ウクライナから中国が学習したこと
2014
市政5月号
(全国市長会)
 

 ウクライナ問題は、当面のところ、プーチン・ロシア大統領の作戦勝ちに終わったように見える。欧米諸国は同大統領の強引な手法に待ったを掛けようと試みたものの、結局はこれを阻止できなかった。その原因はやはり、盟主たる米国のオバマ政権の弱腰対応にある。ロシアの武力解決を絶対許さないとの断固たる決意がなかったからだ。
 このウクライナ情勢を中国は神経質に見守っていた。その安保面での最大の懸案は、尖閣諸島問題に象徴される南・東シナ海における領有権問題である。ウクライナ問題でのオバマ大統領の優柔不断な姿勢に、習近平総書記が領有権問題を解決する絶好のチャンス到来と判断したとしても不思議ではない。
 安倍首相は、4月末に訪日するオバマ大統領と対中対応で詰めた調整を行い、今後、最高度の警戒態勢を維持する必要がありそうだ。


腰が引けた米欧の対応
 ウクライナの南部に位置するクリミア半島地域へのロシアの野望について、米欧諸国の危機感はそれほど深刻ではなかったようだ。
 だから、プーチン大統領の本気度と比較して、オバマ大統領などの対応は当初から甘かった。3月初めの段階では、米国は投資・貿易交渉、欧州諸国はビザの発給条件の緩和に関する交渉を、各々停止したにとどまった。ロシアがクリミア半島併合で賛否を問う住民投票の実施へと突き進んでも、迫力のない制裁措置でお茶を濁した。

 このところ、欧州諸国のロシアとの経済的な補完関係が緊密化し、下手に制裁を強化したら、逆に自分たちに跳ね返る悪影響の方を懸念するような状況だった。米国も、微妙な状況にある世界経済への配慮もあって、制裁に慎重にならざるを得なかったようだ。

 さらに、ロシアを除く主要7か国(G7)首脳は、ロシアで6月開催予定の主要8か国(G8)首脳会議のキャンセルに加え、G8からのロシアの一時排除を決めた。だが、プーチン大統領は主要20か国・地域(G20)の方に重点を移すことで、G8に挑戦する意図まで表明する始末だ

オバマ外交の評価低下
 ウクライナ紛争で、オバマ外交への評価が一段と低下の兆しが鮮明になってきた。最新の米CBSテレビの世論調査では、オバマ外交を「支持する」がなんと僅か36%、「支持しない」は49%という状態だ。また、今年3月末のAPなどの調査結果では、「支持」は39%、「不支持」は59%というから、オバマ大統領の外交政策への国民からの支持はお粗末至極ということになる。

 後者の調査では、特に、今回のウクライナ対応について、情勢対応が悪いと回答したのが57%、ロシアとのやり取りがまずいと応えたのが54%に達しており、ウクライナ問題への対処が評価を著しく低下させたようだ。ロシアがもっと強硬な措置を取る場合には、制裁を強化すべきだとの意見が50%を占めるが、軍事的に支援すべきだといった意見は少ないというから、国民の間でも対外軍事介入は不人気なのだ。今年11月の中間選挙を控え、オバマ人気の低下は民主党には痛い。

尖閣で中国の動きに警戒を
 中国は今回の「ウクライナ」に関して、冷静な対応を関係各国に呼び掛けた。中国にとって微妙な問題だったからだ。クリミアでの住民投票を無効とする国連安保理の決議に対しては、中国は「内政不干渉の原則を支持し、ウクライナの独立、主権、領土の一体性を尊重する」とロシアを批判しながらも、決議には棄権。中国としては、新疆ウィグル自治区やチベットでの国内の独立運動への影響を懸念したのだ。しかし、ロシアへの制裁には反対の意を表明した。

 オランダのハーグで開催されたオバマ・習近平会談では、米国はウクライナ問題への中国の協力を要請したが、習総書記は必ずしも米国に同調しなかった。ウクライナ問題に絡み、中国にとってのもう一つの主要な関心事は、オバマ大統領がそのアジア重視路線と米中の新たな二大国関係とを如何に調和させるのかという点にあったようだ。

 習近平政権は南・東シナ海の領有権の主張について、絶対に譲ることのできない「核心的な利益」だと主張。この海域での海上覇権の確立を通じて、海洋資源の確保に留まらず、太平洋方面への覇権の拡大につなげたいという遠大な構想に憑りつかれている。最大の障害は日米安保条約を通じての日米の緊密な軍事協力の壁だ。だから、日米の離間工作に全力を挙げている。

 中国が期待を掛けているのが、尖閣諸島に関するオバマ大統領の曖昧な姿勢である。オバマ政権は尖閣諸島が「日本の施政権下にあるので、安保条約の第5条の防衛義務の対象になる」としている。だが、領有権については中立的立場を維持すると繰り返す。こうなると、尖閣諸島が日本の施政権下から外れると、米国の尖閣諸島防衛の義務が消滅するということになる。中国はこの点を鋭く嗅ぎ取っているはずだ。

 そうであれば、習近平政権は先制攻撃で尖閣諸島を中国の施政権下に置けば、米国はもう手出ししないのだと考えるのではなかろうか。中国が執拗なほど、尖閣諸島近海に艦船の派遣を繰り返しているのは、そのような思惑と無関係ではなかろう。

 オバマ大統領の曖昧な姿勢は、米国が中国との戦争に巻き込まれることを懸念した結果だろう。これに、ウクライナ問題でのオバマ政権の優柔不断さを重ねて、習近平総書記はほくそ笑んでいることだろう。韓国の反日朴槿恵大統領とタッグを組み、日本敵視政策を外交戦略の目玉に据えた習政権が、尖閣諸島への先制攻撃の誘惑に駆られないという保証はどこにもないのである(4月4日)


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