イランと欧米が核合意
2015
市政9月号
(全国市長会)

 欧米諸国など6か国とイランとの核問題をめぐる協議が7月にやっと最終的にまとまった。イランによる核兵器開発疑惑が判明してからほぼ13年、この協議は難航に難航を重ねた結果、双方の譲歩によって歴史的な成果をもたらした。合意の基本的な構図は、イランの核開発に制限を課す代わりに、国連や欧米諸国による対イラン制裁を段階的に解除するというものである。
 これまでは、イランが核開発を決断すれば、完成までにわずかに「2、3か月」という短期間だったが、今後は「1年間以上」を要することになり、その間に欧米側の対応が可能になったとされる。イラン側は制裁の解除によって、経済的な束縛を解かれ、孤立から脱却できる。ただ、合意には様々な抜け穴があるし、中東でのイランの影響力の拡大への懸念も大きく、これが定着するまでには紆余曲折も予想される。


双方が譲
 ウィーンでの核合意の妥結は、今年7月14日だった。2013年秋の暫定合意からのマラソン交渉がやっと実ったのだ。

 「共同行動計画」は本文と5つの付属文書で構成され、イラン側が今後10年から15年間、核開発能力を制限されると共に、強力な査察や監視措置を受け入れるのと引き換えに、欧米側はイランに対する制裁措置を段階的に解除する。国連安全保理の承認と関係各国の国内手続きが完了すれば、合意が実施に移されることになる。

 同計画では、「イランは如何なる状況下においても、核兵器の開発・取得を追求しない」と明記されている。核開発の制限のため、核爆弾の製造に必要とされる高濃縮ウランの生産を制限し、イランが現在保有している遠心分離器1万9千基のうち、約3分の2の使用を10年間禁止する。
 
 このような措置により、イランが核爆弾の製造を決断してから完成までの期間が現在の「2、3か月」から「1年以上」に延びる。これで欧米側はイランの野心を阻止する措置を取れるとの判断である。
 また、最大の焦点だった国連の対イラン武器禁輸は5年間、ミサイル禁輸は8年間それぞれ解除されない。
 イランが合意を破る可能性を阻止するために、国際原子力機関(IAEA)による厳しい査察を義務付けている。

イラン側の反応
 欧米側はイランとの核協議に乗り出した当初は、核能力の「全廃」を目指していた。しかし、平和的な核開発までも禁止することは不可能で、結局は核開発の「制限」に後退した。
 このため、ウランの濃縮を高める遠心分離器も、かなりの数の稼働継続を認めると共に、一部の濃縮施設の維持にも目をつむった。イランはこれで、制限期間の終わる15年後には、民生用なら自由にウランの濃縮を行い、核開発を推進する権利を確保したのだ。

 このような欧米側の譲歩で、イランはメンツを保つと共に、いざという時には、秘密裏に核兵器の開発にも乗り出すことが事実上可能となったわけである。
 イランの最高指導者ハメネイ師は合意成立直後に、このような「抜け道」を意識しながら、「イランの勝利」だと核合意への支持を強く表明した。この発言は米欧諸国との関係改善を目指し、合意を主導したロハニ大統領ら保守穏健派を擁護し、対米強硬派による合意つぶしを抑え込もうとの狙いがあるものとみられる。
 
 最近のイランでは、ロハニ氏が2013年の大統領選挙に勝利したように、制裁による経済の疲弊に対する不満が強い。特に人口の6割を占める若者を中心に欧米諸国との関係改善を求める声が強まっている。さすがのハメネイ師もこのような民心の変化を無視できないだろう。

オバマ外交の評価
 イラン核合意は「歴史的な成果」との評価があり、オバマ大統領はこれを完成させれば、歴史に名を残すことができるとの見方があちこちに出回っているように見える。だが、一皮めくると、辛辣な批判も多い。
 最新の米CNNの世論調査(7月下旬)では、米議会がこれを承認すべきか否かとの問いに対して、NOが55%で、Yes は44%に止まったという。その理由は、結局は、「イランの核開発を阻止できないから」だとされている。
 
 米議会はイラク核合意審査法に基づき、9月17日までに承認するか否かを決めなければならない。不承認ならば、オバマ大統領は拒否権を発動するが、上下両院がそれぞれ3分の2以上で再議決すれば、拒否権を覆すことができる。上下両院で多数を有する共和党のベイナー下院議長は反対工作に走りまわっている。また、イスラエルのロビー団体は超党派的な影響力を持つ。CNNの世論調査結果などを見ると、議会の承認問題はオバマ政権にとって危険な綱渡りのように見える。
 
 それに、中東地域で影響力の強い元来、親米のイスラエルやサウジアラビアなどがイラン合意に強い危機感を抱き、反対している。イスラエルのネタニヤフ首相は3月には、米上下両院合同会議に招かれ、真正面から合意を厳しく非難、今も意気軒高だ。
 
 サウジのサルマン国王に至っては、5月のワシントン中東首脳会議を企画したオバマ大統領に肘鉄を食わせた。同国王は今秋には訪米すると言われ、サウジは軟化したように見えるが、そう簡単ではあるまい。
 イスラエル、サウジとも核合意を通じて、イランが核爆弾を保有する可能性があることに危機感を抱いている上、制裁の解除で、イランが凍結資産を取り戻し、これを使って域内でのシーア派の国々への支援を強化するのではと神経質になっている。
 核合意がオバマ大統領の輝かしい遺産となるかどうか、議会への説得工作如何がカギとなりそうだ。(8月4日)


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