ロシア
"
皇帝"プーチン返り咲き
市政11月号
(全国市長会)  

 "ツァー"(ロシア皇帝)ともっぱらの噂である最強の実力者プーチン首相(58)が来年3月に実施されるロシア大統領選挙に出馬することになった。9月末にモスクワで開催された政権与党の「統一ロシア」党大会で、メドベージェフ大統領(46)が一期4年で引退し、同党の大統領選の候補にプーチン首相を推薦したのだ。プーチン首相の全国的な高人気に加え、有力な野党候補が不在であることから、プーチン氏が4年振りに大統領に返り咲くことが確実となった。
メドベージェフ大統領は引退後には、首相に就任する意向を明らかにした。プーチン氏は2008年まで二期8年間大統領を務めたが、憲法で3選が禁止されているため、後任にメドベージェフ第一副首相の大統領選出馬を後押しし、自分は首相に就任、ロシアを二頭体制で支配してきた。
今度はポストの交換という珍しい奇策でトップに復帰するが、大統領の任期は現在、一期6年と改定されている。プーチン氏は大統領に当選すれば、2024年までさらに12年間も大統領職に居座ることになり、「長期独裁」に国民の批判が強まりそうだ。 


 

▽スワップ合意は数年前
 メドベージェフ大統領とプーチン首相の二頭体制が2008年に発足して以来、政界では、この方式は3選禁止の憲法の規定をうまくかいくぐり、プーチン氏が大統領に復帰するための一時避難的な措置と受け取られていた。その際、プーチン氏は当時54歳。4年後になっても、大統領の激務に十分耐えうる年齢だ。だから、暫定的な後任大統領には、プーチン氏の復活を妨げるような力量のある人物を避けることが重要な条件だった。

 そこで選ばれたのが、メドベージェフ氏だった。同じレニングラード(今はサンクトぺテルブルク)大学法学部の後輩で、プーチン氏は政界に入って以来、メドベージェフ氏を終始、側近として重要なポストに抜擢してきた。同氏はインテリ、エネルギッシュ、リベラルで、しかも、側近たちの間で最も独立心のない弱い性格の持ち主だった。この最後の特徴が決定打になったという。

 メドベージェフ氏はプーチン氏が大統領の復活まで席を温めておく身代わり役の大統領に過ぎなかったのだ。だが、大統領職を経験するにつれて、子飼いの部下たちが周囲に集まり、彼らの間でメドベージェフ大統領への期待が高まった。同大統領はいつまでもプーチン首相の操り人形で終わりたくないと思いだし、あわよくば、2012年の大統領選で再選を目指すことも考えたようだ。

 だから、2012年が近付くにつれて、ロシアでは大統領選に一体どちらが立候補するのかといった憶測が憶測を呼び、政界は不安定な空気に包まれていた。
 9月24日の統一ロシアの党大会での演説で、プーチン首相はこのポスト交換案について、当事者同士の間で「すでに数年前に話し合いで決めていた」と内幕を明かして見せた。だが、一部では、プーチン氏の圧力に抗しきれず、メドベージェフ氏がいやいやながらポストの交換を受け入れざるを得なかったとの見方が出ている。

 それまで、プーチン首相は次期大統領選挙を意識して、様々の派手な演出で内外にその存在のアピールに懸命だった。ハーレー・ダビッドソンに乗ったり、深海潜水を試みたり、さらには普通の市民と対話する姿をこれ見よがしにテレビで放映させ、その若さとエネルギー、それに気さくな人柄を国民に印象付けようとしたものだ。

▽強権的な手法に危うさ

 プーチン氏は2000年から2008年まで大統領を務めた第一次政権時代は、持ち前の強権的な手法を駆使して、言論の自由、人権など民主的な価値観を抑圧した。そして、エネルギー価格の高騰に乗じて、豊富な天然ガスや石油などの天然資源をテコに経済力を回復させた。この結果、国民は潤い、支持は高まった。1990年代初めのソ連崩壊によって、当時ロシアは社会混乱と国際的な地盤沈下に苦しんでいた。旧ソ連の諜報機関、国家保安委員会(KGB)上がりのプーチン大統領がこのロシアを復活させ、安定の回復に目覚ましい指導力を発揮したのだ。

 だが、第二次プーチン政権では、事態はそう簡単ではないようだ。未だに、プーチン氏の人気は高いが、次第に陰りが出ている。欧州の経済危機はロシア経済に深刻な影響をもたらしているし、天然資源頼みの経済運営は大きな曲がり角に差し掛かっている。与党統一ロシアとても、盤石とは言えない。現在のロシアは経済の不振、はびこる汚職、中産階級の不満の高まり、チェチェンなど民族紛争の激化で、慢性的な社会不安が深刻化している。

 プーチン、メドベージェフ両氏のポスト交換という手法にも、ロシアの大統領制の権威に泥を塗ったと厳しい非難が出ている。来春にプーチン大統領が実現しても、ロシアの現在の困難な情勢の中で、解決策を見いだせず、強権的な手法が反発を呼んで、事態を悪化させ、社会不安が高まることも予想される。そうなると、せっかく第一次政権時代に築いた国民的な人気と名声も長続きそうにない。

 対外的には、プーチン大統領は強大なロシアの復活に熱心で、欧州諸国は警戒的だ。極東方面に関しては、中国海軍力の目覚ましい増強、民主党政権下の日本の無邪気な安保姿勢など不安定要素が目立つ。プーチン大統領のロシアはこんな動きを睨み、海空軍の存在感を高めて行く可能性があり、日本の戦略観が厳しく問われそうだ。(10月2日)


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