南シナ海で米中一触即発
2015
市政7月号
(全国市長会)

 オバマ米政権がやっと、南シナ海における中国の野心阻止に本気になり始めたようだ。9月の習近平国家主席の訪米を見据え、ケリー国務長官が5月に訪中したが、その直前から、オバマ政権は対中強硬姿勢を一段と鮮明にした。焦点は、南シナ海で中国が推進する大規模な岩礁埋め立て工事への警戒心だ。南シナ海での監視体制強化のため、米国が航空機や艦船の派遣の検討を開始したことも明らかにした。
 米国の対中戦略は、数年前からアジア重視のリバランス(再均衡)政策に転換したが、習政権の「新しい大国関係」の論理にはまりかけ、優柔不断さが目立っていた。だが、最近、訪米した安倍首相の中国に対する断固とした姿勢などに元気付けられたのだろう。米国は日豪や他のアジア諸国とも協力して対中圧力を強化する構えだ。だが、中国の反発も一段と激しくなっている。 


南シナ海に米軍派遣
 中国はこのところ、南シナ海に浮かぶスプラトリー諸島(中国名=南沙諸島)などでの人工的な埋め立て工事を急速に進めており、沿岸周辺諸国(フィリピンやベトナムなども領有権を主張中)は勿論、自由な航行の権利を主張する米国などもこれに深刻な危機感を露わにしている。中国は数年前から同諸島を含む南シナ海全域に対して領有権を主張しているが、その根拠となると、歴史的に中国の領土だったと言うくらいで、確固とした根拠を提示できないでいる。

 工事はこの同諸島近辺に散らばる、水面上に少し頭を出しているだけの数個の岩礁の周辺一帯を埋め立てて、人工島を造成する作業である。

 その中の1つのファイアリークロス岩礁は1万フィートの滑走路の建設が予定されており、空撮ビデオでは、すでに広大な島が出来上がっている。中国側は難民救助などの民生用施設だと公言しているが、早期警戒レーダーに加え、兵舎、見張り用のタワー、立派な滑走路もあり、まさに「不沈空母」といった感じだ。中国の孫建国副総参謀長もつい最近、シンガポールでの安保関係の会議で、人口島について「軍事目的」があることを初めて認めた。

 この埋め立て工事に対しては、オバマ政権はこれまで目をつむってきたが、もうこれ以上放置できないと判断したようだ。このままでは、南シナ海全域で中国が要塞化を進め、領有権主張を補強する既成事実を積み重ねる恐れがあるからだ。最悪の場合、中国は「防空識別圏」の設定に進みかねない。

 このような中国への警告が、米国防総省の打ち出した南シナ海での対抗措置である。これに合わせた形でマスコミを総動員した広報活動もスタートした。各種の米メディアに、中国の人工島の周辺での航行の自由を確保するために、米国が軍用機や艦船の派遣を検討中だとの記事が登場。一部では、カーター国防長官がスプラトリー諸島の岩礁から12カイリ(約22キロ、国際法上の領海の範囲)以内に航空機や艦船の派遣を含む対応策の採用を要請したとの報道もあった。

 事実、国防総省のウォレン報道部長は12カイリ以内への進出が「次の段階の措置である」ことを確認した。

 広報の目玉は米CNNテレビだ。国防総省はP8対潜哨戒機に取材陣を同乗させ、現場のファイアリークロス岩礁上空に。米軍機の飛来を察知した中国側から「こちらは中国海軍、直ちに退去せよ」との警告が何度も流れる。南シナ海での米中両軍間の緊張ぶり全世界に伝わって行ったのである。

9月習訪米に向けガチンコ勝負
 このようなオバマ政権の対中圧力を背景に、ケリー国務長官が5月中旬、北京を訪問した。習近平主席や王毅外相と会談、中心議題は南シナ海の埋め立て工事問題だったが、米中双方とも互いの主張を少しも譲らず、相当緊張した雰囲気だったようだ。

 同長官の訪中は、6月に北京で開催される米中戦略・経済対話、さらには9月の習近平主席の訪米をにらんだ準備作業が狙いだ。

 最近の米中関係は静かながらも、様々の懸案を抱え、緊張した空気が漂う。習政権の登場で中国側が持ち出した「新しい大国関係」問題は、米国政府が慎重な姿勢に転じ、宙に浮いた感じだ。ウクライナ問題を契機に目立ってきた中露の接近、さらにアジアインフラ投資銀行開設問題などが米中関係の不安定要素となっている。

 南シナ海における中国の人工島造成工事問題は、米国のアジア重視政策を根幹から揺さぶりかねない。だから、この問題は今や、オバマ政権にとっての喫緊の重要な課題だ。

 会談後の共同会見によると、ケリー長官は王毅外相との会談の中で、埋め立て工事の速度と規模に強い懸念を表明、自制を促した。だが、王毅外相は「工事は完全に中国の主権の範囲内にあり、譲歩はできない」とはねつけた。そして、東南アジアの直接関係諸国に対しては、交渉による適切な解決策を探るとの方針を繰り返すと共に、「部外者」の米国の干渉を拒絶した。

 中国政府が5月末に発表した「中国の軍事戦略」と題する国防白書も、域外の国家が南シナ海の問題に介入し、繰り返し接近偵察を続けている」と非難、「海上の主権を守る争いは長期に及ぶだろう」と露骨に米国を非難した。

 将来を見越した中国の厳しい対決姿勢から判断して、来年初めから本格化する米国の次期大統領選挙では、対中政策が重要な争点になろう。しかも、米国をアジアから排除しようとする中国に、米国民は素朴な怒りを抱くと見られ、民主、共和両党の候補とも対中強硬論に傾き易い。

 オバマ政権は近く、中国が造成中の人工島の12カイリ以内に米軍の飛行機か艦船を送り込むことになろうが、中国の対応はどうなるのだろうか?多くの船舶が行き交う南シナ海が一挙にきな臭さを帯びてきた(6月3日)


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