対中包囲網構築急ぐ米国
2012
市政1月号
(全国市長会)
 

中国の「横暴ぶり」に世界中で警戒感が広がる中で、ひさびさに米国のアジア・太平洋地域への本格的な回帰が鮮明になりつつある。
2001年の「9・11事件」以来の10年間は、米国は世界テロ戦争の主要舞台イラク、アフガニスタンの両戦争にのめり込み、アジア・太平洋方面への配慮がおろそかになっていた。だが、この間に、中国は世界第2の経済大国に躍進、天然資源確保を目指し海軍力の増強や南シナ海の領有権の宣言など、対外拡張路線を突っ走り、安全保障面でも米国を脅かす存在になった。
オバマ政権は遅まきながら、中国の膨張路線に待ったを掛けるため、最優先の外交課題としてアジア・太平洋地域と取り組む姿勢を明確にした。この戦略転換を受けて、米国は日印オーストラリアなどを糾合、対中包囲網の完成を急いでいる。TPP(環太平洋経済連携協定)もその一環とも言えよう。


日本からインドまでの半円形
米国が当面狙っているのは、中国大陸の東から南方地域に至る半円形の包囲網の構築である。具体的には、日本に始まり、豪州、インドに至り、その間隙を韓国、台湾、フィリピン、ベトナム、インドネシアなどが埋めるという構想である。天然資源の開発や中東の石油輸入の確保のために、この地域へのプレゼンスを拡大させている中国に対して障壁を築くのが目的だ。最近のオバマ政権のアジア・太平洋外交を眺めると、自ずと狙いがはっきりと浮かび上がってくる。

注目すべきは、中国と国境紛争を抱え、戦火を交えたことのある因縁の深いインドの取り込みである。同国は元々、冷戦時代には米中パキスタンの連携に対抗して旧ソ連と緊密な関係を維持し、米国とは極めて疎遠だった。 

だが、中国の台頭が目立ち始め、米印の利益が重なり合う。ブッシュ政権時代の2006年に中国牽制とインドの原子力平和利用への協力を目的に歴史的な原子力協定に調印した。この関係改善の流れをオバマ大統領も踏襲し、2010年の訪印では、インドの国連安保理の常任理事国入りにも支持を表明した。最近の米国防総省報告では、米印の軍事協力の強化や戦略的パートナーシップが明記されている。

豪州にも米海兵隊が常
また、オバマ大統領は2011年11月に豪州を訪問、同国北部のダーウィンへの米海兵隊の常駐で合意した。米戦闘部隊の豪州常駐はこれが初めてだ。米軍の海空軍統合作戦構想の一環だが、中国に脅威を抱く豪州側と利益が合致したものだ。実際、南シナ海全域の領有権を主張し、空母を建造するなど太平洋進出を図る中国の拡張的な海洋戦略は豪州を不安に陥れている。

常駐する海兵隊の規模は明らかにされていないが、数年以内に2500人程度の規模にする方針。現在、米海兵隊は沖縄、グアム、ハワイなどに常駐しているが、常駐場所を増やすことで、中国ミサイル攻撃の矛先を分散して、報復攻撃能力の生き残りを可能にしようとの狙いだ。言わば、相互確証破壊戦略の応用である。中国国防省は米海兵隊常駐を「冷戦思考」と批判、不快感を表明している。

豪州常駐によって、沖縄駐留海兵隊の比重はある程度減るが、台湾や中国本土に地理的に近いことから、その重要性は変わらないどころか、包囲網の中心的な役割を期待される。それに付け加えれば、日本領の尖閣諸島への中国の領土的な野心が見え隠れする現在、沖縄の米海兵隊はその野心を押さえ込む大きな効果が期待できる。

旧敵ベトナムも積極参加
この包囲網構築で特に、異色の存在となるのはベトナムである。中国に対する恐怖感と不信感は半端ではなく、中国の脅威に対抗上、あれほどベトナム戦争で痛めつけられた米国と握手することも躊躇していない。

中国は1979年にカンボジアを巡り「懲罰」と称してベトナムに侵攻、中越戦争が勃発した。南シナ海でも1988年には、両国が領有権を争うスプラトリー(南沙)諸島で海戦があった。同諸島の帰属問題は未解決だ。

それにも関わらず、中国は2010年には「核心的利益」論を一方的に持ち出し、南シナ海全域の領有権宣言を行った。そしてベトナムの排他的経済水域(EEZ)内で様々の挑発的な行動をエスカレートさせている。ベトナム国民の怒りは激しく、2011年半ばには、首都ハノイで一ケ月以上も毎日曜日に反中デモが繰り返された。

2010年には、米空母がベトナム沖合に錨を降ろしたこともあった。ベトナム政府・軍高官を招いて艦上パーティを催して、旧敵同士の仲の良さを中国に見せつけたものだ。

ミャンマーも中国離れ?
さらに、米国は中国の影響の強いミャンマーに対する強硬路線を転換した。民政移管後のミャンマー側が制裁解除を求めて対米関係改善に乗り出してきたからだ。クリントン国務長官が2011年11月末ミャンマーを訪問、民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんやテイン・セイン大統領と会談したのもこういう背景からだ。米国務長官の訪問はなんと57年ぶりと言うから画期的なことなのだ。

クリントン長官は同大統領に政治犯の釈放、経済開放や政治の民主化などの改革を求めた。その進展に応じて段階的に制裁を解除し、関係を大使レベルに復活させる方針。ミャンマーは過度な中国依存の現状に不満だとされ、中国が請負ったダム建設が中止となった。対米譲歩に反対の勢力もあるが、今後、対中傾斜の修正の可能性があり、中国包囲網との関連からも期待が持たれている。(12月3日)


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