残酷非道
イスラム国の衝撃
2015
市政3月号
(全国市長会)

今年に入ってから、堰を切ったように過激派組織イスラム国(ISIS)関連の事件が世界中に広がると同時に、その本拠地の中近東の情勢が一段と不安定化する様相を呈している。2010年頃から始まった民主化の嵐「アラブの春」が引き起こした混乱がさらに複雑化している結果だろう。
 ISISは、フランスの連続銃撃テロ事件でその不気味な影がちらつくし、日本人人質事件では直接主役を演じ、その残酷非道ぶりで世界に衝撃を与えた。昨年8月から始まった米国主導の有志連合による空爆がかなり痛手を与えているようだ。だが、あの国際テロ組織アル・カーイダを優に凌ぐ力量を誇り、全世界から大勢のイスラム過激派やシンパが馳せ参じており、根絶には数年掛かりそうだという。


ムハンマド風刺画が引き金
 今年1月早々に起こった仏連続銃撃テロ事件は欧州を恐怖のどん底に陥れた。引き金となったのは、同国の政治週刊紙「シャルリー・エブド」によるイスラム教の預言者ムハンマドの風刺漫画の掲載だった。それに、仏のISIS空爆も動機になった。この事件で特に注目されたのは、犯人たちがフランス育ちだが、アルジェリアやマリなどからの移民だったことである。最近、欧米諸国ではテロに絡んで、いわゆる「ホームグローン(homegrown)」による事件の多発が関心の的だ。民主主義的な環境の中で育ちながら、北アフリカや中近東のイスラムの過激思想に傾倒して、過激なテロ行為に走るケースが多いのだ。

 欧州諸国には、数百万人のイスラム教徒が居住しているが、貧困層が多く、社会への反発から犯罪の温床になっているという。欧州諸国では、今回のテロ事件を契機に、移民排斥運動が右派組織だけでなく、一般に広がりつつあり、深刻な社会問題となっている。

「日本の悪夢」が始まる?
 「アベ(安倍首相)、勝ち目のない戦争に参加するというお前の無謀な決断のために、このナイフはケンジ(後藤健二さん)を殺すだけでなく、お前の国民がどこにいようとも、虐殺をもたらすだろう。日本の悪夢が始まる」

 後藤さんを殺害したとの動画を投稿した際に、イスラム国と見られる組織が2月1日(日本時間)に出した安倍首相と日本人に対する脅迫声明文の一部である。日本がまるで米軍の主導する有志連合に加わり、空爆への直接参加を決めたかのような印象を与える脅迫である。

 これに関して、中近東を歴訪中の安倍首相の発言が挑発的で、ISISを怒らせたとの見方もある。だが、集団的自衛権の行使に批判的なグループの影響を指摘する向きもある。その背景は別にして、中東・北アフリア地域での日本のプレゼンスは近年、大幅に拡大しており、一昔前の比ではない。上記のようなイスラム国の声明を見ると、今後は内外共に油断禁物である。特に、国内では2020年のオリンピック開催を控え、政府は情報収集、警備強化に特段の注意を払う必要がある。

 また、日本では平和主義に徹すれば、テロの暴力の標的にならないなどといった平和ボケが横行しているが、いい加減にして欲しいものである。平和主義を金科玉条とし、すべてをお金で解決する現状では、テロの格好の標的になりがちだし、一旦人質が取られると、お手上げとなる。これに味を占めたテロ集団はまた同じことを繰り返すことになる。「平和を愛する諸国民に、、、(日本の)安全と生存」を任せるなどといった能天気では、生きていけないのは実は今も昔も同じなのである。

不安定化増す中東
 イスラム国は単にシリアとイラク両国の一部を実効支配している「疑似国家」に過ぎない。前身はイラクのアル・カーイダ(AQI)で、イスラム教スンニ派が主体となっている。預言者ムハンマドの後継者「カリフ」を自称するアル・バグダディの指導下でシリアにも勢力を伸ばし、昨年初めにアル・カーイダと決別した。
 ランド・ポール米上院議員(ケンタッキー州、共和)は昨年、米国がシリアで反政府のISISを支援していたことを暴露している。要は、ISISは皮肉なことに米国などが秘密裏に援助した結果、勢力を拡大したというのが真相らしい。米国が遅まきながら公然と支援した穏健派の反体制派統一組織のシリア国民連合は国内での支持も広がらず、尻すぼみ状態だ。

 他方、アサド政権は今も権力にしがみついており、アサド大統領が近く辞任するとか、ISIS以外の反政府勢力が打倒する可能性はゼロという。今や、情勢は変化し、米国にとっての最大の脅威は、アサド大統領というよりも、イスラム国なのだという。だから、シリア問題の解決には、アサド政権と欧米諸国が組んで、イスラム国と対決するのが最適だとの見方もあるらしい。

 このような情勢の中で、サウジアラビアのアブドラ国王(90)が今年1月に死去し、サルマン皇太子(79)が新国王に即位した。同国は中東地域で最も豊かで、最も安定した、世界最大の石油輸出国であり、親米路線を取ってきた。国王の継承はスムーズだったが、石油価格が暴落し、産油諸国の台所が苦しく、中東情勢が波乱含みの現在、中東のリーダー格のサルマン新国王の手腕の見せ所だ。
 一つの懸念は優柔不断なオバマ政権の対シリア・イラン外交への不満から、米・サウジ関係が冷却化していることだ。オバマ大統領がインド訪問を短縮し、急きょ前国王の葬儀に参列したのも、微妙な関係を考慮してのことだ。米国がシェールオイル革命で優位に立ったとは言え、中東でのサウジの影響力は抜群だけに、今後の両国関係に関心が集まるだろう(2月4日)


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