進

前号の「日本版6シグマ展開のための基本フロー」の「第1ステップ−6シグマ導入目的の明確化」で触れたように、「No.1、No.2戦略」を踏まえ、経営課題としての「6シグマプロジェクト」が設定される。経営責任者である「チャンピオン」によってプロジェクトリーダー「マスターブラックベルト」が任命され、「マスターブラックベルト」は、「チャンピオン」からプロジェクトの運営のすべてを「Enpowerment」される。

 この基本フローは、W型問題解決フローをベースとした「M5型問題解決技法」に沿って説明すれば、「6シグマサブプロジェクト−SSP」を設定し、その実行体制を「チャンピオン」に提案するまでの4つのラウンドからなる前段部分と、「SSP」の解決に取り組み、成果を上げ、その成果を維持管理するまでの3つのラウンドからなる後段部分に分けられる。この日本版6シグマ活動の推進の一連のプロセスは、先のフローチャートに示した通りである。(図表2)

 以下、日本版6シグマ活動の展開にあたって、特に「5つのガイドライン」と「M5型問題解決プログラム」を含めて、どのように「7つの問題解決ラウンド」をたどるのかについて、順に紹介することとしたい。

第1ラウンド
問題提起ラウンド
 「6シグマプロジェクト」のスタートにあっては、「マスターブラックベルト」をリーダーとするプロジェクトチームによって十分咀嚼され、そのプロジェクトのねらいと意義について経営責任者である「チャンピオン」と同等レベルにまで認識が深められ、共有化されることがふさわしい。つまり、「6シグマプロジェクト」についての問題意識の共有化である。

 そのためには、「マスターブラックベルト」のリーダーシップのもとにプロジェクトメンバー全体で、「日本版6シグマ導入目的の明確化」の基本路線に沿って、当プロジェクトが設定されたプロセスをトレースし、最低限共有化しておくべき内容を明確にすることをおすすめしたい。(図表3)

(1)経営方針のアセスメント
 6シグマプロジェクトの前提となっている経営方針に関して、経営をとりまく内外の環境変化のSWOT分析を通して、次の4つについて基本的な認識を共有化する。
1−我が社の経営を取り巻く環境の中で都合のいい状況変化は何か、乗るべき追い
   風は何か。
2−我が社の経営を取り巻く環境の中で都合の悪い状況変化は何か、覚悟すべき
   向かい風は何か。
3−我が社の経営資源の中で武器にできる強みは何か。
4−我が社の経営資源の中で致命的な弱みは何か。

(2)No.1、2戦略の明確化

 SWOT分析を通して、我が社の進むべき方向性、制約条件と可能性を明確にした上で、次の5つについて基本的な認識を共有化する。
1−グローバルな視野から見て、現有事業、新規事業を含めて、我が社が中長期に
   わたってNo.1、2の地位を目指して競争できる事業は何か。
2−その事業に関して、競合他社はどこか、その企業の強み弱みは何か。
3−その事業見関して、我が社の標的顧客はどこか。固有名詞で絞り込む。
4−その標的顧客のニーズに何か。MUSTニーズを絞り込む。
5−その事業に関して、我が社の独自の製品、技術、サービスは何か。
6−その事業の中長期的な経営目  標(売上高、シエア、利益)はどのレベルか。

(3)6シグマプロジェクト名
    のステートメント化

 次は、No1,2戦略に向けて、我が社が取り組むべき競争力強化課題は何かを明らかにする。本来的に、十分検討された課題の中から経営的判断で最優先的に取り上げられた課題が「6シグマプロジェクト」である。そうした理解を通して、あらためて「6シグマプロジェクト」の背景、目的、業務内容、目標等をメンバーに十分認識させ、個々人の問題意識や役割を明確にして、成果を上げやすい体制をつくる。

 しかし、現実には、いつまでも漠然としたままで、プロジェクト活動がなかなか軌道に乗らないということが時々見られる。プロジェクト会議を開いても、メンバーにねらいが徹底していないために、無駄な会議になったり、同じような会議が何度も繰り返されたりする。結果的に、メンバーはがんばってはいるが、全体としての成果がなかなか見えてこないとうようなことになりがちである。

そこで、「6シグマプロジェクト」のスタートにあたって、最小限やっておかなければならないことは、これまでのトレースを経た上で「プロジェクト名」を簡潔なわかりやすい文章でステートメント化することである。単に「○○の品質向上プロジェクト」というような体言止めのプロジェクト名であってはならない。少しくどくなっても「何のために、何をどうするためのプロジェクト」というように、特に目的、方法、定量的目標などをコンパクトに織り込んだプロジェクト名にしておくことが望ましい。これは、プロジェクト名だけで、本来的なねらいや期待される活動内容が理解することができ、関係者がそれぞれに自らの役割や業務がいつも緊張感を持って自己確認できるようにしておくためである。

「日本版6シグマ」は、トップダウンを基本とした経営課題解決活動であることは、これまでにも再三強調してきた。そのことはとりも直さず、「6シグマプロジェクトは、経営責任者であるチャンピオンの経営的判断と責任において設定されるものである」ということを意味している。

 しかし、日本の多くの企業は、そうした意志決定は現場からの提案やフオローによって補強される仕組みを持っており、それが日本企業の強みにもなってきた。

 この意味で、日本版6シグマツールとしての「M5型問題解決技法」においても、プロジェクト活動の前段階として、「日本版6シグマ導入目的」に沿って、経営責任者の意志決定を肉付けし、補強すると同時に、経営におけるプロジェクトチームの位置づけを自覚し、経営トップ層との一体感を醸成するという、問題意識ランドを特に重視しているのである。    

     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
     BMM【Belhyud Mail Media】 No.53 2002.3.14発行
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
          【WEB】 http://www.belhyud.com/0.htm
          【MAIL】 jin-inoue@belhyud.com
        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
                【発 行】 ベルヒュ−ド研究会
                【編 集】 井 上  仁


back