台湾再統一も夢物語の恐れ
香港デモ 
2014
市政12月号
(全国市長会)

 中国に属するが、社会主義と資本主義の二つの相反する制度の共存する香港がこのところ、揺れに揺れている。このいわゆる一国二制度という珍しい政治形態が、今回の混乱の根っこにある。香港政府のトップである行政長官の選挙方法の民主化問題をめぐって、実力行使に出た民主派の団体や支持者たちと香港政府との間で、今年9月以来、激しい駆け引きが続いている。
 警察が当初、強硬姿勢を取り、これにデモ隊側が反発、騒ぎが一層広がった。香港政府の背後に控える中国政府は、デモ隊の行動に極めて警戒的だが、武力鎮圧に踏み切ると、1989年の天安門事件の再来だと国際的に批判されるのを恐れて、なんとか穏便に解決したいようだ。だが、10月末の対話でも双方の主張は平行線を辿り、民主派は「高度な自治」を断固守る構えを崩さない。長期化すれば、大陸への跳ね返りの恐れだけでなく、台湾の再統一という建国以来の夢も水泡に帰しかねない。


子供だましの「普通選挙」

 騒ぎの発端はと言えば、今年の8月31日に、中国全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が2017年の香港の次期行政長官の選挙から、有権者に1人1票での投票を認める「普通選挙」制度を導入するとの決定を下したことにあった。これまでは、香港の行政長官の選挙は、各界から選ばれた代表たちで構成される「選挙委員会」が有権者に代わって選挙する間接選挙制度が採用されていた。だから、素直に考えれば、「普通選挙」への移行は、民主的な選挙への大きな一歩のはずだ。

 ところが、この「普通選挙」には落とし穴があった。いつまでも大陸で共産党の一党独裁に執着し、全人代の代表(議員)も間接選挙で、実質的には共産党の指名した代表の信任投票の枠を出ない状態なのだ。

 香港の行政長官の「普通選挙」もなんと、新たに「指名委員会」という機関を設置し、ここで過半数の支持を得た候補だけが選挙に立候補できるという仕組みを作った。当然ながら、この「指名委員会」の大半が中国政府の息のかかった連中で構成されることは確実なので、これでは、民主派の候補者は立候補さえできなくなるという、まやかしの「普通選挙」制度なのだった。

 一国二制度下で「高度な自治」を享受してきた香港の人々が怒るのはもっともだ。「中心街を占拠しよう」と称する民主派の団体が立ち上がり、これに共鳴した大学生、若者たちが危機感を抱いて結集した。中国による愛国教育を押し返した自負を持つ香港の若者たちだ。この騒動は1997年に香港が英国から中国に返還されてから最悪の混乱状態にまで発展した。一時はデモ隊の数は数万人に達したという。

 香港島の政府庁舎、行政長官オフィスに近い、金融街の中環(セントラル地区)の主要な道路は、これらのデモ隊の手で遮断、占拠され、政治も金融機能も停止状態に陥った。また「東洋の真珠」「百万ドルの夜景」目当てに世界中からやってくる観光客も激減した。

 香港政府は民主派支持者たちの街頭行動が始まった当初、強硬姿勢で対応し、デモ隊に催涙弾を撃ち込んだり、容赦なく逮捕するという強硬姿勢で臨んだが、これがデモ隊の強い反発を招き、逆効果となった。

天安門事件の二の舞を懸念―中国

 香港の10月31日付「明報」が報じたところによると、中国の習近平主席は香港デモについて「天をひっくり返そうとして、中央の支配からの離脱を狙っている。絶対応じられない」と強調したという。警戒を強める中国政府は、治安強化のために昨年末に設立された中央国家安全委員会を中心に香港デモの行方を注意深く検討して、香港にある中国政府の出先機関を通じて、梁振英・行政長官に対応策を逐次指示している。だから、表に出るのは梁長官だが、実権を握っているのは、その背後にいる中国共産党の幹部なのである。

 中国が一番懸念しているのは、やはり、天安門事件の二の舞は絶対避けたいということだろう。最後の手段としては、人民解放軍の投入による鎮圧もありうるが、できればそれは避けたいところだ。だが、混乱が長引くと、インターネットの時代だけに、香港の状況が中国各地に伝播され、民主化や民族独立運動に揺れるあちこちの地域の住民を刺激しかねない。  

 香港の混乱が始まるや、中国政府は中国のマスコミに対して独自報道を禁止し、すべて国営新華社通信の記事を使用するよう指示、報道統制に乗り出したのも、不都合な情報の排除を狙ったものだ。

 しかも、米英など国際社会はデモ隊支持を明確にしており、中国は「内政干渉だ」と反論するのが精一杯だ。香港の混乱の長期化は、習政権には百害あって一利なしという状況だ。

 それに、中国政府がしきりに再統一の呼び掛けを繰り返している台湾への影響も無視できない。習主席は最近、香港と同じ一国二制度による中台の統一に言及しており、香港の混乱は台湾人の対中不信感を増幅しかねない。なにせ、台湾では中国とのサービス貿易協定に反発して、学生たちが今春、立法院(国会)を占拠する騒動に発展したばかりだ。こんな背景を踏まえて、台湾の学生たちは、香港の学生との緊密な連絡を呼び掛けており、香港と台湾の双方の学生の対中共闘の可能性も出てきた。

 10月末に、学生たちと香港政府との対話が実現したが、双方の主張は平行線をたどり、問題の難しさを浮き彫りする格好となった。「日の出の勢い」のはずの習近平政権の対応如何では、香港、さらには台湾の再統一という「中国の夢」の実現がさらに遠ざかる恐れが出てきたように見える。(11月3日)


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