オバマ政権との亀裂深刻化
イスラエル
2015
市政4月号
(全国市長会)

 剛腕で鳴るイスラエルのネタニヤフ首相とオバマ米大統領との関係が一挙に冷却化している。同首相がホワイトハウスの頭越しに米議会の上下両院合同会議での演説を受諾した上に、その演説の中でオバマ大統領が重視するイランの核問題に関する合意を真正面から非難したことが引き金になった。
 しかも、議会演説を持ちかけたのが、オバマ大統領の「天敵」ベイナー下院議長(共和)だったことから、オバマ大統領はネタニヤフ首相の演説について、いたずらに問題を政治化した上、何も新味はないとして一層姿勢を硬化した。オバマ大統領はワシントン滞在中のネタニヤフ首相に会おうともせず、側近のライス大統領補佐官(国家安全保障担当)は事前に、演説が両国関係を「破壊する」とまで警告した。これまでも、オバマ・ネタニヤフ関係は微妙だったが、両者の明白な対立は中東地域の安全維持に不可欠の同盟関係にある両国間に深刻な亀裂をもたらしかねない。 


イラン核合意で大統領を非難
 ネタニヤフ首相の3月3日の米議会演説はオバマ大統領が他の主要5か国と一緒に推進するイラン核合意に対する予想通りの厳しい非難に終始した。
 同首相はこの演説の中で、「米国がイランと結ぼうとしている核合意は悪い合意である。非常に悪い合意だ。我々はそんな合意をしない方がずっといい」と素っ気なく言い切った。そして、「それはイランが核爆弾を保有するのを阻止するどころか、イランに核爆弾保有への道を開くものだ」と強調した。

 その理由として、ネタニヤフ首相は、オバマ政権が2点で譲歩し過ぎだと指摘。その第一はイランがウラン濃縮用の何千もの遠心分離器を含む大量の核インフラを保有することを受け入れたこと、第二は核開発の制限の期間を10年間としており、それでは僅か10年が経過すれば、イランは核物質の生産を自由に拡大できることだと語った
 そして、イランの聖職者政権が続く限り、核合意の期間中に、イランの侵略的な性格は変わらないのだから、イランの核を管理し、制裁を続け、封じ込めなければならないと強調した。

 これに対し、オバマ大統領は「演説には何も新味はないし、ネタニヤフ首相は有効な代案を提示しなかった」と一刀両断に切り捨てた。オバマ大統領はこの演説を無視する方針のようだが、野党共和党はネタニヤフ演説でさらに元気付けられたと見られ、大統領は核合意をまとめ上げたとしても、その後の議会工作に苦労しそうだ。

共和とネタニヤフの握手
 ネタニヤフ首相と同様に、イランの核問題を穏便に解決するというオバマ大統領の手法を苦々しく思っている勢力が米国にもいた。それが共和党だった。そして、そのリーダーがベイナー下院議長なのである。オバマ大統領がホワイトハウス入りして以来、終始、同大統領の内外政策に待ったを掛けてきた。

 しかも、昨年11月の中間選挙で、共和党は上院で念願の過半数を獲得した上に、下院でも選挙前の過半数の議席にさらに積み増した。上下両院を制するという画期的な勝利を手にしたのである。残りの任期が後半の2年だけとなったオバマ大統領にとっては手痛い敗北だ。

 この時期のオバマ大統領としては、残り少ない任期中に特筆に値する業績を上げ、歴史に名前を刻みたいところだ。イラン核問題の解決はそんな業績の1つと見なされている。
 大統領は今年1月の一般教書演説の中で、イランとの核交渉に関連して、議会がイランへの追加制裁を発動すれば、微妙な段階にある交渉が頓挫しかねないと警告した。ベイナー議長ら反対派は、大統領がイランとの間に不利な取引をまとめている時に、議会は何もせず、傍観していればいいのだと言っていると受け取った。

 怒った同議長はこのような要請を無視し、ホワイトハウスとの調整抜きで、ネタニヤフ首相に直接その意を伝えて議会に招請し、イランとの核合意を批判する演説を行うよう頼んだのだ。同首相は二つ返事で同意した。ホワイトハウスが外交儀礼に反すると批判したが、後の祭りだった。

 ネタニヤフ首相は演説後、意気揚々と引き揚げたが、問題は3月17日のイスラエル総選挙の結果だ。予想では、ネタニヤフ首相の続投と見る。米議会での対イラン強硬姿勢は与党の右派リクードにプラスに作用したようだ。だが、野党の中道右派「シオニスト」とは依然として接戦で、すべては選挙後の合従連衡次第との見方が有力だ。

存在感増すイラン
 イスラエルと米共和党とがイラン核交渉つぶしで共闘を組んだものの、オバマ大統領はあくまでも交渉を推進する構えだ。他方、イランのロハニ大統領も核合意と交換に制裁措置を撤回させることができるとあって、まとめたいとの意向は変わっていないようだ。

 ただ、イランは核合意がまとまっても、中近東地域でのシーア派の影響力拡大を目指す策謀に手心を加えることはないだろう。同じシーア派に属するシリアのアサド政権、イラクのアバディ政権との強力な繋がりは、スンニ派諸国にとっては不気味な存在だ。スンニ派のサウジアラビアや湾岸諸国はイラクとの核合意に関しても、米国などによるイランの行動監視が疎かになるのではないかと恐れている。

 しかも、つい最近は、イランはアラビア半島南部に位置するイエメンに、反米でシーア派のフーシ部族が今年初め、政権を奪取したのを機に、積極的な支援に乗り出した。イエメンはサウジアラビアとも国境を接し、重要な海上交通路を扼する要衝だ。イランの介入が周辺のスンニ派諸国を巻き込んだ宗派対立に発展、新たな紛争を生みかねないと懸念されている。(3月6日)


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