フィンランド旅行記
森と湖と白夜、音楽
そして親切
第10回

クオピオから
サヴォンリンナへの船旅

6月30日
8時半頃に波止場に行くと、MS Puijo号の周りにちらほら人が集まっていて、乗船が始まっていた。受付係は予約表をみる前に「Welcome, Mr. Nakamura」という。試しに「シルバー割引はないの?」といってみたが、「申し訳ないが、ありません。以前はあったのですが。」だそうだ。約10時間半の船旅の料金、一人88ユーロをカードで払う。フィンランドではどこでも、バスも屋台のアイスクリーム屋でもカードで払うことができるので、旅行中に両替の心配をしなくて済んだ。

MS Puijo号は全長28.3m、幅6.27m、乗客定員150人、レストラン席数80、サンデッキあり、という船で、箱根芦ノ湖の観光船よりも小さいし細い。クオピオとサヴォンリンナの間の湖水地方を1隻で往復している。途中5つの小さな運河を通過する。そこで降りる人もいるし、乗り込む人もある。この船便の概要については、次のURLを参照するといい。http://www.mspuijo.fi/media/Puijo_2012_eng_low.pdf

クオピオを出航して、船はしばらく大きな湖の真ん中を行く。
見えるのは水と広い空ばかりである。(写真)

2時間くらい経つと両側の森が近くなってきた。ところどころに大小のコテージが建っていて、大人も子供ものんびりと船に手を振る。どのコテージの前にも船着き場があって小さなモータボートが係留されている。蚊帳で囲った椅子とテーブル、サウナ小屋もある。ときどきモーターボートとすれ違う。

空の色をどう表現したらよいのだろうか。
紺碧ではない、青空でもない、空色では芸がない、吸い込まれるような青だがあくまでも透明で淡い。
雲たちは一様な高さに整列して、もり上がるわけでもなく、漂うわけでもなく、ただのんびりと浮かんでいる。そこで一句 北欧に夏は来たれり 羊雲

遠く近くに重なり現れる森達はくろぐろと沈黙している。さざなみもない湖面を、船の航跡の緑色のうねりが幾重にも森へと広がってゆき、岸辺の草をゆらす。そんな景色がゆっくりと後ろへ動いてゆくのを見ながら、キャビンでいねむりをしたり、レストランで食事をしたり、本を読んだり、乗り合わせた人達と話をしたり、それは静かで優雅な一日であった。

湖と湖の間では小さな運河を通過する。それぞれの湖面の高さが違うので、それが繋がる場所は狭い早瀬となっていて船は通れない。それで運河を造ったわけだ。フィンランドの地図をあらためて眺めてみると、ボスニア湾やバルト海の近くにはいくつもの川がみえるが、中央部には河川がない。18万もの湖は川でもあったのだ。ほとんど山のないフィンランドの森林地帯は洪水の後のように水浸しで、サマーコテージは浸水で取り残された家のようにも見えた。

二人の子供連れの夫婦とデッキで話した。奥さんはよくしゃべるが旦那は無口だ。上はprimary school(9年制)の6年生の女の子で日本(特に漫画)に興味がある、下は8才の男の子ですでにスキーレースに出ている。サヴォンリンナへは車で行ったことはあるが、夏休みに家族で船旅をすることにしたのだそうだ。レストランでの食事(ランチのメニュー:サラダ、サーモンステーキのメイン、ベリーのタルト、コーヒーで12ユーロ)を楽しんでいた。奥さんが、「私たちの世代は英語が必要だとは考えませんでしたが、今は違います。子供達は学校で英語を習っています。」といって、女の子にほら話しなさいよと促す。彼女は真剣に僕らに話しかける。漫画のこと、英語の授業のこと、漢字を少し知っていること、などなど、通じることが嬉しそうだった。

軽い夕食をレストランでとり、ワインを飲んでいるうちに、船はオラヴィンリンナ城(Olavinlinna Castle)のすぐ傍を通って、サヴォンリンナの港へ接岸した。船員にタクシーを呼んでもらって、ホテルへと向かった。


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