スコットランド独立否決
2014
市政11月号
(全国市長会)

 英国(連合王国)の北部に位置するスコットランドの分離独立の是非を問う住民投票が9月に実施され、独立反対が55・3%、賛成が44・7%という結果に終わり、独立は否決された。投票実施の直前には、賛否が拮抗し、一時は賛成が優勢との報道もあり、世界中が混乱を恐れてざわめいた。だが、結局は、住民は独立した場合のリスクの大きさに懸念を抱き、他民族による支配からの脱却というロマンに流されず、冷静な判断をしたようだ。
 キャメロン英首相は、独立となれば、国家を分裂に導いた元凶の汚名は免れない。このため、独立阻止に奔走、やっと危機を乗り切った。だが、その過程で、賛成派の切り崩しに、税制、福祉などでスコットランドへの大幅な権限移譲を約束した。これには、身内の保守党内からも批判があり、同首相は今後、苦しい立場に追い込まれそうだ。 


大きな経済的懸念
 現在の英国は諸民族の長い戦いの歴史の中で、最終的に、イングランドを中心にウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4つの「国」から構成される「連合王国」である。一応、まとまった一体感はあるものの、英国政府や中核のイングランド(英国人口の約85%近くが住む)に対しては、その他の構成国では被支配者意識が強く残っており、時折、その不満が顔を出す。

 今回の住民投票は、このような複雑な事情を背景に実施されたわけだが、実施に合意したのは2年前のことだ。その立役者は自治政府のトップであるスコットランド民族党のサモンド党首とキャメロン首相だった。同首相としては、独立を強く主張してきた民族党が前年のスコットランド議会選挙で過半数を占めたことから、早めに独立の芽を摘み取ろうと策してのことだった。

 実際のところ、当時は住民の間ではそれほど独立を望む機運は高くはなかった。ところが、実施までに長期間の猶予が設定されたことから、民族党が懸命に住民に働き掛け、独立意識が高まったのだ。このため、保守党陣営からは、実施までにそんなに長い期間を置いた首相の戦略的なミスを指摘する声も多かった。

 結局は、独立したら、企業が一斉に逃げ出し、雇用が減少し、経済が停滞しかねないとの懸念を払拭できなかった。これが決め手となったようだ。独立は否決され、それも、反対が賛成を約10ポイントも上回ったのだ。これでキャメロン首相は面子を保ったが、民族党のサモンド党首は人生最大の賭けに失敗、辞意を表明した。

キャメロン首相の憂鬱
 これで英国は国際的な地位も維持し、一時は売り圧力に晒されたポンド相場も安定を取り戻した。だから、表面から見る限り、英国はこれまでと何も変わっていないかのような印象を与える。

 ところが、水面下では政治的な地殻変動が起こっており、英国は今後、中央集権から地方分権化の方向に焦点が移ることになりそうだ。これは住民投票で独立派が優勢との報に、キャメロン首相がその切り崩しに、スコットランドへの大幅な権限委譲を約束したからだ。その他の主要政党である労働、自由民主の両党もこれに追随した。

 キャメロン首相が今後やるべき仕事は、振り出した高額の手形をちゃんと落とすことである。他の政党の党首もこれに共鳴したが、首相である以上、キャメロン氏に実行責任が重くのしかかってくる。他のイングランド、ウェールズ、北アイルランドにも権限移譲の恩恵を与えなければ、納得しないだろう。その複雑な調整の難しさは並大抵ではなく、身内の保守党内からも首相批判がある。

 来年5月には、英国で総選挙が実施される予定であり、時間は限られている。それまでに権限委譲を履行することはまず不可能だろうが、総選挙では権限委譲問題が最大の争点になることは間違いない。だから、すべての有権者に受け入れられる分権提案をまとめ上げて、それをひっ提げて選挙に臨まなければならない。これからが大変な仕事になる。

その他の国々への影響も
 スコットランドの住民投票で独立が否決されても、45%近くの有権者が賛成したという事実は残り、他国の分離・独立を考えている都市や州や省を力づけたことは間違いない。それだけに、そのような動きを阻止しようとしている中央政府と独立を望む地方との対立は一層激化しそうだ。

 独立したいので、住民投票を、などと言っても、そんなことは想定外とか、法的に許されないとして、門前払いを食わす中央政府もあるだろう。

 欧州でその挙動が一番注目されているのは、スペインのカタルーニャ自治州だ。州政府は11月9日に分離・独立の是非を問う住民投票の実施を宣言した。だが、憲法裁判所は中央政府の訴えを受け、当面はこれを差し止めるよう命じた。

 また、カナダのフランス語圏のケベック州が前々から分離・独立の運動を続けている。1995年には住民投票で賛成49・44反対50・56 と僅差で否決された。最近は下火になっているというが、英国での動きによって刺激を受ける可能性もある。

 これらと比べて、より深刻なのは中国である。特に、新疆ウィグルやチベット両自治区では、中央の厳しい警戒をかいくぐり、分離独立運動が先鋭化している。最近は、両自治区で過激派による爆弾事件が頻発、多数の死傷者が出ている。当然ながら、北京中央は住民投票など認めるはずもなく、政府の管理下にある中国のマスコミは、スコットランドの住民投票についてしきりに否定的な論評を掲載している。(10月3日)


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