フクシマ復興応援ネットワーク

吉川謙造代表の挨拶 

公益社団法人日本技術士会東北本部長(技術士、工学博士)
前東北工業大学建設システム工学科、都市マネジメント学科教授

ネットワークの立ち上げにあたって
2014.5

 人が生きるために必要なものは、衣・食・住と職(職業)です。動物的に生きるだけなら最初の3つで十分ですが、人が人として生きていくためには、自分が社会で必要とされているという実感、すなわち「生き甲斐」が必要です。子供のそれは遊びや勉強、高齢者なら子や孫の成長を見守ることかも知れませんが、多くの人にとってそれは「職」だと思います。やり甲斐のある仕事は、生活の糧を得る途であるだけでなく「生き甲斐」そのものなのです。

  ですから、単に住む所があり、金銭的な保証が得られれば復興が終るというものではありません。多くの人にとって、定職がなく飲み屋やゲームセンターで日々を過ごすことは決して本意ではありません。これがごく少数の人であれば、大きな社会問題にはなりませんが、今回の災害では福島県の沿岸部を中心に十数万の人々が、故郷とともに大切な仕事を失い、生活再建の見通しが持てないでおります。これは日本が初めて経験する「国難」と言ってよいでしょう。

 わが国は過去に数々の災害を克服して今の繁栄を築いてきました。インフラ施設の破壊であれば、これを元通りに修復するのはもっとも得意としてきました。その一方で、災害復興はハード面の数字のみが重視され、住民の生き甲斐やコミュニティの復興といった面は軽視されてきました。
 震災から3年が経過し、地震・津波による直接の死者を自殺者の数が上回る所が増えつつあります。また、ふるさとへの帰郷をあきらめて、新しい土地での生活を選択する人も急増しています。このままでは被災地フクシマの記憶どころか、現状までが風化して忘れ去られてしまいます。

 政府は、復興には十分な予算を確保しているといいながらも、真の住民救済につながる生き甲斐の再生には、まったく手が付けられないままに時間が経過しようとしています。そして、最も弱い所、弱いものに、この負担が押付けられようとしています。このような理不尽なことが許されて良い訳はありません。 

 残念ながら今の福島県は、あまりに多くの難問を抱えるために、効果的な政策をまとめ、提言することが出来ずにおります。そのために復興は他県に大きく遅れております。

  避難を余儀なくされている自治体では、居住地が分散しているため、意見を集約することさえ容易ではありません。また、離れ離れの人たちも、自分の町の指導者の考えや、他の人たちの思いを知ることができず、みんな情報不足に悩んでいます。このような人たちの思いが一つにまとまれば、国や県も具体的な行動をとることができ、復興は徐々に軌道に乗ると思います。

  私たちはこの状況を全国民と力を合わせて乗りきろうと、このネットワークを立ち上げました。ネットワーク設立の目的は、思想闘争などではありません。被災者が自力で復興に立ち上がれる条件を整え、真の終結宣言が一日も早く出せるよう、お役に立ちたいと考えるものです。 

 多くの方々の英知を結集でき、復興が目に見えた形で進みますよう、全国の皆様方に心からのご支援をお願い申し上げます。


補足説明

先の挨拶に関連して、次のような補足説明を追加します。  (代表 吉川謙造)

■なぜ「福島」でなく「フクシマ」なのか?
福島の復興は一地域の問題でなく、我々人類が克服しなければならない大きな社会問題です。東北だけでなく世界中の人たちに知ってもらいたいと考えています。原爆投下地の広島が「ヒロシマ」として世界に知られているように、福島も「フクシマ」として世界中の人々の記憶に留めてもらいたいと考えています。

■ネットワークの役割
ネットワークは、主に「被災者の生活再建」、「被災自治体・コミュニティーの再興」という視点から、いくつかの役割を担おうと考えていますが、主なものは、次の2つです。
@情報発信と意見交換の場の提供
 できるだけ多くの情報を集め、大勢の皆様へ発信したいと考えています。一例をあげれば、
 他県、他市町村の復興の進み具合、他の被災地の住民の考えや活動状況(何が問題で、またど
 のように解決したか)等です。

A国や地方自治体(それに東電などの企業)への提言
 この会は人を責める会ではありません。補償問題等を考えるとき、どうしても他人を責めなけ
 れば収まらないことが出てくるかも知れませんが、本会はこれをすることが目的ではありませ
 ん。あくまでも現状から出発して、より良い解決方法を模索するため、他者の悪口を言わない
 ことを基本としたいと思います。

■分科会と調整機能
 本会が関与するテーマは、多岐にわたります。
 たとえば「呼びかけ」であげた「12の分科会」がそれです。これらを同時・平行的に進めて
 行く中で種々の要望が出てくることが予想されます。このとき、AとB二つの考えが出て、Aを
 取ればBは取れない、BをとればAはあきらめなければならない、といった事情があるにもかか
 わらず、「AもBもよこせ」というような無責任な要望はしないようにしたいと思います。
 また、汚染土壌やガレキの中間貯蔵施設や最終処分場は「県外」に、という要望を最終結論と
 し、これで一件落着という無責任な立場も厳に慎みたいと思います。

■意見の集約方法
 各復興再生課題についての分科会は、できるだけ多くの人に参加してもらい、自由に発信・発言
 してほしいと思います。本会では、できるだけ多くの人に参加してもらい、自由に発信してほ
 しいと思います。
 アナログな情報処理技術をベースとした「Semi−Exact Sciennce」として
 の累積型ソリューションテクノロジープログラムに沿って、皆さんからの様々な意見を集約
 し、小数意見も十分吟味し、本質的な問題解決的アプローチをめざします。  

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平成26年度の活動を振りかえって
2015.5

 「フクシマ復興応援ネットワーク」が発足して1年が経過しました。多くの方々のご支援、ご協力を戴きながら活動を続けてまりましたが、まだまだその役割が十分に果たせたとは言えない状態です。というより、はるかに遠い道のりと言わざるをえません。それでも本ネットワークは、フクシマが直面している多くの課題の中から代表的な13のテーマを上げ、その現状について出きるだけ正確かつ詳細な情報の収集、発信をするよう心がけてまいりました。 


復興のシンボル
「フクシマ再生農業」の開発と導入に焦点をあてた活動
 フクシマ復興には、多くの課題に同時並行的に取り組まなければなりません。しかし、初年度に何か一つでも復興のシンボルになる前向きな活動ができたらと考え、「フクシマはもともと農業県。避難生活をする被災農家の皆さんが原発被曝の悲惨さを克服し、自然と一体となった安全・安心で健康な農作物をつくる農業で、元気と誇りを回帰をめざしてほしい」という思いを込めて、「フクシマ再生農業」の開発と導入に焦点をあてた活動に取り組んでまいりました。 

 特に、農水省が環境保全型と認定する「深層土壌加温方式」と硫安等の化学肥料や農薬を使わない「自然栽培」を一体化した農法を「環境保全型フクシマハウス自然農法」と命名し、当農法の実証栽培に向けた準備と原発被災農家の参加を支援するための資金公募を行ってきました。

「フクシマ再生農業基金」の設立
 このたび、これまで皆さんからお寄せいただいた支援金を原資として、原発被災農家の当農法へのさらなる参加拡大を支援する「フクシマ再生農業基金」を設立させていただきました。もちろん、これ一つで地域の産業と雇用問題が解決できるものではありませんが、フクシマの復興は先ず、第一次産業からと考え、風評被害で苦しむ「フクシマ農業」の再生を最優先課題としました。地域に根付いた農業が復活すれば、人も戻り、商店など2次、3次産業と地域コミュニティの復活へと結びつくことを期待しています。あらためて、今後の皆様のご支援を宜しくお願い致します。


フクシマの災害は進行中
 その一方で、誠に残念なことですが、帰宅困難区域はまだ広大で、何時になったら帰還できるか見通しさえついていません、今も10万人を超える皆さんが仮設住宅居等で避難生活を送っています。除染の完了宣言が出た時、どれくらいの住民がもとの生活に復帰するかは誰にも予想できません。
 一方、東北3県の震災関連死者数の推移が公表されています。岩手県は200人から400人どまり、宮城県は600人から700人どまりですが、福島県は800人から1800人へとズバ抜けた数字になっています。問題は今も増え続けており、この数字は既に津波による直接死者、行方不明者数を超えようとしていることです。この点からもフクシマの災害は終わっていない、進行中とさえ言えます。

 被災4年が経過して、除染土の中間貯蔵施設建設はよおやく動き出しました。しかし、最終処分地については、まだ何も決まっておらず、仮置き場には膨大な除染土が残されままというのが現状です。これに加えて、当初まったく想定していなかった汚染地下水の問題があります。爆発を起こした原子炉建屋の下に、毎日多量の地下水が流入し、高濃度放射能に汚染されています。これは海に放出できないため、地下水の流入を減少させる止水工事が検討されています。東京電力は凍土壁工法を採用し、今後この工事を本格化させるとしていますが、種々の理由から検討期間が長引き、4年経っても本格的な工事開始は大幅に遅れたままです。

 現地では懸命の努力が続けられていますが、先ずは早期に汚染地下水問題を解決し、廃炉工事の速やかな進展とともに、福島県の第一次産業が汚染の風評被害から一日も早く解放されることを祈るものです。


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