日露接近には対中牽制の狙い
2013
市政6月号
(全国市長会)
 


安倍首相は4月末、現職首相として10年ぶりにロシアを公式訪問、プーチン大統領とじっくりと首脳会談を行った。共同声明によると、首脳レベルの定期的な相互交流と共に、長年にわたり棚ざらし状態の平和条約の締結を実現し、北方領土の返還問題の解決を加速することで意見が一致した。また、広範な経済協力の推進に加え、外務・防衛閣僚会議(「2プラス2」)の定期協議の開催にも合意、両国間で安全保障問題にまで踏み込んで話し合うという、日露間にしては異例の展開となった。双方とも表向きには一切言及してはいないが、中国の不気味な影こそ、根深い不信感を持つ両国を接近させた原因であるように見える。


安倍首相の政権運営を評価
前回、現職として訪露したのは小泉首相(2003年)だった。その後、首相の訪露がなかったのは、日本の政治の不安的化と無縁ではなかろう。今回、それが実現したのは、安倍首相の野心的な政権運営を評価したからだろう。長期的なデフレからの脱却を目指す大胆な金融・経済政策でロケットスタートして、ロシア側は長期政権間違いなしと踏み、信頼関係の強化が得策と乗り出したのだ。ここら辺の鋭い政治感覚が中韓のトップとは異なる。

プーチン氏は昨年春の選挙で4年ぶりに大統領に復帰した。事情は違うが、安倍首相と似ている。大統領の任期が1期6年に延長されたお蔭で、今度は、2期12年、なんと2024年までトップに居座ることができるのだ。両首脳は長期政権を維持する可能性がかなりあり、北方領土問題の円満解決も夢ではないかもしれない。

中国を恐れるロシア
プーチン大統領は中国との戦略的な協力を重視してきた。その証拠に、大統領に就任直後の昨年6月に、まず北京を訪れ、戦略協力の深化で合意した。中国側も同様で、習近平総書記も国家主席就任直後の今年3月末、ロシアを訪問した。両国とも米国の圧力に対抗するためで、ロシアには中国の繁栄のおこぼれ頂戴という思惑もある。

だが、外見的には親密に見える両国関係も、蜜月時代は終わり、一皮むけば、今や、深刻な状況が芽生えつつあり、緊張状態に発展する恐れがある。
共産主義華やかなりし頃は、兄貴分の旧ソ連が弟分の中国を指導するという図式だった。だが、これが逆転しかねない状況なのだ。政治の民主化は進んでいないが、経済的に台頭する中国、これに対し、ロシアは民主化は進んだが、政治は不安定で、経済は天然資源頼みの停滞状態が続く。

プーチン政権はシベリアと極東地域の開発を今後の目玉にしているが、今や、中国人がこの地域にどんどん入り込んでおり、中国に乗っ取られかねない状況だ。両国の国境問題は一応解決済みだとされるが、南・東シナ海などでの領有権をめぐる中国一流のやり口を見ると、国境画定は不平等条約の産物だなどと中国が将来ごね出す恐れが十分ある。

しかも、中露間に新たな摩擦の種が浮上している。気候温暖化で氷が解け出し、北極海航路が欧州とアジアを結ぶ最短のルート(従来のマラッカ海峡経由よりも約7千キロ、所要時間約2週間短縮できる)として脚光を浴び始めたのだ。それに、この海域一帯に豊富な各種の天然資源が眠っているというのだ。中国がこれに触手を伸ばし始めたのだ。北極海地域の政策を決定するのは「北極評議会(北欧諸国、米露など8か国で構成)」だが、中国は常設オブザーバーの地位を獲得しようと画策に懸命となっている。中国の北極海進出が強まると、オホーツク海でも中国のプレゼンスが高まるとロシアの懸念は高まるばかりだ。

中国包囲網
プーチン大統領が安倍首相に大きな期待を抱いた背景には、こんな中露関係の危うさへの懸念があるようだ。シベリアや極東地域の開発には、技術力のない中国と組むよりは、各種の高度な先端技術力を誇る日本の企業と投資を誘致する方がずっとプラスだ。しかも、膨大な人口が溢れる陸続きの軍事大国中国とは違って、日本なら安心だ。

首脳会談で、安全保障、防衛分野の協力の拡大を図るために外務・防衛閣僚会議(いわゆる「2プラス2」)の設置で合意したのは、対中牽制で双方の利害が一致したのだ。日本が「2プラス2」を開催しているのは、米豪の2国だけで、ロシアとも「2プラス2」と言うと、しっくり来ないが、中国対応だとなると、腑に落ちる。しかも、日本の外務省とロシアの大統領直属機関である安全保障会議事務局との定期協議も実施される。

それに、防衛当局の対話と協力を強化し、北極海についても2国間協力を推進するとも明記している。こうなると、中心となる米国に加え、北方のロシア、西のインド、東の日本、南のベトナムなどの東南アジア諸国連合(ASEAN)や豪州と、四方八方からの中国包囲網が出来上がる。中国も膨張主義一本槍とは行かなくなるだろう。

北方領土問題は?
戦後長年にわたり日露間に刺さったトゲとなっている北方領土問題の解決は今後もいばらの道だろう。ロシアは北方領土での開発事業を推進するなど違法な占領を固定化するような動きも見せている。ロシア住民の北方領土への愛着心も高まるし、一旦、手にした領土の返還となると、国民を宥めるのは大変だ。返還交渉をまとめ上げるには、双方が互いに譲り合わなければならないだろう。日露双方に強力な長期安定政権が続くことが、領土問題解決の必要条件となると言えよう。(5月6日)


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