イスラム国と南シナ海が焦点

2016
市政1月号
(全国市長会)

 2016年の最も深刻な課題は、シリア内戦で登場した鬼っ子イスラム国(ISIS)旋風と南シナ海の領有権争いの二つとなりそうだ。シリア内戦は、国際的に非常に複雑化しており、その間隙をぬってイスラム国の系列組織が暴れ回る。他方、南シナ海の方は、米中大国間の覇権争いの性格を帯びる。東シナ海との関連で、日本の安全保障とも密接に絡み、米国との緊密な同盟関係が不可欠だ。イスラム国は2015年11月に残虐なパリ同時多発テロ攻撃に打って出た。米欧主導の有志連合諸国への報復攻撃の脅迫も続けている。日本は国際的な安保協力を積極化しているし、2016年の伊勢志摩サミットの開催も予定され、テロ攻撃の標的になりかねない危険性が高まっており、油断は禁物だ。 


ホームグローン

 パリ攻撃はイスラム国による欧米諸国での都市を標的にした最大規模の作戦だった。シリアとイラクに根拠地を置くイスラム国は、有志連合の空爆で、大きな痛手を蒙っており、次第に厳しい状況に追い込まれている。

 苦境打開のために考え出されたのが、国際的な系列組織を動員した域外での報復テロ攻撃である。まず、その舞台に選ばれたのがパリだった。フランスの植民地だったことから、両国間の人的往来も密度が濃いことも背景にあった。

 テロ攻撃の実動隊は、シリアに出掛けてイスラム国で「軍事訓練」を受けて、帰国してきた欧州生まれの過激化したイスラム教徒だ。いわゆる「ホームグローン」の過激派分子が系列組織を通じて自分の国に刃を向ける。12月初め米カリフォルニア州サンバーナディーノでの銃乱射事件もこの典型的なパターン。イスラム国に忠誠を誓うイスラム教徒夫婦が主犯で、40人近い死傷者が出た。

 イスラム国はこれを契機に、特に、有志連合の参加諸国へのテロ攻撃を強化しようという魂胆だ。ただ、欧米諸国では、イスラム教徒への反感が一段と高まり、真面目なイスラム教徒は苦しい立場に追いやられている。それに、米欧諸国は今後、イスラム国への国際的な包囲網を強化・拡大する方針である上、プーチン大統領もロシア旅客機の墜落がイスラム国の犯行と断定され、欧米との協力に軸足を移そうとしていた。だが、トルコによるロシア軍機の撃墜事件でイスラム国問題は一層複雑化してきた。2016年はイスラム国との戦いが最高潮に達しそうだ。

南シナ海争奪戦

 もう1つ世界の大きな関心を集めそうなのが、南シナ海をめぐる争奪戦である。経済の不調で本当は弱気に傾いているのだろうが、表向きにはまだまだ意気軒高な習近平主席の中国と、超大国の座を死守したい米国との覇権を賭けた歴史的な対決だ。

 南シナ海全域の領有権を主張して、あちこちで岩礁を埋め立てて、滑走路の建設など軍事要塞化を進め、弱体な周辺諸国を脅かして、南シナ海全域を「強奪」しようというのが、中国の野望である。これを放置しておけば、世界の通商の大動脈である南シナ海は中国の海となり、他の国々の船舶も航空機も行動の自由を奪われかねない。

 オバマ政権はやっと2015年10月に世界最強の第七艦隊に所属する駆逐艦を南シナ海に「出動」させ、11月には爆撃機を岩礁の近くを飛行させ、中国の野望に「NO」の明確なサインを送った。

 オバマ大統領は東南アジア諸国連合(ASEAN)関係の会議への出席を兼ねて11月末にアジア諸国を歴訪、南シナ海での中国の挑戦に対して正面から向き合った。中国に対しては埋め立て工事の停止や軍事化の放棄を強く要求すると共に、日本を含むアジア諸国の海洋の安全の強化のために、2億5千万ドルの軍事援助を提供すると発表、アジア重視政策の本格的な具体化にやる気を見せた。 

 米国は今後も艦船や爆撃機を定期的に南シナ海に「出動」させ、中国が野望を諦めるまで圧力を掛ける方針だ。

 オバマ大統領が臆病風に吹かれているとタカをくくっていた中国は、ショックを受けたのか、習近平主席が領有権争いの相手国であるベトナム、フィリピンなどを歴訪して、笑顔を振りまいて懸命の対応だ。だが、これは相手を欺く戦術的な作戦に過ぎず、南シナ海の争奪戦は今後一層激化しそうだ。

揺れ動くアジア情勢

 2016年のアジア情勢は、攻勢を強める中国と反撃に転じた日米陣営という大きな図式の中で動くことになろう。

 2015年には、中国寄りの色彩の強かったスリランカ(1月)やミャンマー(11月)での選挙の結果、野党側が勝利した。特に、ミャンマーではさしもの軍事政権も下野を覚悟したようだ。両国とも、南シナ海からペルシャ湾に至る中国の戦略的なシーレーンを形成する、いわゆる「真珠の首飾り」の中での重要な拠点となっていた。スリランカでは、シリセーナ新大統領が中国一辺倒だった外交を修正中だ。ミャンマーでも民主化の過程で、中国の影響力の後退が免れないだろう。また、年初の台湾総統選挙では、反中の民進党の勝利が予想されている。

 日米などが推進した環太平洋経済連携協定(TPP)の合意成立は、中国への無言の圧力となろう。反日共闘を組む中韓は経済の沈滞打開に対日関係改善への政策転換を余儀なくされるとの見方が強い。2015年秋に、久々に日韓首脳会談が実現したのも、その前兆かもしれない。

 2016年の米大統領選挙は、イスラム国と中国が大きな争点になるだろう。ただ、イスラム国対応に重点が移ると、アジア重視路線が後退しかねない。ともあれ、第1期政権の任期が迫る習近平主席には内外ともに頭の痛い一年となりそうだ。(12月10日


back