食糧よりも、軍事優先か
北朝鮮
2012
市政5月号
(全国市長会)
 

昨年末に突然死去した北朝鮮のワンマン金正日総書記の後を受けて、最高指導者に就任した金正恩氏(29)の新体制がそろりと動き出した。遺訓に従い、先軍政治(軍優先の政治)をモットーとしているが、建国の父、故金日成主席の生誕100周年を4月半ばに控えて、ともかく、飢えに苦しむ国民への食糧確保が最優先の課題。米国との直接協議の席で、2月末、食糧支援と交換に核開発関連の活動停止に合意した。この合意には、懸案のウラン濃縮の停止も含まれているし、国際原子力機関(IAEA)の査察官の復帰も認めているが、果たして、6カ国協議の再開に結び付くかどうかは予断を許さない。懸念された通り、北朝鮮はこの生誕100周年記念の一環として、人工衛星の打ち上げを予告。これに米国政府は長距離ミサイル発射を隠蔽するのが狙いと強く反発、食糧援助の見送りを発表した。米朝合意の行方が怪しくなってきた。


正恩氏からお恵みの食糧施しを
北朝鮮の党・政府の高官たちは、大抵が血色のいいふっくらとした顔に、栄養の行き届いた立派な体格が目立つ。世襲で三代目の指導者に就いた、金正恩氏の姿はまさにその象徴である。ところが、このような特権階級のエリート層やその家族以外の普通の人々となると、顔色は悪く、痩せこけた対照的な姿が一般的だ。食糧不足が慢性化し、大半の国民は毎日の食事にも困っているのだ。

国全体が飢えに苦しむ中で、世襲だとは言え、何の経験もない20代のぼんぼんが一国の最高指導者として君臨する。しかも、生誕100年に合わせて、4月半ばには、総書記と国防委員長という党と国家の最高ポストに就任するとの見方もある。これでは、過酷な独裁支配に苦しむ国民に、少しでも「施し」の食糧を用意しないと、不満が爆発しかねない。

だから、金正恩氏とそれを支える集団指導体制のメンバーである側近たちは、北朝鮮の核開発の阻止に前のめりになっている米国を罠に掛け、飢えた国民向けの食糧を米国から騙し取ろうと考えているのである。

一見、大きな譲歩
そのやり方はこういう具合だ。
如何にも大きな譲歩をしたかのような空約束をして、それと交換に相手から食糧援助をだまし取るのだ。北朝鮮の核開発阻止に懸命になっている米国や韓国などは、北朝鮮が手のひらを返したように従来の強硬な姿勢を放棄して、ウラン濃縮、長距離ミサイル発射、核実験などを停止して、査察のためにIAEAの査察官まで復帰させることまで約束すれば、北朝鮮の口車に乗せられてしまうのだ。これまでの北朝鮮との核を巡る交渉はずっと、このような手法の繰り返しだったのである。

だが、ぼつぼつ、皆このようなあこぎな北朝鮮のやり口に気がついてきた。だから、今回、北朝鮮が米国に対して食糧援助と引き換えに大幅な譲歩を提示したものの、米国もさすがに直ぐには飛び付かなかった。米国はこの交換条件を受け入れるかどうかを決断する前に、韓国や日本などの仲間の国々とかなりじっくりと意見を聞いている。

ただ、北朝鮮との対話の道を付けたいとの思惑も強かった。金正恩新政権が発足した直後だけに、対話の糸口にと、最終的には受け入れを決めた。だが、クリントン国務長官は米朝合意について「ささやかな一歩」でしかないと控え目な評価しかしていなかった。

実際のところ、北朝鮮はウラン濃縮など核問題での各種の譲歩はあくまでも「一時的」な措置としているし、北朝鮮側はさらに、オバマ政権に北朝鮮敵視政策を撤回するよう要求し、その証として北朝鮮に米国の連絡事務所の開設を求めたものだ。

早くも化けの皮剥がれる
ともあれ、この米朝合意を受けて、オバマ政権は食糧24万トンの支援提供を最終的に決断、北朝鮮のさらなる譲歩を期待した。ところが、その直後の3月中旬になって、北朝鮮は突如、約一ヶ月後の故金日成主席生誕100周年の前後に人工衛星を発射すると発表したのだ。北朝鮮は地球観測のためと称しているが、実質的には、これは長距離ミサイル発射実験という軍事的な目的の隠れ蓑に過ぎないのだ。

その第一の狙いは、生誕100周年という記念すべき時に、人工衛星打ち上げを国威の発揚に利用すると共に、同主席と瓜二つの金正恩氏の三代目世襲に、祝賀気分を大々的に盛り上げることにあるようだ。また、打ち上げは、北朝鮮の宇宙技術の進歩を世界に誇示でき、長距離ミサイルの発射技術の向上で米国に無言の威圧を加えることができる。しかも、この後には、核実験の実施までも考えているという。

だが、この発表で北朝鮮は逆に予想外に大きな打撃を受けそうだ。米国は衛星打ち上げがミサイル発射実験に他ならず、米朝合意に反するとして、約束の食糧援助の中止を発表した。また、オバマ大統領は三月末に韓国で開催された核安全サミットで、中露のトップと個別に会談し、北朝鮮のミサイル発射実験に対して、懸念を表明し、自制を求めよう説得、意見の一致を見た。やりたい放題の北朝鮮も世界中から「村八分」の憂き目に会いそうなのだ。

だが、北朝鮮はリビアのカダフィ政権が崩壊したのは、核を手放したからだと見なしていると言われ、北朝鮮は絶対その二の舞いを演じることはないとの見方が一層強まりつつある。米国がいくらアメとムチの硬軟両様の手段を駆使しても、北朝鮮にうまくあしらわれるのがオチということになる。北朝鮮の核開発への対応を根本から練り直す必要がありそうだ。(4月3日)


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