艦がついに南シナ海に「出動」
=公然と中国の領有権を否定=
2015
市政12月号
(全国市長会)

 米国がついに南シナ海にイージス駆逐艦を「出動」させ、巡視活動に乗り出した。南シナ海全域に領有権を主張し、人工島の埋め立て工事を盛んに進めている中国の現状変更の挑戦的な動きに待ったを掛けるためだ。
 中国の狙いは、世界の通商の大動脈である南シナ海を排他的に自由に専有するという戦略にある。中国は幾つかの海域で埋め立て工事を行い、人工島の沖合12カイリ(約22キロメートル)を領海だと主張している。
 米駆逐艦は今回、その内側の海域での巡視活動に従事することによって、中国の領海・領有権を公然と否定すると共に、公海における航行の自由の権利を行使したわけである。
 中国が埋め立て工事を開始して以来、米艦がこうした行動に出るのは初めてのことで、中国政府は「中国の主権と安全に対する脅威」だと断じ、「強烈な不満と断固たる反対」を表明、強く反発している。中国との領有権問題を抱えるフィリピンやなどに加え、利害関係を持つ日本やオーストラリアは米国の「出動」を歓迎している。米国はこれを手始めに、今後も同様の巡視活動を続ける方針で、南シナ海で緊張状態は今後一層高まりそうだ


横須賀の第七艦隊所属

 10月末に緊迫の南シナ海の重要な任務に出動したのは、横須賀を母港とする世界最強の米海軍第七艦隊に所属するイージス駆逐艦「ラッセン」だった。この第七艦隊はハワイのホノルルに司令部を置く太平洋艦隊の指揮下にあり、西太平洋からインド洋までの広大な海域を担当する。旗艦・司令部は横須賀海軍施設を母港とする揚陸指揮艦「ブルーリッジ」艦上にあり、原子力空母「ロナルド・レーガン」を主力艦とし、戦時には艦船50−60隻、航空機350機、兵力6万人を動員できる能力を持つ。

 「ラッセン」は南シナ海に浮かぶスプラトリー(中国名=南沙)諸島の中で中国が滑走路を建設中である人工島のスービー岩礁の12カイリ内に入り、巡視活動を一時間弱行った。その周辺には、やはり人口島ファイアリー・クロス、ミスチーフ両岩礁も位置している。特に、スービー岩礁はいわゆる「低潮高地(干潮時には水面上に現れるが、満潮時には水面下に没する岩礁や浅瀬)」で、国連海洋法上は、埋め立てても周辺に12カイリの領海を主張できない。

 ただ、オバマ政権は南シナ海への艦船派遣について、マスコミには事前にリークしていたものの、国防総省には事実を公には認めないよう厳しく箝口令を敷いていたという。米紙によると、これは「出動」を大ごとにして、中国を刺激しないようにとの配慮だったという。このため、カーター国防長官は直後に開催された上院軍事委員会で、議員からの質問に「出動」の事実の確認を渋り、ひと騒動あったという。

 オバマ政権の対中姿勢はいつまで経っても、及び腰から抜け出せないようで、こんな調子では、せっかくの決断にも関わらず、中国に誤ったシグナルを送る結果になりかねない。

「対抗措置」は抑制的―中国

 中国は南シナ海全域に対する領有権の主張が譲ることのできない同国の「核心的な利益」だと執拗に強調していて、譲歩しようとはしない。9月の習近平主席の米国公式訪問でも、米国の埋め立て中止の要求にも、共同記者会見の席上、習主席とオバマ大統領の間で激しい応酬があったばかりだ。

 今回の米駆逐艦による巡視活動の開始に際しても、中国側は強い反発を示した上に、外務省は人工島の埋め立てや滑走路の建設を加速化するかもしれないと警告した。また、中国は今回の米艦の「危険で挑発的な」行動に対して、「追尾・監視・警告」の対抗措置を取ったと指摘すると共に、「中国は挑発をたくらむ如何なる国家にも断固対応し、海空の状況への厳密な監視を継続し、あらゆる必要な措置を取る」と警告した。

 このような中国側の強い反発は予想通りだが、現場で取られた具体的な対抗措置には抑制的な色彩が読み取れる。オバマ政権は数年前、中国の目覚ましい経済的・軍事的な台頭に危機感を抱き、アジア重視政策への転換に踏み切った。この政策転換に沿って米軍はアジア展開の比重を高めており、中国の現在の海軍力では到底太刀打ちできないだろう。中国としても、対応に慎重にならざるを得ないのだ。長期的に見れば、この南シナ海の覇権をめぐる今回の米中の対決は、米国がアジアに今後も影響力を持って踏みとどまれるかどうかを決する試金石となりそうだ。

常設仲裁裁(ハーグ)の判断

 南シナ海全域への中国の領有権の主張をめぐる紛争に関連して注目されるのは、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所の審理の行方である。

 フィリピンは2013年1月、中国の領有権主張が国連海洋法条約に違反しているとして同裁判所に訴えていたが、米艦の南シナ海出動の直後の10月末、同裁判所は管轄権があるとのフィリピン寄りの判断を示し、実質的な審理に入ると発表した。中国はこの問題が関係諸国間の交渉によって解決されるべきだとし、領土主権に関るので、同裁判所には管轄権はないと主張していた。

 フィリピン政府はこの判断を歓迎しているが、中国は裁判には参加する予定はなく、判断は無効で、拘束力はないとの声明を出した。

 中国は仲裁裁判所が中国に遠慮して管轄権はあきらめると期待していただけに、大きな誤算だ。この結果、南シナ結果は来年中にも出されると見られ、それ次第では、中国はさらに苦しい立場に追い込まれる可能性もある。(11月4日)海の領有権問題は仲裁裁判所の今後の審理が国際世論の方向を左右することになりそうだ。武力を背景にした中国の脅迫じみた手法も通じなくなる。審理の結果は来年中にも出されると見られ、それ次第では、中国はさらに苦しい立場に追い込まれる可能性もある。(11月4日)


back