中国主導の投資銀設立が本格化

2015
市政5月号
(全国市長会)


 戦後からずっと続く米国による国際金融秩序の支配にとうとう風穴が開くことになった。現状に不満を抱く世界第二の経済大国、中国の主導する国際金融機関の設立の動きが本格化したからだ。中国が創設を目指しているのはアジアインフラ投資銀行(AIIB)で、中国が設定した参加期限の3月31日までに、G7(先進7か国)の英独仏伊を含め、アジア諸国を中心に約50か国・地域が参加を表明した。正式発足は今年末を予定しており。予想以上に多い参加申請ぶりに、中国は意気軒昂だ。日本は組織運営の透明性の欠如などを理由に、米国との協調を優先させ、参加を見送った。中国の国際金融分野への「殴り込み」を座視するしか手のなかった日米の判断が正しかったかどうかは、中国の今後の運営の仕方如何が決めることになろう。


インフラ投資を支援

 世界の中でも最も目覚ましい経済発展を続けているのはアジア地域である。このアジア地域で、何よりも急務とされているのが、経済発展の土台となる各種のインフラ(社会資本)の整備である。道路、鉄道、電気、通信、エネルギー、港湾などの基礎的なインフラが整っていなければ、せっかく外資を呼び込んでも思うような活動が困難になる。

 中国はそこに目を付け、これまでに貯めこんだ巨額の外貨準備の一部を利用して、不可欠なインフラの整備に充てる投資に回そうというのがこの構想の狙いである。この分野ではこれまで日本が主導するアジア開発銀行(ADB)が資金供給源となっていたが、アジアの急激な成長によって必要となる資金の需要を満たすことができなくなっているのが現状である。

 AIIB設立構想の大枠はこんな具合である。創設時の当初の資本金は当初は500億ドルとし、行く行くは1、000億ドルに増やす方針。出資比率は国内総生産(GDP)の額に応じて決められるので、中国が最大の拠出国となる。本部は北京、総裁には設立準備委員会の金立群・秘書長(元ADB副総裁)が最有力だ。こうなると、当然ながら中国のやりたい放題となりそうだ。

 だが、その理念は必ずしも明確でなく、貧困撲滅、環境への配慮などを重視する世界銀行やADBと比べて、なんとなく寂しい感じがする。これまでの中国による対外援助について悪評を考えると、どうも、自分の都合だけを考えた資金供与が大手を振ってまかり通るのではないかといった懸念が付きまとう。その他にも、公正なガバナンス(統治)や融資条件についても、明確な規定はなく、へたをすると、中国とそれ以外の創立メンバー諸国との間に深刻な摩擦が生じる恐れがある。

英国参加で雪崩現象

 米国は中国が投資銀行構想をぶち上げて以来、当初から関係諸国に対して、これに乗らないよう呼び掛けてきた。だから、参加を決めたアジア諸国が昨年10月に北京に集まり、気勢を上げた際にも、先進諸国や豪州、韓国などは様子見を決め込んだ。

 こんな空気を一変させたのが、米国の盟友、英国の突然の参加表明(今年3月中旬)だった。米国政府は怒り狂った。ホワイトハウスは「英国が終始、中国に便宜を図ろうとする傾向があるのを懸念している」と特別の関係にある英国を珍しく悪しざまに公然と批判した。

 英国としては、経済大国の中国との関係強化を通じてアジア地域へのビジネスの拡大を図るという実利を優先させたようだ。その背景には、国際金融の中心的存在のシティを抱え、中国の人民元の取引を他に渡したくないとの思惑もあったという。さらに、米国が世界銀行などの改革に積極的でないことに嫌気が差したとも言われている。

 ともあれ、この英国の参加表明は洞ヶ峠を決め込んでいた独仏伊などの欧州諸国は勿論、オーストラリア、韓国、さらにロシアまでも雪崩を打って追随する結果を招き、米国や日本には大きな打撃となった。

中国の経済「覇権」狙う

 中国はAIIBの目的として、アジア諸国のインフラ整備への資金供給という大義名分を掲げる。だが、事情はそれほど単純ではない。最大の目的は何よりも、これで米国の国際金融分野の覇権に風穴を開けることである。中国の影響力が拡大すれば、米国の威信は傷つく。

 この関連で注目されるのは、中国が近年アジアと欧州を結ぶ壮大な経済圏の構築を目指し、中央アジアの陸路と東南アジアの水路の双方を通じる「陸と海のシルクロード(一帯一路)」戦略の推進に力を入れていることである。
 中国の習近平主席は3月末、海南島で開催された「ボアオ・アジアフォーラム」年次総会で、この構想を通じてアジア諸国主体の共同体を中国主導で創設し、、AIIBの補助的な役割も強調した。ここでも米国の排除を狙う。

 それと同時に、現在の中国の国内経済はこれまでの驚異的な成長ぶりは影をひそめている。今春開催された全国人民代表大会(国会)でも7%前後の低成長をよしとする「新常態」への移行が報告された。国内経済の成長鈍化に直面し、海外への進出を一層強化する必要が出てきた。これは取りも直さず、中国の海外での影響力拡大のチャンスでもあり、AIIBの創設には中国の様々の思惑が交錯する。だが、つまるところは中国の経済「覇権」の確立が狙いだ。これに待ったを掛けるには、日米間の一層の緊密な協力と同盟強化が欠かせない。(4月4日) 


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