ソニー映画絡みで米朝関係が緊張
2015
市政2月号
(全国市長会)

 ソニー傘下の米映画会社ソニー・ピクチャーズ・エンターテイメントが制作した映画をめぐって、米国と北朝鮮との関係が緊張している。この映画は北朝鮮のワンマン金正恩氏の暗殺を題材にしたB級のコメディ映画だが、指導部への冒涜だとして、北朝鮮が激怒、昨年のクリスマス封切を控えて同社にサイバー攻撃が仕掛けられた。オバマ大統領は異例に素早い対応で、北朝鮮の犯行だと断定、「表現の自由」の侵害だとして相応の報復を警告。今年正月早々に、北朝鮮の政府と党に制裁を科す大統領令に署名した。このところ、北朝鮮は対米柔軟姿勢に転じ、米国もこれを評価していた。だが、ソニー映画をめぐる思わぬ展開に、米朝関係改善の芽も育ちそうにない状況だ。 


ソニーにサイバー攻撃
 この映画の名前は「ザ・インタビュー」。北朝鮮の金正恩第一書記(30)のパロディ化が狙いである。正恩氏は3年前に父親の金正日総書記の死去でトップの座に就いた。1年前には、叔父で御守り役のナンバー2だった張成沢前国防委員会副委員長を切り捨て、完全に独り立ち。今や怖いものなしの独裁者として世界中に知られている。

 映画の筋書きはこうだ。米国人記者2人がこの正恩氏とインタビューできることになった。そこに米中央情報局(CIA)から同氏暗殺の依頼が舞い込む。2人は密命を帯びて北朝鮮に乗り込み、そこでどたばた劇が展開される。ソニーはこれをクリスマスにぶつけることにしていた。

 北朝鮮はこのような映画の制作計画を知って憤激した。昨年6月には「わが最高指導部を冒涜する映画は最も露骨なテロ行為であり、絶対に許せない」などと非難する外務省声明を出した。さらに11月末には、ソニー・ピクチャーズにサイバー攻撃が仕掛けられ、同社のコンピューター・システムは不通となり、幹部の個人情報が外部に流出する騒ぎとなった。しかも、その後、上映する映画館には、テロ攻撃の脅迫まであった。このため、ソニーは上映取り止めに追い込まれた。

北朝鮮の仕業と断定―米大統領
 このような推移に、オバマ大統領は素早く動いた。昨年12月19日には、米連邦捜査局FBIの捜査で、ソニーへのサイバー攻撃が北朝鮮の犯行だったことが判明したと断定し、「相応の適切な措置」を取ると警告した。また、ソニーが映画の公開を中止したことを批判するとともに、北朝鮮の行動は「表現の自由」の侵害だと断じた。さらに、同大統領は北朝鮮の「テロ支援国」再指定にも言及、強硬な姿勢を示した。
 これに北朝鮮は関与を否定するとともに、米朝による合同調査を提案した。その直後に、北朝鮮内でインターネット回線が長時間にわたり接続不能になるといった事態が発生、米国の報復攻撃かと憶測を呼んだ。だが、その原因は不明のままとなっている。
 このような中で、オバマ大統領は今年1月2日、サイバー攻撃を理由に、北朝鮮政府と労働党に制裁を科すことを認める大統領令に署名した。米財務省はこれを受けて、北朝鮮の・情報・工作機関の偵察総局など3団体と10個人を制裁対象に追加指定した。これらの対象には米国内の資産が凍結され、米国人・団体との取引が禁止となる。

 大統領報道官は「今回の措置は(サイバー攻撃への)米国の対応の第一弾だ」と指摘している。このため、北朝鮮の出方次第では、さらに追加措置の可能性がある。他方、主役のソニーは脅迫を受け、当初は公開を中止したが、米政府や世論から、「表現の自由」を守れと批判され、限定的な公開に踏み切った。ネットでの有料配信と一部の劇場での公開だが、前者が好調で、最初の4日間で約18億円の収入を上げた。同社としては過去最高とのこと。劇場収入は3億円強にとどまった。

米朝正常化は大幅後退か
 北朝鮮はこれまでに、核やミサイルの開発を禁じた国連安保理決議違反でかなりの制裁措置を受けており、追加制裁の打撃は深刻だ。特に、出方次第では、更なる追加制裁や「テロ国家指定」の可能性もあり、重圧が増すことになろう。
 ソニー映画問題が深刻化する前には、北朝鮮は中国との「縁切り」で生じた苦境を克服するために、日米との関係修復に乗り出していた。日本とは拉致問題での譲歩、米国とは米国人人質の解放が誘い水だった。
 だが、米国が今回のサイバー攻撃を「安全保障への脅威」と捉え、強硬姿勢に舵を切った。これで当然ながら、オバマ大統領が密かに狙っていた北朝鮮との関係正常化工作は水を差されることになろう。核、ミサイルにサイバー攻撃の問題が加わり、糸をほぐすのは並大抵のことではなかろう。
 北朝鮮は制裁に対し、「我々を弱体化させるどころか、宝剣をより強化し、逆の効果をもたらした」と強く反発している。今後、北朝鮮は、孤立化を脱するためにウクライナ問題で米国との対決姿勢を強めているプーチン大統領のロシアへの接近を加速する可能性もある。だが、それは米国との関係を一層悪化させる恐れがある。

 金正恩氏は今年の「新年の辞」演説の中で、「雰囲気と環境が整うならば、(南北間の)首脳会談も行えない理由はない」と韓国に微笑を投げ掛けた。韓国政府は一応歓迎しながらも、北の本気度については半信半疑の様子だ。
 サイバー攻撃をめぐる米朝関係の緊張は、日本の拉致問題にも微妙な影響を及ぼしかねない。今年は戦後70年、中韓両国には難しい国内事情があり、東アジア情勢は一層の波乱含みが予想され、安倍政権にとっては外交面でも厳しい試練の年となりそうだ。(1月4日)


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