混沌状態の米大統領選
2015
市政10月号
(全国市長会)

 来年初めから始まる長丁場の米大統領選挙に向けて、民主、共和両党の立候補がほぼ出揃い、次第に論戦も本格化しつつある。民主党からは嘗てファースト・レディーだったヒラリー・クリントン前国務長官(67)が女性初の大統領を合言葉に本命視されている。だが、最近、躓いた。これを見て、バイデン副大統領(72)も参戦との見方も出回っており、クリントン候補も油断できない。
 他方、共和党からは、大統領を務めた父と兄を持つジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事(62)がやっと重い腰を上げ、有望視されている。事態が順調に進めば、ブッシュ、クリントン両家の因縁の対決に突入する可能性もある。
 それに面白いのは、共和党の異色候補、ドナルド・トランプ氏(69)の動向だ。不動産王の大富豪として有名な人物で、売名目的の泡沫候補という世間の評価を覆して、過激な発言で人気を博し、緒戦で大旋風を巻き起こしている。


本命クリントンつまずく=民主

 クリントン女史は2008年の大統領選で敗北、オバマ2次政権で国務長官を務め、今回も抜群の知名度を背景に民主党の指名争いで断トツとなっていた。勿論、選挙資金も潤沢だ。

 そこに「メール問題」が持ち上がった。国務長官時代に、公務に安全性の高い政府の公式アドレスを使わず、個人用アドレスを使用していたことが今春判明したのだ。クリントン氏は情報漏れを否定、色々弁明した。だが、調査の結果、機密漏れが発覚、彼女の信頼性と誠実さに疑問が高まり、好感度の深刻な低下を招いた。現在は、まだ本命の座を譲ったわけではないが、盤石とは言えない状況だ。

 この予想外の展開に、これまでその気を見せなかったバイデン氏が出馬に乗り気という。周辺の支持者からも強力な支援を約束されたのだろう。米連邦捜査局(FBI)がクリントン氏の機密漏れ問題で捜査に入るとの報道もあり、党内でも、クリントン氏ではたとえ、党の指名を手にしても、来年秋の本番の選挙で共和党候補には勝てないとの危機感もあるようだ。

 バイデン氏は9月中に正式に決断する予定という。年齢が高く、地味だが正直で信頼できると評判はいい。だが、党内では指名争いが激化すれば、せっかく中道穏健派に衣替えしたクリントン氏が票欲しさにまたリベラル化し、本番で不利になると心配する向きもあり、民主党には頭が痛いところだ。

ブッシュ氏の光と影=共和

 共和党には抜群の本命候補が不在だったためか、なんと17人もの候補者が乱立している。特に、民主党政権が2期続いた後だけに、次は共和党の番だというわけで、出馬しておいて何も損はないと踏んだのだろう。

 その中で、準本命とされるのがジェブ・ブッシュ候補である。ブッシュ家の二男として、知名度が高く、資金は豊富、それに政治家としての資質は兄の元大統領よりも上とされ、ブッシュ家の希望の星なのだ。フロリダ州知事時代には、教育改革などで実績を上げた。

 だが、問題もある。というのは妻のコルンバさんがメキシコ人で、政治向きの性格ではないことだ。ブッシュ氏がこれまで出馬を躊躇してきたのは、こういう背景があるらしい。ただ、最近、人口増で政治的な影響力の目立つヒスパニック系の票集めには、コルンバさんの存在が間違いなく強力な武器になる。

 もう一つは、ブッシュ氏が党内で保守穏健派に属することである。共和党は茶会運動などにもみられるように保守強硬派の勢力が強い。米国で大問題となっている不法移民への対応でも、共和党では規制強化が主流となっており、融和派のブッシュ候補は指名獲得の段階で苦しい戦いを迫られそうだ。

 他方、共和党で現在、一番人気なのは、不動産王のトランプ候補である。移民問題については、メキシコは麻薬犯罪者や婦女暴行犯などを米国に送り込んでいるなどと超過激発言で物議を醸している。だが、世論調査では支持率が高く、大変な人気ぶりだ。政治家たちの月並みな発言に飽き、過激な発言を面白がっているのだろうが、そのうち良識が勝ち、人気がいつまでも続くと見る向きは少ないようだ。

ダークホースの躍進も

 これまでの大統領選挙の例をつぶさに見ると、両党とも、本命と見なされていた候補が必ずしも指名を獲得するわけではない。全く無名の候補が爆発的な人気を集めて大旋風を起こし、突っ走って指名を手にし、その人気に乗って、本番でも勝利することも、これまでにもよくあった。

 2008年の大統領選で、民主党でクリントン女史が本命視されていたが、上院議員一期目の無名の黒人のオバマ候補に苦杯を喫したのが好例だろう。

 今回、抜群の存在だったクリントン候補もすでに失速気味だ。カヤの外だったバイデン副大統領が出馬し、指名を獲得することだってあり得ないことではない。また、自称社会主義者のバーニー・サンダース上院議員の動向も無視できない。

 また、共和党側では、あのブッシュ候補も必ずしも安泰ではない。今でも、トランプ候補にやられっぱなしで、支持率も低迷気味だ。

 有権者の心の奥に潜む既存の権威への反発もあって、その他大勢の候補にもチャンスはある。ウォーカー・ウィンスコンシン州知事(47)、ハッカビー元アーカンソー州元知事(59)、クルーズ(44)、ルビオ(44)、ポール(52)各上院議員らの中の誰かが飛び出す可能性がある。

 そして、もう1つ付け加えれば、来年11月の本番の対決で最後に笑うには、異色の才能に加え、予備選の時よりも幅広い有権者に訴える力と度量を兼備する必要があるということである。(9月4日)


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