フィンランド旅行記
森と湖と白夜、音楽
そして親切
第9回

クオピオ(Kuopio)

6月28日(木)、小雨、気温12℃
オウルを12時38分発の列車で発ち、途中カヤーニ(Kajaani)で乗り換えて、クオピオには5時10分に着いた。25.97ユーロ/人。乗換駅のカヤーニには若い兵士(女性もいた)が大勢いて、それぞれ家に帰るために切符を買ったり列車を待ったりしていた。連中、よくタバコを吸い、よく笑う。
そこで一句
列車まつ若き兵士のベレー帽

面白いことがあった。
カヤーニ駅でクオピオ方面へゆくインターシティーの2号車37、38番の座席(フィンランド鉄道はすべて座席指定。それでも余裕で当日に買える)に座っていると、兵士がきて「そこは僕の席です」という。驚いてキップを見せると、「ええ、貴方のキップの座席は確かに2号車ですし、この車両の外には2号車と書いてありますが、前の方に3両増結されたので、実はここは5号車なのです。僕の座席は5号車の37番ですから、ここは私の座席です。」という。
あわてて荷物を持ってホームへでて前から2番目の同じ番号へ移動した。
列車が動き出してしばらくしたら、その兵隊が僕のところへやってきた。
「すみません。あれは間違いでした。ここが5号車で、さっきのが2号車でした。」という。
「え、じゃあまた移動するの?」
「いえ、動く必要はありません。」といって帰っていった。
どうやら彼の早とちりで、検札の車掌に指摘されて、それを云いに来たのだった。

白樺と針葉樹の森だけだった車窓から湖がみえるようになった。
そこはクオピオだった。晴れていた。クオピオの町は駅からカラーベ湖(Kallavesi)へ向かって開けている。
順に、ショッピングセンター、KauppatoriとKauppahalliの広場、その先を左に折れると右手に教会と公園、左手にはCamilloというレストラン、美術館と博物館、ゆるゆると下ってゆくと船着き場である。宿は船着き場近くにとった。
ここの美術館は小さいがなかなか良い美術館だ。地元のアーティストの作品の展示とは別に、19世紀くらいからのフィンランド画家の絵がほぼ年代順に並んでいた。同じ印象派時代の作品でもやはりフランスやオランダとは違う色と光なんだと思った。素描や下書きが引き出しに整理されていて、それを1段ずつ見ることができるのもよかった。

チェックインしてから教会へ行ってみた。
教会の正面階段を登って振り返ったら、目の前には幾何学模様の花壇と芝生、背の高い並木がつながり、その先にまっすぐな道が続き、さらに先には湖面が光っていて、ハッとするほど美しい。(写真)
正装した人が数人教会へ入ってゆくので「もしや」と思って入り口にあった小さな看板を見てみた。案の定、今晩9時からコンサートとあった。まだ1時間半くらいあるので、ガイドブックで一押しのレストラン Kummiseta へ入って食事にした。キノコ入りのビーフシチュー、PikeとPerchのグリル・オレンジソース、どちらもよろし。

コンサートは「混声合唱(Puijon Kamarikuoro合唱団)、パイプオルガン、ハモンドオルガン」による宗教曲「合唱と2台のオルガンのための荘厳ミサ曲、嬰ハ短調作品16」(ルイ・ヴィエルヌ作曲)などで、10ユーロ/人。

パイプオルガンは祈祷席の後方上部、ハモンドオルガンは前部祭壇の右手、合唱は中央部と両側といった配置。そしてカテドラルの円頂への反響と相まって、素晴らしいものであった。アンコールでは二人の女性オルガニストも加わってフィンランド民謡を歌った。素朴で明るく透明な曲で、ああ、今フィンランドにいるんだと感激した。

クオピオでも親切と笑顔に出会った。デジカメの電池が上がってしまい、充電器を持つのを忘れたのに気付いて困惑したが、まてよ、とホテルのフロントの女性に「どこかで充電してくれるサービスがないか」と尋ねてみた。
彼女は当たり前のようにインターネットで何やら調べ2軒に電話してくれた。そして、「Rajala Pro Shopでやってくれるそうです。ショッピングセンターの2階です」とマップにマークしてくれた。バッチリだった。3ユーロ。後に彼女によくお礼を言ったのはいうまでもない。

6月29日(金)、晴
サヴォンリンナ行きの船MS Pujio号の船着き場を確かめがてらに、湖の辺りを散歩していたら、Train Bus のバス停をみつけた。小さな子供が喜ぶような列車バス。二人の子供を連れた若い夫婦が待っていたので僕らも一緒に待つ。まもなくゴトゴトとやってきた。
先頭の汽車から降りてきた運転手に金を払って乗るときに「タック!(ありがとう)」といったら、「それはスウエーデン語です。フィンランドでは"キートス(kiitos)"と云った方がいいですよ」とやんわり笑顔で云われてしまった。以後、機会ある毎に"kiitos"を使ったが、相手はいつも嬉しそうに「ヘイヘイ(どうもー、の意;英語のYou're welcome と同じ)」と応じてくれた。運転手はフィンランド語と英語で「右に見えますのはーーー」と説明し、また陽気に歌を唄ったりする。なかなか面白かった。歩かずに町の概要をつかめるので、はじめに乗るべきだった。

夕方、なんとなく人波が波止場のほうへ動いてゆく気配なので行ってみると、倉庫のような建物全体がバー&カフェと化し、ジョッキーがわめいている。別の場所にはテント地の塀で囲われた仮設広場ができていて、ロックシンガーが叫んでいて、ビール片手の若者であふれていた。金曜日の夕だからだろう。
透明で明るい水辺は開放感と活気に満ちていた。鴨の親子が歩いている。カミさんが塀の隙間から覗いていると、塀の上から「入っといでよ!」と声が降ってきた。「どこから来た、何日いる、どこへ行く」との毎度の会話、そしてまた、「俺ちょっと酔ってるけどさ、いいから、おいでよ!」。ちょっとその気になりかけたけれど、明朝9時の出航を考えて止めた。


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