馬英九総統が再選
台湾
2012
市政3月号
(全国市長会)
 

中国との融和路線を続けるか、それとも、後戻りさせるか―大陸との距離を有権者に問う台湾の総統選挙が1月に実施され、現職の馬英九総統(国民党)が主要な対立候補の蔡英文・民進党主席を破って、再選に成功した。
この結果、4年前に総統に当選してからずっと、馬総統が最大のキャッチフレーズとして掲げてきた中国との融和政策が有権者の審判を得たことになり、今後とも、大陸との関係緊密化路線が継続されることになった。これは台湾の再統一を狙う中国にとっては何よりの朗報であり、台湾海峡を巡る情勢は今後も平和的で安定的な流れが続くことになろう。また、台湾海峡の現状維持を望む米国政府にとっても歓迎するところとなりそうだ。


経済的利益を最優先
14日に投票のあった総統選挙には、与党・国民党から馬英九・総統(61)、野党・民進党から蔡英文主席(55)、さらに国民党の分派である親民党から宋楚瑜主席と、3人の候補が出馬した。今回の選挙の見どころは、馬総統の対中融和路線が有権者から信任を受けるかどうかだった。  

台湾経済に今後も繁栄をもたらすためには、世界第二の経済大国に躍進した大陸中国との間に政治的に親密な関係を築くことによってこそ、躍進する中国経済との関係を拡大することができるというのが、馬政権の持論である。過去4年間の対中融和路線はその点では台湾に大きな成果をもたらしたことは間違いない。民進党の蔡英文候補もこの点は認めざるを得ないところだ。だが、馬総統のように余りにも中国傾斜を強めていると、そのうち、あっという間に共産党一党独裁の中国に飲み込まれてしまうとの危機感がある。

台湾では、トップをオープンな民主的な普通選挙で選ぶ民主主義が定着しており、言論や集会の自由など、民主主義的な制度を真っ向から否定する中国との間には巨大な溝が横たわっている。そんな中で、選挙運動中に、馬総統が自分の対中国政策の成果を宣伝しようとする余り、不用意に、今後10年以内に中国との間に「平和協定」を締結するとブチ上げた。これが有権者の間に中国の影を一層強く意識させ、不安感が一挙に高まった。それまでは、馬総統の再選はまず間違いないと思われていたのに、有権者の間に蔡候補支持が増え始め、選挙が一挙に白熱してきた。

しかも、国民党の元有力政治家だったが、離党して親民党を立ち上げた宋楚瑜主席も出馬に踏み切った。楚主席自身は当選できないことを知りながらの出馬であり、その狙いについては様々のうわさがあった。ただ、とにかく、過去の経緯から見て、馬総統支持票の8%位は宋候補に流れるとの予想が浮上。これで、宋出馬は蔡候補への大きな支援になり、馬総統と蔡候補の戦いは接戦との予想が広がっていた。

さらに、総統選の前には、通常は景気が好転するものなのに、2011年は成長率が前年の10%から4・5%に鈍化し、株式市場も振るわないとあって、馬総統も危機感を抱いた。

だが、開票の結果では、得票率は馬英九総統が51・6%、蔡英文候補が45・6%、宋楚瑜候補は2.8%止まりとなった。蔡候補は馬総統を激しく追撃したが、宋候補支持が予想ほど伸びなかったことで、差を詰めきれなかった。

結局は、中国との経済協力の強化には、対中融和路線を取る馬英九総統を支持して、中台間の政治関係の安定を維持して行くのが一番という有権者の経済的な計算が決定的な要素となったとしか言いようがない。最後は懐の財布次第という、どこの国の選挙でも働く有権者の思惑が勝ったということだ。


対中政策の差別化に失敗
それと同時に、残念ながら、民進党の蔡候補は、馬総統の対中融和論を真正面から否定するだけの自信に裏打ちされた独自の対中政策を明確に打ち出せなかった。これが決定的な敗因となった感じがする。選挙の敗北を認めた演説の中で、蔡候補は民進党が生き残るには、はっきりとした対中政策を必要だと強調して、主席の座を辞したことにも、その辺の悔しさが見て取れる。

嘗ての、李登輝元総統の二国論や陳水扁前総統の過激路線は、中国経済の繁栄のおこぼれに預かるには不都合だ。しかも、1990年代初めに台湾の国民党と中国が合意した「1992年コンセンサス」(「一つの中国」という言葉を中台各自に別々に解釈し、曖昧にしておくことを認めた覚書)も、国民党側が編み出した論理とあって、おいそれとは、そのまま受け入れるわけにはいかない。こういうわけで、現在の情勢の中で、対中融和路線とは異なった対中政策を打ち出しながら、中国を怒らせず、中国の経済的繁栄に頼ろうとしても、そんな名案は浮かばない。

ここ当分、中国の経済成長が順調に続き、大国化が進む限り、民進党は国民党の対中融和政策と明確に一線を画するような政策を立案することは容易ではないだろう。それに、頼みの米国政府も今回の総統選でも、民進党の蔡英文候補では、中国との関係がうまく進まないというネガティブな見解を巧妙に流して、事実上、馬英九総統に側面支援を行ったようだ。台湾の有権者に微妙な影響を与えたに相違ない。その一方で、台湾の民衆の間には、中国に席巻されかねないとの危機感も広がっている。総統選と同時に実施された立法院(国会)の選挙で、民進党が大幅に議席を伸ばしたのは、この不安の反映だろう。再選に成功した馬総統も、「再統一」を促進するような政治的な動きを軽々に進めることはできそうにはない。(2月2日)


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