習近平
中国副主席が訪米
国内では権力闘争が激化

2012
市政4月号
(全国市長会)
 

今年秋に胡錦涛党総書記に替わって中国の最高指導者に昇格することになっている中国の習近平国家副主席(58)が2月半ば、米国を訪問し、オバマ大統領と会談した。この訪米はトップ就任前の挨拶回りの慣例行事だが、今年は米国も大統領選挙の年で、米中両国とも指導者は国民の目を強く意識し、弱腰だと見られたくない微妙な政治状況にある。
習副主席は、米国民向けに自己PRする同時に、国内向けに米大統領とも対等に渡り合える「大物ぶり」を誇示することを狙った。訪米直前、秋のトップ人事に影響しかねない党内権力闘争が表面化、順風満帆と思われた習時代への船出も、助走の段階で不安定感が意識され始めた。


親しみ易さで好印象
誰もが注目したのは、全米に放映される習近平副主席のテレビ画面映りだった。これまで米国での知名度はほとんどゼロに等しい存在だけに、習副主席としては、この機会に、中国の次の最高指導者として米国民に好印象を与えておきたかったのだ。
この目的は予想以上の成功を収めたようだ。「にこにこして愛想が良く、親しみ易いし、話もできそうだ」という好意的な見方が米国民・政府の間で多かったし、本国の中国国民にも好評だった。

オバマ大統領との首脳会談では、ゆったりとして、その立ち居振る舞いは堂々としたものだった。アイオア州の田舎に出掛けてトラクターに乗っても、ロサンゼルスでプロバスケットの試合を参観しても、その場その場にすっかり溶け込める柔軟さがあった。

米国民に一番印象的だったのは、胡錦涛主席とは対照的な姿だったようだ。胡主席はいつも緊張ぶりが目立ち、堅苦しい印象だった。テレビなどで見てきた中国の党や政府の官僚の典型的な姿を彷彿とさせ、庶民性をアピールしようとしても、なかなかしっくりこなかったからだ。

手厳しい米国、習副主席も反撃
米国側は習副主席に相当厳しい注文を付けた。オバマ大統領は習副主席との会談では、強大になり、経済的にも繁栄した中国には、責任も一層大きくなると強調。そして、経済面では、人民元の一層の切り上げと中国の対米大幅黒字の是正を強く要求した。さらに、評判の悪い中国の人権問題の改善を求めると共に、シリアのアサド政権非難の国連安全保障理事会の決議案に中国が拒否権を発動したことを非難した。

また、事実上、接待係役を務めたバイデン副大統領も国務省での歓迎会で、米国側の中国に対する不満について長広舌を振るった。同副大統領は習副主席滞在中に、非公式の協議がなんと20時間以上に及んだというから、相当じっくりと話し合いが行われたことが分かる。習副主席は国内の経済や政治問題については、悩みを漏らしたこともあったという。

だが、習副主席も米側の言うことに耳を傾けただけでなかった。訪米二日目ワシントンで開かれた民間の歓迎昼食会での演説では、法衣の下から鎧をちらつかせるかのように鋭く反撃した。
中国お得意の「核心的利益」論を持ち出し、米国は台湾やチベットの独立を奨励するような行動を慎むよう強くクギを刺した。だが、チベット問題には米国の関心も高く、習副主席の訪米でも、数百人のデモ隊がホワイトハウスの周囲に集結し、中国のチベット政策を厳しく非難した。また、習副主席は人権問題については、「(米中両国に)幾らか意見の違いがあるのは全く当然だ」と軽くいなした。

国内では、権力闘争表面化
習副主席の訪米出発の直前に、深刻な権力闘争が表面化した。その収拾如何では、今秋の習副主席の最高指導者昇格にも微妙な影響を及ぼしかねないのだ。事件が起こったのは、省と同格で、北京、上海、天津と並んで4つしかない直轄市の中で最大の重慶市。王立軍前公安局長(副市長)が2月初め、四川省成都にある米国総領事館に駆け込み、政治亡命を求めるという前代未聞の事件が表沙汰になったのだ。

重慶市は薄一波元副首相の息子として、いわゆる「太子党」に属し、文化大革命で国内を大混乱に陥れた毛沢東主席礼賛で、全国的に有名な薄煕来・市党委書記のおひざ元。同書記は今秋には中央政治局常務委員への昇格が有力視されている。王立軍氏はこの薄書記に請われて、公安局長に就任、重慶のマフィア組織の摘発に活躍した。だが、最近、この薄書記によって公安局長から外され、危険を感じて米総領事館に駆け込んだ。だが、米政府は習副主席の訪米直前に亡命を認めては、今後の米中関係に障害になると判断、受け入れを拒絶したという。

この事件はまだまだ不明なことばかりだが、要は、「太子党」系の薄党委書記と共産主義青年団(共青団)系の汪洋広東省党委書記との対立が背景にあるという。この事件の進展如何では、共青団系の胡錦涛主席、太子党系の習近平副主席との確執にも発展しかねないし、今後の党の路線の在り方にも響く。王立軍前公安局長は現在、中央に召換され、米総領事館への駆け込み事件について取り調べを受けている。その後任に、胡錦涛主席は自分の息のかかった共青団系の人物を当て、事態の収拾に乗り出した。
一部では、薄党委書記の常務委入りはもはや無理との見方もあり、太子党仲間の習副主席もわれ関せずとは行かない状況だとか。今秋の党中央人事の季節を控え、中国の権力闘争の動向から目が離せなくなってきた。(3月2日)


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