「慰安婦」で日韓が合意
2016
市政2月号
(全国市長会)

 日韓両国は年の瀬も押し詰まった昨年12月28日、両国関係の主要な障害の1つだった、いわゆる慰安婦問題に関して「最終的で、不可逆的な解決」に合意した。この合意はソウルで岸田、尹炳世の日韓両国外相会談の結果まとまったもので、@旧日本軍の関与の責任を認め、安倍晋三首相がお詫びと反省の意を表明するA元慰安婦支援のために韓国政府が設立する財団に日本政府が約10億円を人道支援として(補償ではない)拠出する、などが約束された。

 これを受けて、安倍首相は朴大統領と同夜、電話会談を行い、合意内容を確認すると共に、おわびと反省の気持ちを表明、朴大統領は「心の傷を癒すことになる」と応えた。  

 2013年初めに就任した朴大統領はこの問題の解決に強い執着心を見せ、日本に圧力を掛けるために「反日外交」推進で中国と共闘、日韓首脳会談は昨年11月までずっと実現しなかった。 

 だが、韓国は中国経済の成長鈍化の影響を受けた上、日本との関係が悪化し続け、同盟国の米国が対中国・北朝鮮絡みで安保面に不安を表明するようになった。しかも、韓国経済は不振を極め、国内に深刻な懸念が広がってきた。このため、昨年がちょうど日韓国交正常化50周年に当たり、しかも大統領任期も半ばを過ぎたことから、なんとか、年内に両国関係を改善して、日韓関係を新たな軌道に乗せ、韓国経済を打開したいとの朴大統領の思惑が背景にあった。

 勿論、日本側も将来の世代に宿題を残さないことを望み、解決に乗り気で、安倍首相もそのためにかなりの譲歩を行った。また、その背後に米国の強力な側面支援があったことを見逃すわけには行かない。   


不可逆的な解決
 この合意について注目されるのは、日韓両国が「最終的で、不可逆的な解決」である点を確認していることである。こんな念押しの言葉がどうして必要だったのか。

 この意味するところは、慰安婦問題を韓国側が将来再び蒸し返すようなことはしないとの公約である。

 1965年の日韓国交正常化に際して、朴大統領の父親の朴正煕大統領と日本政府との間で日韓請求権協定が調印された。周知の通り、同協定は両国間の賠償問題が「完全かつ最終的に解決する」と明記しており、日本政府はこれには元慰安婦への補償問題も当然含まれているとの立場である。
 ところが、1990年代の初めから、韓国が政権の代わるたびに、過去の問題を蒸し返して、日本に様々な補償や謝罪などを求めてくる行為が後を絶たなかった。

 このような悪癖を断つために、日本政府側の強い要請でこの念押しの言葉が入れられたのである。

 だが、そうであっても、朴槿恵政権後の韓国の政権が、果たしてこの確認をあくまでも守るかどうか心配になる。

 というのは、今回の合意は文書化されていないというのだ。両国の外相が国際社会に向けて、合意事項を発表し、口頭で確認しただけなのだ。下手をすると、これでは単なる口約束に終わる可能性を内包していると言わざるを得ない。文書化に韓国政府が反対した結果こうなったというのだが、日本政府はどこまでお人よしなのだろうか。

慰安婦像撤去に「努力」
 この合意の一部として、日本政府はソウルの日本大使館前に設置されている慰安婦の少女像の撤去を要求した。これに対して、尹外相は「関連する団体と協議するなどして、適切に解決されるよう努力する」と共同会見の席上語った。この像を設置したのは、韓国挺身隊問題対策協議会と称する民間団体だが、韓国政府の許可を得ていない。それでも、政府は工事を阻まなかったのである。同協議会が 素直に「撤去」に応じるとは思えない。 

 下手をすると、韓国政府の「努力」だけで、終わる恐れもある。それに、慰安婦像の設置は米国各地に広がっているだけでなく、カナダやオーストラリアなどでも、設置を働き掛ける韓国人グループが暗躍しているという。これらの慰安婦像はどうするのか、見当もつかない。

 また、この合意成立に従って、今後、日韓両国は国際社会で批判や非難を控えることになったが、これも「努力」目標である。朴大統領お得意の「告げ口外交」は品が悪いとの評判で、さすがに今後は姿を消すだろう。だが、国際的な舞台での日韓の確執が直ぐに終息するとは行かないかもしれない。 

対中安保では効果も
 日韓両国はこの合意を踏まえ、今後は未来志向の新しい日韓関係をスタートさせることを期待している。今年2016年中に(時期未定)日本で開かれる日中韓首脳会談には朴大統領も出席の意向だ。だが、元慰安婦や支援者の間では、この合意に強い反発があり、朴政権はこれまで彼らを政治的に利用してきた手前、説得に苦労している。日韓間には、この他にも、韓国が不法占拠を続ける竹島や靖国神社参拝といった複雑で困難な問題も残っている。

 同時に、海洋覇権を目指す中国に対抗するには、今回の合意はいい効果をもたらしそうだ。日韓関係が改善すれば、日米韓の安保協力が一層円滑化し、対中圧力が強化されることになるだろう。オバマ政権は合意発表直後に、歓迎の意を表明すると共に、他国への働きかけまで買って出た。米国の期待の大きさがうかがわれる。

 中国は南シナ海、東シナ海に加え、太平洋も視野に入れた海洋戦略を展開している。これは、日米は勿論のこと、韓国とても傍観できないだろう。日韓関係の改善は、中韓の共闘に風穴を開け、中国の反日外交も従来の勢いを失い、極東のパワー・バランスが総体的に日米有利に変わる素地があることだけは間違いない。(1月4日)


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