印・ネシア
両国に異色の新指導者
2014
市政10月号
(全国市長会)

 人口で世界トップテンの上位に入るインド(2位)とインドネシア(4位)―このアジアの両大国の選挙で、政権交替が実現した。アジアは今や世界で経済的に最も活気のある地域だが、同時に、米国と並ぶ経済大国、中国のこわもての海洋進出政策により、全域で緊張が高まっている。   インドとインドネシア両国は中東の石油を極東に輸送するシーレーンの要所であるインド洋やマラッカ海峡を扼する位置にあり、いわば、中国の生命線を握る。現在、中国はインド洋沿岸一帯に「真珠の首飾り」と称される一連の港湾の獲得や整備に奔走するとともに、南シナ海全域に領有権の主張を展開し、沿岸諸国に深刻な脅威を及ぼしている。
 この点で両国は日本とも中国の覇権主義への対処という共通の悩みを有するわけで、日本政府は今回の政権交替を契機に、協力関係を一層深めるよう積極的な働きかけが必要となりそうだ。両国の新しい指導者は共に貧しい家庭の出身で、地方の首長として頭角を現し、中央政界のトップに上り詰めた異色の人物である。


親日モディ首相が登場―インド
 インドの総選挙(下院選挙、定数545)は今春実施され、5月中旬の開票の結果、最大野党で保守のヒンズー至上主義を党是とするインド人民党が単独で過半数を上回る議席を獲得し、最大与党の国民会議派に圧勝した。インドで伝統のある国民会議派の獲得議席数はなんと40議席前後に落ち込み、目を覆いたくなるほどの惨敗だった。この結果、人民党が10年ぶりに政権を奪回、同党のナレンドラ・モディ氏(63=グジャラート州首相)が新首相に就任した。
 単独過半数の勝利は、なんと30年振りのことである。名門に胡坐をかいてきた与党国民会議派の油断と経済政策の失敗に加え、汚職の蔓延が有権者の信頼を裏切り、大敗北を招いた。それと対照的に、人民党は西部のグジャラート州で経済の発展に辣腕を発揮したモディ氏を担ぎ、経済不振に悩む国民に経済の再建の夢を売り込んだのである。

 選挙では貧しい家庭の出身だというモディ氏の気取らない庶民的な振る舞いも有権者にアピールしたようだ。だが、問題がないわけではない。ヒンズー至上主義者であるモディ氏は2002年に起こったグジャラート州でのヒンズー教徒によるイスラム教徒約1千人の殺害事件で、州首相としての責任を問われ、欧米諸国は同氏へのビザ発給を拒否してきた。インドのイスラム教徒は人口で1割強だが、隣国のパキスタンはイスラム国だ。このためイスラム教徒との関係が懸念の種となるが、州首相として鍛えた柔軟な現実感覚に期待する向きが多い。

 モディ氏は大の親日家で、日印関係の緊密化に追い風となろう。特に、グジャラート州首相時代の訪日で安倍首相とは肝胆相照らす関係になり、各種日本企業の誘致に熱心だった。こんな背景もあり、モディ首相は8月末に訪日し、安倍首相と旧交を温める。インフラ整備、原子力協定の締結交渉に加え、海洋監視、サイバー攻撃への対処など、中国を意識した安保分野でも、協力強化が期待されている。訪米はこの訪日後に設定されている。

庶民政治家ジョコ氏―インドネシア
 インドネシアはここ10年間、ユドヨノ大統領(退役陸軍大将)の下で、好調な経済と政治的な安定に恵まれてきた。だが、最近は経済成長に陰りも見られ、大きな曲がり角に立っている。7月上旬の次期大統領選挙には、ジョコ・ウィドド・ジャカルタ特別州知事(53)とプラボウォ・スビアント元陸軍戦略予備軍司令官の2人が立候補し、接戦を演じた。結局は当初からのリードを守り切ったジョコ氏が53%の得票率で、プラボウォ候補(得票率47%)を破り、次期大統領に当選した。10月末に就任の予定だ。
 
 ジョコ氏も貧しい家庭出身で、軍とも無関係の地方自治体の市長であり、伝統的に権勢を振るった大物軍人や政治家のエスタブリッシュメントとは無縁の存在だ。ちなみに、対立候補のプラボウォ氏はインドネシアに長年君臨したスハルト元大統領の元女婿でもあり、時が時ならば、当然のように、悠々と当選したであろう人物だった。このためか、未だに敗北を認めず、異議申し立てをしているが、選挙管理委員会からは却下される可能性が高い。インドネシアにも新しい風が吹いている証拠でもある。
 インドネシアはイスラム教徒が大半を占め、一昔前は経済を握る華僑に対する迫害が続いていたが、最近はそんな話を余り耳にしない。ただ、東南アジア諸国連合(ASEAN)の盟主的な存在であり、中国の習近平政権の海洋進出と南シナ海全域の領有権の主張には、海洋国家として深刻な危機感を抱いていることは間違いない。

 ジョコ次期大統領は外交には全くの素人で、その政策ははっきりしない。だが、東シナ海で中国と緊張関係にある日本とは相通じるところが多いと思われる。また、次第に経済的に豊かになりつつあるインドネシアの重要な課題は、今後も順調な経済発展を継続できるかどうかにある。市長として実務経験を積んだジョコ次期大統領は日本との経済協力の必要性も十分承知しているはず、中國も大きな関心を示しており、早急に日本側からパイプを築く努力が必要だろう。(8月3日)


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