威信低下目立つオバマ米政権
2013
市政12月号
(全国市長会)
 

 新年度の暫定予算の不成立で政府機能の一部停止という事態にはまり込んだオバマ米政権は、アジア地域を中心に全世界で深刻な威信の低下に悩まされている。政府の機能停止の直後には、アジアで3つの重要な会議が予定されており、オバマ大統領は中国の膨張主義の阻止を念頭に打ち出したアジア回帰路線を行動で一層鮮明にする方針だった。それだけに、アジア諸国の期待も大きかったが、オバマ大統領は直前になってアジア歴訪を中止した。政府機能の停止状態の中で、ワシントンを留守にする政治的なマイナス効果を勘案した結論だった。だが、オバマ大統領の不在は、習近平主席ら中国首脳の存在感を高めただけでなく、中国の横暴ぶりに悩むアジア諸国の間で、国内の政治不安に揺れるオバマ政権に対する信頼感の低下を招くという結果を生んでしまった。


米大統領が歴訪中止

 政府機能の一部停止(10月1日)は16年ぶりのことだった。今回は議会のねじれ現象、すなわち、上院は民主党、下院は共和党が多数を握るという難しい政治状況が背景にあった。

 原因は何であれ、連邦政府の約4割に相当する数十万人の職員が自宅待機に追い込まれ、その間は給与も支払われない。政府中枢の財務、商務各省に始まり、国立公園や博物館も閉鎖され、ニューヨーク市の有名な自由の女神像も例外ではなく、多くの観光客が残念がる姿があった。民間も影響なしとは言えない。米国経済が景気後退から脱出する燭光が見えていた時だけに、影響が懸念される。

 機能停止の直後の5日には、オバマ大統領はワシントンを出発して、アジア歴訪に出掛ける予定だった。7日から10日にかけて、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議、環太平洋経済連携協定(TPP)首脳会議、東アジア首脳会議(EAS)と3つの極めて重要な安保、経済関係の会議の開催が予定されていたからだ。

 アジア歴訪はオバマ大統領が2011年に打ち出したアジア重視(PIVOT)政策の推進にとって最優先課題のはずだった。中国の台頭で押され気味のアジア諸国にとっては、領有権問題で中国の「横暴」を抑止できるのは米国だけだとの期待がある。米国としても発展著しいアジア地域でのプレゼンスを高める絶好のチャンスである。

 ところが、政府の機能停止という予想外の展開に、オバマ大統領はまさにハムレットの心境に追い込まれた。アジアでの会議はどれも重要だ。だが、国内が危機的な状況に置かれている時に、さんさんと太陽の輝くアジアに出掛ければ、国内の難題をほっぱらかしにしてのんびり外遊している「無責任な」大統領といった非難を浴びかねない。来年秋には、2016年の大統領選挙の前哨戦とも言える、重要な中間選挙がある。追い詰められたオバマ大統領はアジア外交を犠牲にしても、歴訪を断念せざるを得ないと判断したのだ。

中国が大はしゃぎ

 これを見て、大喜びしたのは中国だった。オバマ大統領さえ来なければ、アジアで大きな顔をできるのは、自分たちしかないというわけだ。現在の中国は、経済に陰りは見えるものの、第二の経済大国としての地位は揺るがず、軍事力もアジアでは抜群だ。それに米国債の最大の保有国とあって、鼻息が荒い。

 TPP会議は参加できないが、残りのAPEC,EASの双方の首脳会議では、習近平主席はオバマ大統領の不在をしり目にやりたい放題だったようだ。ケリー国務長官はいたが、さすがに大統領代行格では影が薄い。安倍首相は頑張ったが、軍事力は米国頼みだし、経済力でも中国に押され気味とあって、迫力不足は否めない。

 オバマ大統領の不在はアジア諸国を当惑させた。せっかく、中国に対抗できる抑止力として期待していたのに、直前になって、国内の政治事情でキャンセルではどうしょうもない。米国政府がこんなに機能不全の状況では、今後も米国だけに頼って行くのは危ういという意識さえ生まれたのではなかろうか。

ECや中東でも批判高まる

 この他でも、オバマ政権に対する国際的な批判が最近、増えている。例えば、シリアに対する先制軍事攻撃問題である。アサド政権が国内の反体制派に対し化学兵器を使用したとの疑惑をめぐり、オバマ大統領は9月初め、シリアへの軍事攻撃を予告した。ところが、中露の反対で国連安保理も支持でまとめ切れない上、英国も議会の反対で同調不可能となった。しかも、米国内からも反対の声が大きくなった。

 そこに、プーチン露大統領がアサド政権による化学兵器の廃棄と国際管理の提案を行った。オバマ大統領は渡りに船とこの提案に乗っかり、当初の決断を翻して攻撃を撤回したのだ。

 これに特に怒ったのはサウジアラビアだ。イランに穏健派のロハニ新政権が登場したのを契機に、オバマ大統領は対イラン宥和姿勢に転じた上、今度はシリア攻撃まで撤回したとあって、堪忍袋の緒が切れたようだ。サウジは対米政策を見直す意向とされ、事実、同国は国連安保理の非常任理事国に当選したのに、これを辞退するとまで言い出した。オバマ政権への嫌がらせだ。

 また、メルケル独首相ら世界の指導者35人の米国家安全保障局(NSA)による盗聴事件は、欧州連合(EC)諸国やブラジルなどを憤慨させている。現在の世界では盗聴は米国の専売特許ではない。だが、同盟諸国の首脳まで盗聴対象にするという手法は、如何にもやり過ぎだ。米国に対する国際的な不信感の広がりで、オバマ政権は発足以来最大の苦境に追い込まれている。(11月4日)


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