再び揺れ動く中東諸国
2013
市政8月号
(全国市長会)
 


「アラブの春」からほぼ2年、再び、中東の主要諸国で事態が揺れ動き始めた。
超過激な発言で有名なアフマディネジャド大統領の任期満了に伴って、6月に実施されたイランの大統領選挙で、予想外にも、保守穏健派のハッサン・ロハニ候補(元核交渉責任者=64)が保守強硬派の面々を押さえて勝利した。核交渉に絡む制裁で経済が悪化した上、政府による市民的自由の抑圧などで国内に閉塞感が充満し、有権者の間にイスラム教の価値観を最優先する保守強硬派に対する不満が高まった結果だろう。
また、7月初めには、エジプトのモルシ大統領が経済不振や治安の悪化に不満を抱く若者・世俗派の大規模な反政府デモ攻勢を受けて立ち往生、軍部が介入、解任された。モルシ氏は、自分が依然として大統領だと主張、軍部のクーデターを受け入れるなと国民に呼び掛けており、出身母体のイスラム原理主義組織、ムスリム同胞団の出方次第で、今後、混乱が一層激化するかもしれない。


穏健派ロハニ師が勝利―イラン
今回の大統領選挙には、最終的には6人の候補が出馬した。立候補の意思を表明した穏健派の重鎮ラフサンジャニ元大統領は、事前に候補の資格審査を行う護憲評議会によって、「失格」とされた。出馬を認められたのは、イスラム教の価値観を最優先する最高指導者ハメネイ師の眼鏡にかなう体制内候補だけだった。

投票前のイランの世論調査などで、最有力とされていたのは、保守派のガリバブ・テヘラン市長。これを穏健派のロハニ候補、保守強硬派ジャリリ国家安全保障会議書記の2人の候補が追うという図式だった。

だから、順当に行けば、当局からの支援もあって、穏健派以外の有力候補の中の1人が勝利するはずだった。だが、ロハニ候補が一回目の選挙で最終的に過半数を制し、当選が確定した。

この背景には、人口のほぼ半分を占める若者の間で、既存の政治体制への不満が募り、しかも、ハメネイ最高指導者が穏健派のロハニ候補の出馬を認めたことから、閉塞感を打破できそうな同候補に支持が集まったと言えよう。

ロハニ次期大統領は穏健派だが、1979年のホメイニ師主導のイラン・イスラム革命当時から本流を歩いてきた正統派である。しかも、イスラム教の国家を指導・統治するイスラム法学者だ。それに、ハメネイ最高指導者が穏健派ではあるが、身内の同じイスラム法学者のロハニ師こそ次期大統領に最適と見ていたとの憶測さえある。

では、ロハニ政権はイランを大きく変え、国際的な孤立から脱却できるのか?

同次期大統領は当選後の記者会見で、核開発問題に関連して「緊張状態が高まることを望んでいない」、「対米関係を改善したい」と強調した。だが、ウラン濃縮の停止を拒否すると共に、米国が関係改善を望むなら、イランに核開発の権利を認め、内政干渉を止めなければならないと繰り返した。

ところで、イランでは、外交と安全保障問題に関する決定権は、最高指導者のハメネイ師に属する。だから、核開発や対米関係の問題は、ハメネイ師の判断次第であり、同師を如何に説得できるか、ロハニ師の力量が試される。

軍が大統領を「解任」―エジプト
中東の盟主とされるエジプトでは、初の民主的な選挙で選ばれ、就任1周年を迎えたモルシ大統領が事実上失脚した。就任以来、経済の不振や治安情勢の悪化を招いた上に、何ら効果的な対策を打ち出せないモルシ大統領を見限った若者、世俗派、リベラル派などの大衆がこれを機に、「アラブの春」の舞台だったカイロ中心部のタハリール広場に集結し、大統領に辞任を要求した。

これに対して、モルシ大統領は解決策を提示できず、この混乱状態にエジプト軍部が反発して再び政治に介入を決断、7月3日午後5時(日本時間4日午前零時)までの48時間以内に反政府派との間で事態収拾策をまとめるよう最後通告を出した。
だが、同大統領は動かず、期限切れを迎え、ついにシシ国防相兼最高司令官が全国テレビを通じて声明を発表し、@モルシ大統領の解任、A憲法の一時停止、B早期に大統領選挙の実施、Cその間、アドリ・マンスール最高憲法裁判所長官が政権を担当―という方針を発表した。軍部は介入に先立ち、国際原子力機関(IAEA)の前事務局長で、世俗系野党の連合体「国民救済戦線」の改革派指導者のエルバラダイ氏とも意見を交換、協力を依頼した。

モルシ大統領は事実上解任されたが、その後も、自分は依然として大統領だと反論している。エジプトのイスラム原理主義団体として、これまで約80年間にわたり活動を続けてきた輝かしい実績を持つムスリム同胞団とその支持者たちが今後、どう出るかが最大の見所だ。
同胞団があっさりと引き下がるとは思えないが、同組織の内部にも各種の派閥があると言われ、難局に際して、一致団結して、反撃に出ることができるかどうか。同胞団が対決姿勢に固執すれば、反モルシで団結した幅広い諸グループとの間で、内戦状態に発展しかねない。だが、軍部と警察が反モルシで共同戦線を組み、同胞団の指導者層の一斉拘束に乗り出したとも言われ、同胞団が反撃に成功するかどうか、非常に難しい情勢にあるという。

当然ながら、軍部も苦しい状況にある。

他方、オバマ米大統領は対エジプト援助の見直しに言及しながらも、民主的な文民政権の早期復活を求めると述べるにとどまり、モルシ大統領支持の表明はしなかった。エジプトは中東の盟主的存在で、同国の政変は周辺諸国に様々な影響を及ぼす可能性を秘めており、各国はエジプトの動向をじっと見守っている。(7月4日)


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