傲慢姿勢に嫌中拡大
習主席訪米
2015
市政11月号
(全国市長会)

 中国の習近平主席が九月下旬、初めて米国を公式訪問、一週間滞在し、オバマ大統領と首脳会談を行った。世界第二の経済大国の最高指導者として意気揚々と米国に乗り込んだものだ。だが、中国経済の変調に加え、様々の分野での中国の傍若無人な振る舞いへの反発があってか、オバマ大統領の対応には宥和色が後退した。

 習主席にとっての最初の誤算は、人気者のローマ法王フランシスコと訪問時期が重なったことだ。中国は事前に法王の時期をずらすよう米国に要請したが、断られたようだ。政府もマスコミも歓迎でお祭り騒ぎ、お蔭で習主席の方は存在がかすんでしまった。それではと、米国入り直後に、ボーイング社の旅客機300機の購入契約(約4兆5千億円相当)の隠し玉を発表したが、「爆買い」外交の効果も一過性に終わった。

 安倍首相の4月末の訪米のひそみに習い、習主席も上下両院合同会議での演説を画策したが、相手にされなかった。しかも、来年の米大統領選挙の前哨戦がにぎやかだが、民主、共和両党の候補者とも中国批判のオンパレード。勿論、票になるからだ。公式訪問に付き物の共同声明も米国の反対で反古になった。中国の最盛期は峠を越え、米中関係にも今後冷たい風が吹きそうな予感さえ漂い、習主席には厳しい公式訪問となった。


ツキジデスの
 習近平主席の対米基本戦略は、「新しい大国関係」というキャッチフレーズに凝縮されている。

 同主席は訪米をスタートさせた西海岸のシアトルに到着した9月22日、実業界中心の夕食会で最初の政策演説をぶった。その中で、耳慣れない「ツキジデス(古代ギリシャの歴史家)の罠」に嵌るなとの呼び掛けが登場した。当時、アテネが台頭、覇権国スパルタと対立、戦火を交えた結果、双方とも滅びた。ツキジデスがこのような大国間に起こりがちな悲劇的な傾向を「罠」と喝破したことから、彼の名前を冠した国際政治のことわざが生まれた。

 習主席はこれを教訓に、米中両国が対立と衝突を回避し、相互尊重で、「共存・共栄」を図ろうという「新しい大国関係」構築の訴えを行ったのだ。

 確かに、説得力のある発言だ。だが、これには毒が入っていた。習主席は尊重すべき事柄の中に、最近、南シナ海までも含めてきた、あの悪名高い「核心的利益」や人権無視の中国の社会制度までも米国に尊重を求めているのだ。要は中国の利益だけは守り、米国をアジアから排除しようという身勝手な論理だったのだ。

 さすがに。オバマ大統領もこんなものに賛成するはずがない。この提案は事実上宙に浮いたまま放置された。

事欠かない摩擦の種
 こんな具合だから、これまで習近平主席に融和的な姿勢を見せていたオバマ大統領も、不都合な現実には、断固対処する方針に転じたようだ。

 その筆頭に挙がったのが、中国による何件もの米国を標的にしたサイバー攻撃問題だった。中国は米国の民間企業から政府の省庁まですべてを攻撃の対象として、各種の戦略的に重要な機密情報を抜き取っていた。ただ、この情報窃取の証拠を確定するには、長期にわたる努力が要求される。

 オバマ大統領が特に怒ったのは、米連邦政府人事管理局(OPM)から2千2百万人の個人情報や身辺情報がハッキングされたことだ。この中には社会保障番号や指紋なども含まれており、中国の関与が濃厚になったという。日本の「マイナンバー」も当然標的になろう。だから、最大限の警戒が必要だ。

 このような状況を踏まえて、首脳会談でオバマ大統領は習主席に対し、サイバー攻撃を止めるよう要求、習主席も渋々応じ、双方の合意ができた。閣僚級の対話の場を設定、年内に初会合開くことになった。だが、大統領は共同記者会見の席上、わざわざ、行動を伴うことが肝心と指摘、今後、違反があれば、制裁措置を取ると強く異例の警告をした。

 次の米中間の深刻なトゲは南シナ海の領有権・軍事化問題である。中国は南シナ海全域に領有権を主張すると共に、スプラトリー(南沙)諸島のファイアリー・クロス礁で3千メートルもの長さの滑走路を完成させ、さらに2本の滑走路を建設中だ。米国政府は埋め立て中止を強く要求しているが、中国側は主権の問題であり、軍事化の狙いもないと反論。記者会見でも、両首脳間に厳しい応酬があり、互いの顔を見ず、終始、苦虫を噛み潰したような表情で、対立の深刻さが読み取れた。

 さらに、中国内の人権問題でも両首脳の間で激しいつばぜり合いが演じられた。習政権が登場して以来、民主主義を無視した人権の弾圧、報道や集会の自由の侵害がこれまでになく激しいとの認識が内外で定着しているからだ。オバマ大統領はこれに教会の閉鎖や少数民族の差別なども加えて、強い懸念を表明した。このような一連の厳しいオバマ大統領の追求に、習主席もたじたじの様子だった。

愛国主義的傾向に警戒感
 勿論、訪米では成果もあった。気候変動問題での協力や軍用機の衝突回避の行動規範合意などはプラスだし、効果に疑問点はあるが、サイバー問題での一歩前進も評価に値するだろう。

 だが、最近のオバマ政権の中国を見る目は次第に厳しくなりつつある。米国などで一番警戒的な点は、習政権が天安門事件後の歴代政権の中で飛び抜けた強大な権力を掌中に収め、国内では民主化運動を弾圧に奔走し、対外的には、対決色を前面に押し出した愛国主義的な強硬路線を突っ走っていることだ。バブルがはじけて世界を混乱に陥れても、傲慢で謙虚さのない習近平主席への反発は、海外でも予想以上に強く、米国では今後、中国叩きが新しい潮流となるかもしれない。(10月4日)


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