尖閣に安保適用 ― 米大統領が明言
2014
市政6月号
(全国市長会)
 

 オバマ米大統領は4月末、日本を皮切りにアジア地域を歴訪、軍事力を背景に海洋覇権をごり押しする中国の脅威に晒されている国々の首脳と会い、支援と協力を約束、米国のアジア回帰を印象付けた。特に、軍事面では、日本に対しては、東シナ海に浮かぶ尖閣諸島が日米安保条約の防衛義務の対象となると明言、フィリピンとは軍事協力協定に調印するなど、具体的な成果を挙げた。だが、経済分野での提携強化を目指す環太平洋経済連携協定(TPP)については、国益がぶつかり合い、大筋合意には至らなかったようだ。
 中国は特に、尖閣への安保適用の明言などに神経を尖らせ強く反発、米国に対抗するため、多国間の協力構想を提唱する構えだ。ただ、オバマ大統領は米国のアジア回帰を強くアピールしながらも、終始、中国を怒らせまいと気配りする姿が印象的で、中国の恫喝に怯える各国の指導者の間に、米中の大国同士の「新しい関係」に一抹の不安を抱かせたとしても不思議ではなかろう。


尖閣は防衛義務と明言
 オバマ大統領の訪日で、日本政府が何よりも重視したのは、東シナ海に浮かぶ沖縄県の尖閣諸島が日米安全保障条約で、米軍の防衛義務を定めた第5条の適用対象になるかどうかだった。周知のように、日本が同諸島を国有化(2012年9月)して以来、中国は周辺海域や、果てには日本の領海内に入り込み、挑発行為を繰り返してきた。しかも、中国は昨年11月、尖閣諸島上空を含めて防空識別圏を設定するなどの敵対的な措置を打ち出した。中国の国際法を無視した傍若無人な恫喝や脅迫行為は目に余るものがあり、日中間に偶発的な軍事紛争が勃発しかねない緊迫した状況にある。

 このような情勢の下で、尖閣諸島を防衛するには、何よりも中国側による尖閣諸島攻撃を予防することが肝心だ。これには米政府による安保条約第5条の適用確約が一番の予防効果がある。これまでのところ、クリントン前国務長官(2010年9月)が先鞭を付け、次いで、ヘーゲル国防、ケリー国務両長官も適用を明言している。しかし、やはり、最高司令官たる大統領からの確約が欲しかった。
 オバマ大統領はこのような日本政府の要請に首を縦に振り、今回の訪日の記者会見で第5条の適用を明言、共同声明にもはっきりとその旨書き込まれた。また、尖閣諸島防衛と密接な関係のある集団自衛権の行使容認についても、安倍政権の立場に支持を表明した。
 さらに、共同声明では「航行及び上空飛行の自由を含む国際法の尊重に基づく海洋秩序を維持」「威嚇、強制又は力による領土または海洋に関する権利を主張するいかなる試みにも反対」すると強調、中国の覇権主義的な行動を強く牽制している。

 このような合意は東シナ海だけでなく、南シナ海でも挑発行動を続ける中国に対して、日本は勿論その他のアジア諸国への強力な支援となることが確実だ。
 オバマ大統領はフィリピン訪問では、将来的に米軍の常駐に道を開く可能性のある米比軍事協力協定にも調印、南シナ海での領有権紛争で中国から恫喝されているフィリピン支援を明確にした。また、米大統領として48年ぶりにマレーシアを訪問、同じく中国との領有権問題に苦しむマレーシア政府との関係改善を図った。

 他方、オバマ大統領は今年11月の中間選挙を控えて、TPPの方は歴訪の際にうまくまとめたかったが、有権者への影響を考えて、なかなか思い切った決断ができなかった面もあるようだ。日本にとっては、農産物や肉類は選挙だけでなく、食糧安保を考えると、そう簡単には、関税をゼロに近くすることには応じられない。オバマ大統領は3選はないので、自分の選挙には心配はない。だが、このところ、内外政策、特に外交面での評価が芳しくなく、支持率が全体的に低迷状態にあり、民主党内から中間選挙では「お荷物」扱いされつつある。中間選挙を乗り切るまでは、安易な譲歩はできない。TPP交渉はかなりいい線まで行っているとの話もあるが、正式発表ができるまでには、双方とも一層の努力が必要となりそうだ。

中国への気遣い目立つ
 オバマ大統領は歴訪した各地で、中国の脅威に直面している各国への支援を口にしながらも、同時に、終始、対中配慮を怠らなかった。訪日の際も、記者会見では、中国に対して真正面から名指しで非難するような光景にはお目にかからなかった。

 東シナ海での日中対立についても、中国非難というよりも、日中間の平和的解決に希望を表明するにとどめた。尖閣への安保条約の適用については、中国との戦争に巻き込まれるのを恐れ、これまで相当渋ったと言われている。
 東京での会見では、オバマ大統領は初めて尖閣への安保条約の適用を認めた点を質問され、「安保適用は新しい判断ではない。同条約は自分が生まれる前に調印され、日本の施政権下の領土が適用対象になっている。これまでの歴代政権の解釈もそうだ」と言ってのけた。日本側からその英断を称賛されるような事態は避けたいという対中配慮なのだろうか。

 尖閣をめぐる日中間の領有権争い自体ついては、大統領は「中立」の立場を堅持した。英国とアルゼンチンとが領有権を争ったフォークランド戦争(1982年)で米国が中立を維持、米英関係は緊張した。だが、これと尖閣諸島問題とでは、米国にとっての意味は異なる。尖閣諸島では米軍は戦後ずっと演習を実施してきた場所なのだ。それでも領有権問題で中立に固執するとなれば、中国に余計な期待を持たせる恐れがあるのではかなろうか。(5月4日)


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