台湾総統に民進党の蔡女史
2016
市政3月号
(全国市長会)

 新年早々の1月中旬に投・開票された台湾の総統選挙で最大野党、民進党主席の蔡英文女史(59)が与党・国民党の朱立倫主席(54)らに圧勝し、次期総統に選ばれた。
 この結果、台湾の独立志向の強い民進党が8年ぶりに、政権の座にカムバックする。台湾での女性総統も初めてである。また、同時に実施された立法院(国会に相当、定数113)でも、民進党が初めて過半数を大幅に上回る議席を獲得した。 
 総統と立法院の双方を掌握したことで、蔡次期総統は万全の体制を築けたと言えよう。国民党は1949年に大陸での内戦に敗れ、台湾に渡って以来、長きに渡り台湾の支配政党だっただけに、その衝撃は深刻だ。台湾の人々の間に台湾人意識が強まり、中国離れが進んでいる証拠であり、「一つの中国」論で台湾併合を狙う中国の習近平政権も戦略の見直しを迫られることになろう。 


地滑り的な勝利

 1月16日の選挙での民進党の勝利は事前に予想されていた。だが、これほどの躍進ぶりは予想外だったようだ。

 総統選の開票結果によると、各候補の得票率は蔡英文主席がなんと56%、朱立倫主席が31%、野党・親民党の宋楚瑜主席(73)が12%だった。蔡女史の得票率が朱立倫主席のほとんど倍近くにもなっていることから、まさに圧勝と言えるだろう。

 しかも、立法院選挙でも民進党は単独で過半数を超える68議席を獲得、国民党は35議席にとどまった。しかも、国民党の馬英九総統の中国傾斜に反発して立ち上がった「ひまわり運動」の若者たちの新しい政党「時代力量」は、今回初の選挙で5議席を獲得、なんと第3党の位置を占めた。同党は思想的に民進党と近い。

 国民党がどうしてこんなに落ち目になったのだろうか?それにはいくつかの理由があるが、要は国民党の馬総統の統治の仕方と中国寄りの政策が、人々の支持を失い、有権者の国民党に対する嫌悪感を一層高める格好になってしまったのだ。

 同総統の政治の手法には独断的な傾向が強い。国民の声を聴こうとしない上に、説明も不十分で、透明性を欠いていた。

 しかも、その中国依存の政策は中国と台湾は別だという台湾人意識がますます強くなりつつある市民の間に深刻な溝を生んだ。市民、特に若者の間に、そんなやり方だと、中国に飲み込まれてしまうとの危機感を呼び起こした。2014年の春には、学生たちが中台間のサービス分野の相互開放を目指す「サービス貿易協定」に強く抗議して、立法府を占拠するまでに至った。「ひまわり運動」である。

 馬総統の中国寄りの政策の結果、中国からの台湾への投資が拡大する中、サービス分野まで開放すれば、中国のやりたい放題になるとの恐れが一挙に広がり、異例な事態に発展したのだ。しかも、この運動は他の年齢層の人々からも一定の共感と支持も得たのである。そこには、馬総統の中国依存政策が一部の富裕層には利益をもたらし、大都市の住宅価格は高騰したものの、一般庶民はこの恩恵にあずかれず、低賃金にあえいでいたという強い不満が底流にあった。この前後から馬総統の支持率はずっと低迷しており、同年11月の地方選挙で国民党が大敗を喫した。馬総統は国民党主席を辞任し、同党内の混乱に拍車を掛けたのである。

習近平主席はどう出る?

 蔡女史の次期総統への正式就任は5月20日だが、野党に転落した国民党は解党的な出直しを迫られている。これと対照的に、民進党は大躍進に日の出の勢いだ。

 蔡次期総統の横顔を紹介しよう。客家の出で、台北市生まれ、台湾大学法学部卒、米コーネル大学で法学修士、英ロンドン大学で法学博士号を取り、台湾の大学で教えていた。独身で、子供はいない。1990年代に李登輝総統の下で国家安全保障会議の顧問となり、2000年に民進党の陳水扁候補が総統に当選するや、対中政策を担当する大陸委員会主任委員(閣僚)に任命された。その後、民進党に入党し、2004年に立法委員(議員)に当選した。2012年の総統選挙で国民党の馬候補と争ったが、敗北して、党首を辞任した。だが、その能力を評価され、2年後には党首に復帰して現在に至っている。

 蔡次期総統にとって、今後の最大の課題は中国との関係を如何に処理して行くかであろう。今回の選挙中、蔡主席は対中関係について、両岸関係の平和と安定をもたらすために「現状の維持」を訴えた。民進党の党是である「独立」という言葉を敢えて表に出さず、「統一」にも「独立」にも傾かない「現状維持」を選んだのである。非公式の同盟関係にある米国政府の懸念にも配慮した形だ。中国と国民党の間で、中台双方が「一つの中国」の原則を認めることにした「1992年合意」については、中国政府が強く受け入れを要求しているが、応じるつもりはないということだ。これこそまさしく、台湾人意識に一層目覚めた市民が望むところなのだ。

 習近平主席が、独立志向の強い民進党の蔡総統に今後どう対応するか、世間の関心はここに集まっている。台湾の対岸の福建省での勤務が長い習主席は、とりわけ、台湾情勢に強い関心を持つという。しかも、トップに就任以来、強大な権力を掌中に収め、対外的には対決色の強い、極めて愛国主義的な強硬路線を推し進めてきた。中台関係の基本と中国が見なす「1992年合意」を台湾の新総統がなおざりにした場合、習主席は面子を潰されてしまう。

 だが、現在の台湾の民意を無視して、圧力を掛けると、逆に台湾民衆の反中意識を煽る恐れがある。1996年に台湾で初の民主的な直接選挙による総統選挙が実施された際の中台危機が証明する通りだ。さすがの習主席も、台湾政策には頭を痛めそうだ。(2月4日)


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